私の我儘
10/15 0:41修正しました。
辻褄が合わない所があったのでかなり修正しています。
申し訳ないです。
ディオンの言葉に目を瞬かせる。
――言って……いなかった、かしら……?
言ったような気がして首を傾げると、その様子を見ていたディオンが苦く笑った。
「……フィア、王妃陛下が来てくれる事は伝えてくれたけど王妃陛下から連絡が来たっていう話は初耳だよ?」
ディオンのその言葉によくよく思い返してみる。
「……確かに……言っていないわ……」
「そうだろう?俺もどうして王妃陛下が来るのか知っていたか聞けばよかったけど……色々忙しくて忘れていたな……」
ディオンは軽く息を吐きながら、さらりと私の髪を梳く。
私が目を覚ましてから主治医であるカーティス先生が体調に問題がないか確認したあと、ディオンはまず私に聞き取りをした。それは夜会の際の体調変化の聞き取りだった。
『こんなことは二度とないからどんな風に身体に変化があったか聞いておかないと……』と苦々しい顔をしながら私の体調の変化を聞いていた。
私の体調を考慮しながら聞き取り、それを元に医療薬師長であるフェリクス様への報告書を作成していた。
そして夜会から一週間経った今日には王家との話し合いだ。王妃陛下のことまで詳しく話す暇がなかった。
ディオンは忙しかったのだから私が気づくべきだったと思い肩を落とすと、ディオンはそんな私を抱き上げて膝の上に乗せた。
「でぃ、ディー!?」
流石に恥ずかしくて顔に熱が集まる。ディオンはよく膝の上に座らせてくれるけれど、なかなか慣れるものではない。
「そんな顔しないでくれ、フィア。俺が聞かなったのが悪いから」
そう言って頬を撫でられる。膝の上に座るとディオンの顔がいつもより近くて心臓の鼓動が速くなる。
「そんなことないわ……。私も言ったと思いこんでいたもの……」
「王妃陛下が来ることを伝える時に言ったと思ったんだろう?あの時は……フィアがすごく頑張ってくれたあとだったから」
ディオンの顔に少し陰が落ちる。私が……息を止めてしまったのを思い出してしまったのだろうか。
「俺、フィアに謝らないといけない。実はあの時、俺はフィアに嘘を吐いてしまったんだ」
「え?」
ディオンは息を一つ吐いて私の丸くなった目を見つめる。
「ごめん、フィア。本当はあの時、フィアが言った言葉全部は聞こえていなかったんだ。ただフィアに無理させたくなかったから、フィアの伝えたいだろうことに頷いただけで……。王妃陛下が来た時にやっとフィアが言おうとしていたことに気づいたんだ」
眉を下げるディオンに驚く。
ディオンが頷いてくれたから聞こえていなかったとは思っていなかった。
ぽすんと申し訳なさそうにしているディオンの胸に倒れる。
「ううん、いいの。ディーが頷いてくれたお陰で私は安心して眠れたもの」
「フィア……」
ディオンを見ながら微笑む。
「ディオンにちゃんと説明するわね。王妃陛下から私に接触があったの。確か……オズウェル第二王子殿下が来る少し前……その……ちょうど、治験薬を使い切っちゃった時ぐらいに……」
驚くディオンに説明を続ける。
「恐らく私の魔力が王宮内に満ちてきたから気づかれたのだと思うわ。それで……魔力を通じてやり取りをさせていただいたの。そうしたら王妃陛下がこちらにいらっしゃるって仰ったから……。私、なるべく時間を稼ごうとしていたのよ。王妃陛下が来てくだされば……あの茶番も終わると思って……」
「なるほど……。だからフィアは王妃陛下が来ることを知っていたんだな。……それにしても……『茶番』、か。その通りだな」
ディオンが苦々しく笑う。その辛そうなディオンの頬に手を伸ばして撫でると、ふっと顔が緩んだ。
それでもディオンの顔に浮かんでいるのは、後悔。
ディオンの気持ちを少しでも軽くしたくて私は自分の決意を伝える。
「ディー。私はね、ディーの傍から離れてあげないわ。ディーが離れようとしても私が連れ戻すから……だから、大丈夫よ」
一緒の目線にあるディオンの額にコツンと私の額を当てる。ディオンの空色の瞳が美しく煌めく。
くしゃっと歪んだ顔は今にも泣き出しそうだ。
「ごめん、ごめんフィア。俺、フィアを信じきれなかった。ちゃんと話すべきだったんだ。それで一緒に考えるべきだった」
私を支えているディオンの腕に力が入る。
「うん。信じてほしかったわ。でもね、私も悪かったの」
「そんなこと……!」
「だって……私、ディーを問い詰めなかったもの。全部知っていたのに、問い詰めなかったわ」
ディオンが婚約破棄を言い出した時に、問い詰めることはできたのだ。
けれど私はそうしなかった。
「私はね、ディーに覚悟を示していなかったことに気づいたの。ディーにずっと『愛してる』って言ってあげられなかった。だからディーは私と一緒に立ち向かうのではなく、守ることを選択したと思ったの」
「それは違う!俺が……俺が臆病だったから……!」
ディオンの叫びに首を振る。
「ううん、そうなのよ。だから私はね、誰にもディーの隣は渡さないって示しに行ったの。あれはね、私の我儘なの」
頬を両手で包んで微笑む。
「愛してるわ、ディー。怖い思いさせちゃってごめんね」
煌めいた空色の目が潤む。その瞳に熱が籠もる。
「俺も愛してる。愛してるんだ、フィア。臆病でごめん。でももう絶対に手放さない。二度とフィアの傍を離れたりなんかしない」
涙を流すディオンの空色は綺麗なのに、滲んでしっかりと見られない。
近くてぼやけるディオンの顔。温かいディオンの頬。抱き締めて支えてくれているディオンの腕。何もかも……全てが愛しい。
その熱に浮かされて、するりとディオンの頬を撫でた。
ディオンの手がそっと私の頬に添えられる。
「フィア」
甘い声で私を呼んだディオン。更に近づく距離に目を瞑る。
吐息が唇を撫でた、その時。
魔力が混じる気配がして、慌ててディオンの唇を手で塞ぐ。
「フィア?」
名を呼ぶ声は先程の甘い声とは違って不満を露わにしている。
塞いでいる手にわざと口付けられて顔が赤く染まった。
「フィア。この手どかしてほしいな」
その言葉と共に再び手に口付けられる。思わず頷きそうになるけれど、それはできない。
「だ、だめ!もうすぐ王妃陛下がいらっしゃるから……!」
私の言葉にディオンが目を見開いたと同時に、扉が叩かれた。




