呼吸
息を吸う。その間にオズウェル第二王子殿下は更に言葉を重ねてきた。
「表に出さなかったのは君の独断か?」
息を吐いて呼吸を整える。
どう答えるのが正解だろうかと思った瞬間。
「恐れながら申し上げます!私はフィアの……フィーリアの魔法の使い方を知っておりました!」
叫ぶようにディオンが声を上げ、膝を付く。それにハッとすると、私の傍に父とアイリス様が並ぶ。
「私も知っております」
「私もですわ」
父とアイリス様も同じように言い、深く頭を下げる。傍に並ぶ二人から、壇上のディオンからも一人で背負うなと言われているようで涙が滲む。
――そうよね、一人ではないわ。
心配そうなディオンの空色の目を見つめる。
――だからディーも……一人ではないわ。
ディオンは私の言いたいことがわかったのか少し申し訳なさそうな顔をした。
オズウェル第二王子殿下はディオンや父、アイリス様を冷たい銀の目で見渡した。
「ディオンだけでなく、トルメリア伯爵家……そして宰相補佐を務めているユーフィリウム侯爵家でさえもか」
重い殿下の言葉に喉を鳴らす。
――ルディウス様……。ごめんなさい……。
ディオンの父で宰相補佐であるルディウス様へと迷惑を掛けてしまっている。それが悲しくて不甲斐ない。私を守る為に危険を冒していたことを今更思い知る。ぎゅっと手を強く握り締めた。
するとアイリス様が優しく背を叩いてくれた。きっとその仕草はルディウス様の想いを代弁してくれているのだろう。だってルディウス様のことだ。それくらいの事、私の秘密をディオンが共有した時点で分かっていたはずだ。
顔をしっかりと上げる。気弱な顔はしない。銀の目を強く見返す。
オズウェル第二王子殿下の方が、慣習に従っていないのだ。
「オズウェル第二王子殿下、恐れながら申し上げますわ。私の魔法の使い方は皆様が普段使っている魔法と同じように使用しているつもりのものでございます。私だけしか使っていない時点で理解できているのは私だけ……しかし、私も当たり前に使っておりますのでどうやっているのか説明もできません。実際にディオンや父に私の言える範囲で説明致しましたが再現はできませんでしたわ」
つらつらと説明をし始める。殿下は私の話を遮らずに聞いていた。
「そして私の病は発作を伴うものでございます。今はこうして外に出ておりますが、新薬の治験対象になるまでは家の中でしか過ごせませんでしたわ。発作を起こし、寝ていることしかできない日々も多くありました」
ひとつ、息を吐く。体調がいい日は屋敷の外へは出られる時もあったが、家の敷地内でしかない。
私はまだ元気だった九歳頃まではお茶会などに出席できていた。けれどそれ以降は出席できなくなった。私が外に出るなど、数年ぶりなのだ。
「そんな私がどうやって国の役に立てましょう?外に出れば発作が起きた時の備えは万全ではございません。トルメリア伯爵家もユーフィリウム侯爵家も、私ができないことだと判断したのだと思います。それは王家の方にご迷惑をかけないように、との考えもあってのことだと思います」
「迷惑、だと?」
眉を寄せるオズウェル第二王子殿下に頭を下げる
「……発作が起きた時にすぐ適切な対応ができなければ……私は帰らぬ者となるのです。私が安全に過ごせる範囲はトルメリア伯爵邸だけでございました」
殿下なら言わんとする事がわかるだろう。
もし王宮に呼ばれた時に持病の発作とはいえ死人が出れば、王家の疵になる。
それも私の病は重度だ。そのような者を呼び出した上で亡くなったとなれば、いくら王家といえど糾弾は免れない。
息を吸う。
「なるほど、王家を守る為だと言うか」
オズウェル第二王子殿下の静かな声を聞きながら顔を上げる。
視界の中に、殿下の白銀の髪が揺れているのが見えた。
「はい、そうでございます」
息を吐いて、吸う。
髪飾りの魔石を、発動させた。
「フィア!」
ディオンの声が聞こえる。カチャリと剣の擦れる音。それに反応して細工しておいた魔法が発動する。
「な!?」
恐らく、騎士と魔術師は動けなくなっているはずだ。
背中に手の感触が添えられた。父とアイリス様だろう。
ひゅー、ひゅーと口から音が出ている。
「……このように、すぐ体調を崩してしまう私が……お役に立てるとは、思いませんわ」
呼吸音と一緒に言葉を絞り出す。
背筋をしっかり伸ばすのも、苦しくなってきた。けれど、これは矜持だ。
音が聞こえる。走り寄る、音。聞き慣れた、走る彼の音。
「フィア!!」
焦っている声なのに添えられる手は相変わらず優しい。
その手に安心して、相好を崩した。




