大好きな手
ディオンの手はすぐに私を抱き寄せる。
背筋を伸ばしていたかったけれど、限界は近くて抱き寄せられるともう保てなかった。
ディオンに寄りかかると体から力が抜ける。安心して大きく息を吐いた。
「フィア……魔法は……!そうか、王宮の阻害魔法があるから体内魔力はあまり減っていないんだな!?」
ディオンは私の状態にすぐ気づく。
体内魔力を使うのは良くないだろうとあまり使わなかった。……使えば阻害魔法が発動してしまう恐れもあり、多少は体内魔力が混じったけれどほとんど体外に放出した魔力を使って魔法を構成した。
体内から放出される魔力は多いからこれだけ大規模な魔法が使えている。けれどそれでも私には足りないのだ。
いつもは家で体内魔力を使うことを意識しながら常に魔法を使っている状態でいる。しかし今日は夜会に来てからはそれができていない。家でも体内魔力を使うことを忘れていると苦しくなってくることがある。今日は夜会の準備に忙しくて体内魔力を使うのを忘れてしまっていた。だから発作が起きかけた。
夜会に来てからは体内魔力をあまり使えていない。体内に魔力が滞って苦しい。
「ダートン様、治験薬は!?」
その言葉に父が首を振ったのであろうことがわかった。
……私は夜会に来た後、ディオンと殿下を待っている時に発作を起こしかけてしまって、最後の薬を使ってしまったのだ。
ディオンが私を抱いている手に力を入れる。
狭くなった視界の中でディオンの空色が見えた。その瞳が揺れる。
ディオンの声にならない声が聞こえた。
「……オズウェル第二王子殿下!お願いがございます!どうか阻害魔法を解いて魔法の許可を!このままでは……フィアは!!」
何もかもをかなぐり捨てるような声。
周囲の喧噪が遠い。
「阻害魔法の解除はできん。阻害魔法の解除など時間が掛かるだけで現実的ではないぞ。王宮の警備が疎かにもなる。許可は出せん。……彼女の魔力を登録するのに時間はかかるか?」
「……阻害魔法は登録するにも時間がかかります。急いでも……一時間ほどは」
殿下と魔術師が話す声が聞こえる。秘かに発動させていた集音魔法で殿下がディオンに答えた後の小さな会話も聞こえた。
――オズウェル第二王子殿下も……私を死なせる気は……ある訳では、なかったのね……。
この王宮を調べた時、治験薬の製造は止まっていなかった。エルヴィス第三王子殿下はそれを知らなかったのだろう。オズウェル第二王子殿下は……知っていたのかはわからない。
ただ……殿下方でも知り得ない情報であったのは確かだ。
「一時間……」
ディオンの声が聞こえた。
私に聞こえるようにしていたから、私を抱えているディオンにも聞こえたのだろう。
息を呑んだディオンが深呼吸をする。
「オズウェル第二王子殿下、今この場での魔法の使用許可だけでもいただけませんか。私とフィーリア嬢とトルメリア伯爵と私の母であるユーフィリウム侯爵夫人に魔法の使用許可を。どうかお願いします」
必死に落ち着こうとしているようなディオンの声。優しく私の手を握ってくれるディオンの手はとても暖かい。
「阻害魔法はどうする?」
「これから行うのは魔力渡しです。魔法には該当しません。それと魔力変換魔法を使います。これも医療魔法の側面が強い為に阻害魔法の対象外でしょう。他は……どうにかします。して……みせます」
握ってくれていたディオンの手が震えている。ディオンは治験薬の魔法を構成しようとしているのだろう。治験薬であれば阻害魔法の除外対象である可能性がある。
ディオンの考えは正しい。きっと治験薬に入っている魔法は、阻害魔法の対象外だ。
息が苦しい。
この茶番は、もうすぐ終わる。私はディオンと婚約破棄をしなければよかっただけ。私の元からディオンが去らないように。
――ディー……。
私の元にディオンは来てくれた。
それが、何より嬉しい。




