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木漏れ日の下で婚約破棄を希う  作者: 天満月 六花


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54/75

―退けぬ願い―


 まずはすっと頭を下げる。


「オズウェル第二王子殿下、ご配慮くださりありがとうございました。お陰で私の大切な婚約者はこの通り無事でございます」


 フィーリアの健やかに眠る顔を見ながら礼を言う。


 ――オズウェル第二王子殿下もフィアを助ける気はあったみたいだしな……。


 フィーリアがいつの間にか発動していた集音魔法で聞いた殿下の会話。恐らくフィーリアを死なせる気はなかったんだろう。


 ――ということは……もしかすると治験薬の製造も止まってないのか?


 俺はもう既に止まっていると思っていたから急いでいた。すぐにフィーリアに届けられる状態にしなければと焦っていたのだ。

 けれどオズウェル第二王子殿下がフィーリアを死なす気がなかったのだとすれば、元々止めていない可能性はある。


 ――これを仕掛けたのは……フィアを表舞台に出す為、か……?


 しかしフィーリアの性格を知らないオズウェル第二王子殿下がフィーリアが来ることを正確に予測できたのだろうか。


 ――フィアの力を見るのは……あくまでついでか……?


 オズウェル第二王子殿下にはまだ他にも目的があるのではないだろうか。


 深呼吸をする。まだ殿下の目的が分からない以上、気を抜くことはできない。


「よい。私が主催した夜会で事(・)故(・)が起きては敵わんからな。それよりも聞きたいことが多くあるぞ、ディオンよ」


 オズウェル第二王子殿下の言葉に顔を上げる。口端を上げる殿下は不敵な笑みだ。


「私に答えられることでしたらなんでもお答えいたしましょう」


 フィーリアの力のことを聞かれても、俺に答えられることなどたかが知れている。フィーリア自身もなんとなくでしか答えられない理論等俺では説明できない。

 それにフィーリアの言った体調不安があったので王家に言っていなかったという理由は、フィーリア自身が身を持って証明した。

 肝が冷えたどころではなかったけれど、オズウェル第二王子殿下の方が率先して慣習にないことをやっているのだ。咎められても殿下の味方になる貴族の方が少ないだろう。


 だからここは強気にいく。


「その代わりと言ってはなんですがお願いがございます」


 フィーリアを抱き上げたまま笑う。オズウェル第二王子殿下は眉を寄せて息を吐いた。


「……なんだ?」


「一度お受けしたフィーリアとの婚約破棄の件ですが、撤回させていただきます。アデライン王女殿下との婚約も辞退致します」


 少し会場がざわめく。俺があまりにもはっきりと殿下に物申したからだろう。

 けれど、知るものか。


「私と婚約破棄をするまいと、止めに来てくれた婚約者の命(・)を(・)賭(・)し(・)た(・)願いです。婚約者である私がその願いを叶えない訳には参りません」


 『命を賭した』を強調する。


 俺が殿下の命を受け入れずにフィーリアと相談するべきだったのはもう理解している。フィーリアにあとからとことん怒られる気もある。

 けれど、フィーリアの治験薬を止める等と脅してきた殿下への恨みが消える訳ではない。殿下がそんなことをしなければ、フィーリアがここまで危険な状態に陥《おちい》ることはなかったのだ。


 ふと視界の端にアデライン王女殿下を捉えた。その顔は微笑みを浮かべていたように思う。きっと俺がフィーリアの元に二度と戻るつもりがないと言ったからだろう。


 ――フィアには……見透《みす》かされていたけどな……。だから、ここまで俺を止めに来たんだろう?


 抱いているフィーリアの頬を撫でる。穏やかな寝顔だ。俺が頑固でなければこんな事にはならなかったんだろうか。

 ……いや、きっとフィーリアはどんな理由で婚約破棄しようと、俺が戻るつもりであっても……きっと止めに来たのだろう。

 フィーリアも……俺も、お互いのことを誰よりも愛しているから。自分以外が隣に立つことなど、許せる訳がない。


 会場から感嘆するような声が聞こえ始める。素晴らしい愛だ、昔から想い合うお二人なのね、愛を体現したかのような二人だなんだ……と聞こえてくる。


 ……そういえばフィーリアが俺との記憶を映写魔法に映し出していた。あれが走馬燈《そうまとう》のように見えて俺は余計に焦ってしまったのだが。

 その走馬燈のような映写魔法は会場中に展開されていた。だからこの場にいた皆に俺とフィーリアの馴れ初めを見られていたということだ。

 考えると少し恥ずかしい気持ちもあるが、俺とフィーリアの二人を支持してもらえるというのであれば甘んじて受け入れよう。


 ――まぁ……フィアと初めてしたキスとか……いちゃいちゃしてるとこは映していなかったから……まだいいか……。


 もしかしてフィーリアはこうやって俺達の支持に繋がることまで計算に入れていたのだろうか。……そこまで考えていなくても映写魔法だからみんなに見られている、という意識ぐらいはしていたとは思う。


 オズウェル第二王子殿下は会場を眺めてふっと笑う。


「その願いは聞き届けてやろう。この大衆の前で大恋愛劇を披露したのだ。受け入れなければ私の方が悪役であろう」


 楽しそうに笑う殿下に複雑な想いを抱えながら頭《こうべ》を垂《た》れる。


「ありがとうございます」


「それにディオン、私が思っていたよりお前の婚約者は有能そうであるからな?」


 礼を言ったと同時に告げられた言葉にぐっと眉を寄せた。


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