―王妃陛下―
ざわついていた会場を王妃陛下の銀の目が見渡すと途端に静かになった。
そして王妃陛下がオズウェル第二王子殿下達がいる壇上に降りてくる。階段をゆっくり降りる王妃陛下は病で臥せっていたことを感じさせない威厳を纏う。
いつの間にか壇上に王宮医療薬師長であるフェリクス様と宰相閣下がいた。
ごくりと息を呑む。
階段を降りきった王妃陛下は泰然とした笑みを浮かべ、会場の皆に目を向けた。
「皆の者、長く公に姿を見せず心配をかけましたね。ご覧の通り私は回復しています。これからはこうした公の場で会うことも増えましょう」
その王妃陛下の言葉に会場が湧く。
長らく病に臥せっているとされていた王妃陛下の元気な姿に皆安心したのだろう。
その湧いた会場に厳かな王妃陛下の声が響く。
「さて、私が急遽この夜会に出席したのは国王陛下や私が預かり知らぬことが行われたと報告されたからなのです」
王妃陛下の言葉に沈黙が落ちる。
物言わぬ観衆の目はオズウェル第二王子殿下に向いた。
「オズウェル、アデライン。私に説明してくれますね?」
そのオズウェル第二王子殿下と揃いの銀の目が、冷たく彼等を捉えた。
「ああ、でもその前に。ディオン・ユーフィリウム、その体勢では辛いでしょう。フィーリア嬢を王宮の医務室に運びましょうか?」
水を向けられた俺は驚きに肩を揺らす。その銀の目は、思っていたよりも優しく俺を映している。
抱えているフィーリアを見る。
――俺とフィアの婚約破棄の件が関わっている以上、この場に俺はいなければいけないんだが……。
フィーリアを横にしたいと思う気持ちもある。けれど……フィーリアはさっき危険に陥ったばかりだ。
俺の傍から離れてしまうのが恐ろしい。
「……先程あのような事が起きたばかりでしたね。今は離れるのが怖いでしょう。わかりました。ディオン・ユーフィリウムとダートン・トルメリア、アイリス・ユーフィリウムにソファーと椅子を」
俺の逡巡を悟った王妃陛下は控えていた従者に命ずる。
俺とフィーリアにソファー。ダートン様と母にも椅子がすぐに用意された。
「さあ、お座りなさい」
優しく促され、俺は礼をする。
「ご配慮ありがとうございます。座らせていただきます」
王妃陛下が頷いたのを見てから座る。フィーリアをソファーに横たわらせ、頭を俺の膝の上に乗せる。上着を脱いでフィーリアに掛けておく。
――俺の膝は固いけど我慢してくれ、フィア。傍を離れたくないんだ。
蜂蜜色の頭を優しく撫でてから王妃陛下へと視線を戻す。その銀の瞳は優しい色をしているように見えた。
ダートン様と母も礼を言ってから座る。王妃陛下に勧められたら座らない訳にもいかない。それに二人共魔力をフィーリアに渡して疲れていただろうからちょうどよいだろう。
「さあ、では聞きましょうかオズウェル。なぜ魔力循環不全漏出症の治験薬の製造を停止しようとしたのです?」
ざわりと揺らぐ会場。
治験薬の製造停止のことは一部しか知らないだろう。治験薬の被験者はフィーリアと……王妃陛下の二人しかいなかった。
そして先程のフィーリアの騒動。恐らく皆、治験薬がないとフィーリアが……儚くなることを理解したはずだ。
オズウェル第二王子殿下は沈黙したままだ。
「……オズウェル、アデライン。そして皆にも言っておりませんでしたが、私はそこにいるフィーリア嬢と同じ病……魔力循環不全漏出症です」
その言葉に息を呑んだのは何人いただろう。
つまり治験薬の製造停止は王妃陛下の病の薬を止めようとしたと同義だということだ。
「フェリクス医療薬師長、そしてそこにいるディオン・ユーフィリウムの献身により私はここまで回復するに至りました。フィーリア嬢も貴重な症例として率先してフェリクス達の研究に協力してくれたと聞いています」
優しい目が俺とフィーリアに向けられている。
――フィア、よかったな。王妃陛下からお褒めの言葉を頂いたよ。
頬を撫でると少し眉を動かした。少し触り過ぎただろうかと思ってすぐ手を離す。するとまた安心したような顔になる。
「王妃である私の病治療に貢献したディオンとフィーリア嬢に……オズウェル、貴方は何を突きつけたのかしら?」
銀の目が凍てつくような冷たさを持ってオズウェル第二王子殿下に注がれた。
オズウェル第二王子殿下はその瞳を見返して少しだけ口端を上げた。




