魔法と魔力
微睡みそうになるけれど、ここで眠ってはいけないだろう。
私はディオンの顔を見上げて反論を試みる。
「そ、そもそも体内魔力から発動した魔法しか弾かれない、という構造は欠陥だと思うの!」
私のように体外魔力を使える人間からしたら情報取り放題で心配になる程である。
ディオンは呆れたような息を吐く。
「フィア、よく思い出して。オズウェル第二王子殿下はフィアのその言葉を肯定していないよね?たぶん阻害魔法は対象魔法を指定しているんだと思うよ。映写魔法は阻害魔法の対象外だ。俺のタイピンに入っている映写魔法も発動できるしね。それに魔法発動を対象にしていたら許可を取って持ち込んでいる魔導具まで除外になる。魔導具まで除外になるのは現実的ではないよ。フィアがつけてるこの魔石みたいに、自分の安全の為に必要な魔導具を持っている人も多いんだ」
ディオンはとん、と指で魔石を叩く。その魔石はディオンからもらった魔力変換魔法の術式が入ったブローチ。首元のリボンにつけているブローチがディオンに押されて揺れている。
ディオンの指を見ながら少し考えて口を開く。
「それならどうしてオズウェル第二王子殿下に発動できたか聞かれたの?」
「んー……たぶんあんな大規模魔法は魔力量で弾かれるようになっていたんじゃないか?だから聞かれたんだ。それで体外に放出した魔力を使ったって聞いて、阻害魔法にかからなかったことに納得されたんだろう。でも他の危険性のある魔法は魔力量ではなく術式自体を指定しているはずだ」
ディオンがブローチを親指で優しく撫でながら言ってくる。じっとブローチを見ている、ブローチの魔石と同じ空色の瞳は嬉しそうだ。
――私も……ディーが私が贈ったタイピンつけているの、嬉しいけれど……。
鎖骨の少し上にブローチがあるので、なんだか恥ずかしい気持ちが湧く。
ディオンの首元を見る。私の色である若葉色のタイピンが首元で輝いていた。
「……私、今集音魔法も周囲を見る魔法も発動できてしまっているけれど……たぶん本来は阻害魔法で阻害されるはずなのね……」
ディオンの説明によるとそのはずだ。なぜ発動できているのだろうと、こてんと首を傾げる。
ディオンはブローチから顔を上げて私を見つめる。優しく私の頬に手を添えたディオンは難しい顔だ。
「その魔法が阻害魔法に入ってない、なんてことないだろうからね……。……正直フィアが意識さえもしていないのなら……一つ可能性として考えられることはあるけれど……」
「え、どんな可能性?」
目を丸くして問いかけると、ディオンは遠い目をした。
――これは……私がやらかしている時のディオンの目だわ……。
そんなにやらかしているのだろうか。しかし無意識なのでどうしようもないと思う。
「……フィアが……王宮に張ってある阻害魔法を無効化できるほど、圧倒的な魔力を持っている可能性だよ……」
ポツリと落とされたディオンの答えに私は目を見開いた。
「え、え……?でも王宮に張ってあるような大規模な魔法は何十人もの魔術師が魔力を籠めて作り上げるからそんなことは不可能……な、はずよね?」
困惑しながら恐る恐るディオンに聞き返すと首を振られてしまう。
「そのはず、なんだけどね。でもフィアの魔法が阻害魔法にかからず、抜け道を使った意識もなくどんな魔法も使えるのなら……その可能性の方が高いよ。……フィア、周囲を見てるって言ってたけど、どこまで見えているんだ?」
ディオンの空色の目が私を逃さないように捉える。ちょっと逃げ出したいな、なんて思ったけれどたぶん答えるまで逃してはくれないだろう。今でもずっと抱き締められているのだから、逃れようとしても無駄な抵抗にしかならない。
それでもそっと目は逸らす。
「ええっと……王宮内なら……どこまでも……?」
私の言葉に大きく溜め息を吐いたディオンに少しバツが悪くなって口を尖らせる。
「でも私よりも王妃陛下の魔力の方が上だもの……。王家の方々の居住空間辺りは王妃陛下の魔力に覆われているから一切見えないし、王妃陛下の方から私に接触があって……」
「フィア」
その声は俺を見ろという強い意志が込められているようだった。こくりと息を飲んで、ゆっくりと顔を上げる。
「俺、その話は初耳なんだけど?」
空色の目が私の若葉色の目を逃さないように捕らえていた。




