ディーの心
王宮のソファーの上でディオンに抱き締められながら思い返した記憶に頬を膨らます。
――やっぱりディーにあんなに怒られたのは納得いかないわ。
そうしていると、つん、と指で頬をつつかれた。
「フィア、また俺が怒ったのを思い出して拗ねてるのか?」
苦笑するディオンに不貞腐れているだろう顔を向ける。
「だってやっぱり納得いかないもの。私すっごく頑張ったのよ?」
むうっとしながらディオンの胸を叩く。ディオンは優しく私の手を握りながら抱き寄せる。
「フィアが頑張ったのはわかってる。でも息を止めたのは心臓が凍るかと思ったんだよ。…………すごく、怖かったんだ」
私を抱き寄せるディオンの手が震えている。その震えで私はやっと気づく。
――……そっか……。ディーは……怖かったのね……。
ディオンは、私がいなくなるかもしれないと思ってしまったのだ。
「走馬燈みたいに映写魔法を展開して……今まで言われたことがなかった……『愛してる』まで言われて……俺、俺は……!」
ぐっと力強く抱き締めるディオンは、まるで私の存在を確かめるようだった。
私はディオンを抱き締め返す。
「ごめんね、ディー。怖かったのね……。大丈夫よ、ディー。私はディーのお陰で生きているの。ディーが救ってくれたから、絶対にディーの隣で生きるのを諦めないって決めたの」
ディオンが私の肩に埋めていた顔をゆっくりと上げる。
その顔は不安に染まっている。両手で優しくディオンの頬を包む。
「ディー、私はここにいるわ。そして……ずっと貴方の隣で生きていくの」
空色の目が潤む。
「フィア……俺も、俺も……ずっと君の隣で生きていくよ」
くしゃっと泣きそうな顔で笑ったディオンに私は笑みを浮かべる。そしてディオンの胸に身を預けた。ディオンはそんな私の髪を撫でてキスをする。
――もう、相変わらずディーはすぐにこういうことしちゃうんだから……。
少し恥ずかしくなってディオンの胸に顔を埋めた。ディオンの服を掴んで擦り寄る。
「ディー……あの時はどうやって生きようか必死になってて……ディーの気持ちまで考えられなくてごめんなさい。私の息が止まるなんて怖いわよね……」
私も……ディオンの息が止まったらと考えると……恐ろしくて心の底が凍える。
「ううん。フィアが必死だったのはわかってるんだ……。ただ……怖かったから、もう二度としてほしくなくて怒っちゃったんだよ。今度は絶対にフィアの傍から離れたりしないから、無茶しないでくれ」
ディオンが私の頭に頬を擦り寄せて頼んでくる。その声は懇願するように震えていた。
「うん……。ディーが傍にいてくれるなら、無茶はしないわ。……それに七つ同時展開のコツも掴んだもの」
最後にぽそりと付け加えると、大きな溜め息がディオンから漏れた。
「……フィア。それは無茶をしないって言わない。あとね、フィア。俺に内緒で複合魔法を同時展開する練習していただろう?」
じとりとこちらを見た空色の目から逃れるように他を向く。
「……えーと……」
「誤魔化そうとしても無駄だよ、フィア。いくらフィアが稀代の大天才とはいえいきなり七つ同時は無理だろう?最初は二つしかできていなかったんだ」
目を彷徨わせてなんとか追及を逃れようとする。そしていい方便を思いつく。
「ディー、ここは王宮だからその話は……」
「フィア、俺が気づいてないと思ってるのか?フィアは集音魔法や周囲を見る魔法を展開して誰もいないか確かめているだろう?防音魔法も張っているかな?」
周囲を見渡しながら言ったディオンの言葉に肩が跳ねる。
「ふ、その反応で丸わかりだ。フィアにとっては王宮に張ってある阻害魔法なんて、ないようなものなんだろ?」
ディオンの追求に思わず目を逸らす。
するりと指で頬を撫でられ、その指に誘導されるようにディオンと目を合わせる。ディオンは確信したような笑みを浮かべていた。
その笑みが少し大人っぽくて心臓が跳ねる。唇に力を入れて、息を吐く。
「だって……普通に魔法使えちゃうんだもの……」
大人しく観念すればディオンはふっと笑う。
「はー……やっぱりとんでもないな、フィアは」
呆れたような優しい声の持ち主は、私の髪を緩く撫でていく。
その手に気持ちよさを感じながら目を閉じた。
まだ誰も近くにはいない。




