―問い掛け―
「さあ、ディオン。なんでも答えてくれるのだろう?」
感情を見せない銀の目が俺を捉える。
「ええ、私に分かることでしたら」
オズウェル第二王子殿下の鋭い目に怯むことなく、俺は微笑んで見せた。
すると殿下は少し楽しそうに笑う。
「フィーリア嬢の献身に応じてあの能力を隠していたことは咎めないでおこう。確かにフィーリア嬢のその様子では王家からの要請と言えど外に出ることは憚られるだろう」
すっと目を細める。
妙に寛大な気がするが、目的が分からない。
――……しかし、この騒動を起こした時点で……オズウェル第二王子殿下の行く末は……。
俺とフィーリアの婚約破棄を勝手にするという事は、国王陛下への叛逆に等しい行為だ。咎めがないなど有り得ない。
「フィーリアの進言を認めていただきありがとうございます」
考えても答えは出ない。俺はにこりと笑いながら殿下の言葉を受け入れた。
「それでディオン。フィーリア嬢は七つ同時に複雑な複合術式を展開し発動していたが、あれは元からか?」
「いえ。先程のはあくまでも緊急事態だった為に行ったことでございます。七つ同時の複合術式展開などフィーリアはしたことがありませんでした。それをするのにフィーリアは呼吸を忘れてまで集中しておりましたので、私が取り乱したのをご覧になっていたでしょう?」
殿下の疑問をしっかりと否定する。
――正直、あんな神話の魔法使いみたいなことを普段からフィアがしてたら心臓がいくつあっても足りない……。
俺の寿命が縮むし、ダートン様、父と母も頭を抱えただろう。
「ふむ、そうだな。あの取り乱しようは演技ではなさそうだった。なに、お前があまりにも自然にフィーリア嬢の術式展開に合わせるのでな」
「あれは治験薬の中でフィーリアが……展開できない術式があるのを知っていたからです」
最もな殿下の疑問に事実を一つ答える。
複合術式の同時展開が七つはできなかったけれど二つぐらいならできていたなどわざわざこちらから言わずともいいだろう。
「ほう?あれだけの魔法を展開することができるのに、か?」
「ええ。フィーリアは何と言いますか……感覚で魔法を使っているので……苦手な魔法があるのです。正直に申し上げますと、フィーリアは初歩魔法である灯火魔法も苦手でうまく展開できません」
フィーリアに怒られそうだが隠していてもどうにもならない。それにできないことがあると認識していてもらった方が変に使われる事もないだろう。
「灯火魔法が、か……。それは……今見た魔法を考えると信じられんな……」
眉を寄せるオズウェル第二王子殿下。後ろの魔術師達もざわついている。
――まあ俺も……フィアが灯火魔法をしくじるなんて思ってなかったしなぁ……。
思わず笑いそうになっていたら可愛い顔で睨まれた。拗ねていたのは可愛かったけれど、ちょっと口を利いてくれなくなったのは堪えた。
腕の中のフィーリアに目を落とすと、少し恨みがましそうな顔をしているような気がする。……たぶん寝ているはずなので気のせいだろう。
「一度王宮医療薬師長であるフェリクス様に灯火魔法を見てもらっています。あれは紛れもないフィーリアの実力でしたので……確認していただければ」
オズウェル第二王子殿下は俺の言葉に目を伏せた。
「……フェリクス医療薬師長は今回の夜会には参加しておらんので今は聞けんな」
その言葉に内心驚く。フェリクス様は医療薬師長という立場だ。このような大規模な夜会に来ていないのは珍しいように思う。
「そうなのですね……。……フィーリアは灯火魔法を自分でも失敗すると思っていなかったようで……当初は慣れていない指から魔力を出して術式を描いたからだと言っていました。ですがいつもと同じように魔力で宙に直接術式を描いても結果は変わりなかったですね。今でも練習しているのですがあまり変わり映えはしません」
フィーリアは灯火魔法を失敗したのがよほど悔しかったのか今でも練習しているのだ。しかしあまり進歩しているようには思えず、フィーリアは難しい顔で術式と向き合っていた。
会場からも灯火魔法が、初歩魔法なのに、あんな難しい術式が展開できるのに……と話す声が聞こえる。俺としてはフィーリアの魔法がいくら凄くてもできないことがあると周知できたのは有り難い。
「ふむ、なるほどな……。その言い様だと嘘ではなさそうだ。フィーリア嬢はできない理由はわかっているのか?」
その問いに俺はフィーリアの言い分を思い出す。
「フィーリアが言うには……モヤモヤしているからできないのだ、と。展開できる術式は……スーッとしているから展開できる、と言っておりました」
俺の言葉に沈黙が降りる。
――……俺はフィアの言葉を再現しただけなんだけどな……。
フィーリア的にはわかりやすく説明したつもりらしい。
「……君達がフィーリア嬢の魔法展開理論を説明できないと言うのもわかるな……」
呆れたような殿下に少し同意してしまう。
――しかし……いつまで悠長に話しているんだ?
まるで何かを待つような殿下。疑問を含んだ目を向けるとオズウェル第二王子殿下は口角を上げた。
「もう少し話してもらうぞ、ディオン」
俺の疑問がわかったかのように話す殿下の言葉に目を丸くする。『もう少し』という言葉は、フィーリアと同じだ。
オズウェル第二王子殿下は……何かを待っている。




