私の魔法
宙に魔法を描いていく。描くのは得意な映写魔法。それを会場中の隅々まで行き渡らせる。
大きくどよめく会場に楽しくなる。しかも感情を悟らせなかったオズウェル第二王子殿下までも驚いている様子に思わず笑みを漏らす。
するとディオンが仕方ないような顔で笑った。きっと私が楽しそうにしているのが分かったのだろう。
今にも騎士に襲い掛かりそうだったディオンが体から力を抜いたことに落ち着く。周囲にいた近衛騎士達もそれがわかったのだろう、ディオンから少し注意を逸らし、私の魔法に目を向けた。
描いた術式を同時に発動させ、王宮中の景色を映し出した。映し出すのは一般公開されている場所に留めている。
――これだけでも……きっと私の力は十分示せるもの。
ディオンが映写魔法に映した映像を見て眉を寄せた。……ディオンから少し目を逸らす。あれはディオンが私がやらかしている時にどうしようかと考えている顔だ。気まずい。
「これが……君の力か。なるほどこれは……とんでもない力だな」
鋭い銀の目が私を見据え息を呑む。けれど引かない。
警備に当たっている近衛騎士と魔術師達が警戒を強めているのは気の所為ではないのだろう。
――……そういえばこの王宮には魔術阻害の魔法がかかっていたわね……。
なるほど、警戒されるはずだ。
殿下は私の映写魔法を見ながら笑う。そして近衛騎士と魔術師達を落ち着かせるように目を向けた。
「王宮に張ってある魔法はどうした?」
それにはにっこりと笑う。
「私にとってはないも同然でしたわ」
私の言葉に会場が騒然とする。
近衛騎士も魔術士も私を改めた顔で見据えた。
――まあ、これは脅威だと判断されてしまったわね。
殿下による許しはある。その効力は絶大だけれど、いつまでその効力を発揮してくれるかはわからない。殿下が危険に晒されると騎士や魔術師達が判断すれば、殿下の命を無視する人も出てくるかもしれない。
彼等は王族である殿下を守るのが第一優先事項なのだから。
仕方がないので少しだけ細工をしておく。
「ほお?」
興味深そうに殿下が笑うので笑みを返して説明をする。
「私の病は魔力循環不全漏出症ですわ。それも重度の。魔力循環不全漏出症は魔力器官に何らかの異常があり、魔力を体内に回すのではなく外に放出します。そしてこの病の重度は、元の魔力量が多く、その分放出魔力も多いということでございます」
オズウェル第二王子殿下が眉を寄せる。きっと聡明な殿下は気づいたのだろう、私がどうやって魔法を使っているか。魔術師の方も何人か私の事を凝視している。
「この王宮にかかっているのは体内魔力で術式を発動させるのを阻害する魔法でございますわね?」
王宮に勤めており、魔法を使う職の方は魔力を登録し除外しているのではないだろうか。
王宮には多くの方が勤めているので、そういった例外を作ろうとするだけでもとんでもなく大きくて複雑な魔術式だと思われる。
――ちょっと見てみたいわね……。
少し逸れた気を息を吐いて戻しながら笑みを湛える。
「そうであれば私は病によって既に放出した魔力で術式を描くので阻害されませんわ」
どよめきに含まれるのは驚嘆か畏怖か。
実際には自身の体内魔力も混ぜているけれど、それは阻害されていないのでもっと複雑な魔術式なのだろう。
ただ普通の人も余剰な体内魔力は放出している。だから普通の人よりかなり多い体内魔力を放出していても阻害はされない。
それに……このような病は私一人ではないし、普通の人でも魔力量が多ければ余剰分も多い。それを阻害するような術式は組めない。
「軽く言うのだな。君にとっては当然か?」
「私は病により魔法の使用を制限されておりまして……。体に影響なく魔法を使う為に考え出したのがこちらの方法でございます。この方法で魔法を覚えましたので……体内魔力を使うことを意識する方が大変ですわ」
嘆息しながら言い、あくまでも私の普通だと押し通す。わざと王宮を防護している魔法を無視したのではないと示して置かなければいけない。
「ふむ、なるほどな……。確かに病ある身では魔法を普通に使うのも躊躇われよう。それで身につけた技術か」
「はい、そうでございますわ」
にっこりと笑って頷くとオズウェル第二王子殿下が口端を上げた。
それに嫌な予感を覚えて息を吐く。
「ではなぜ、その技術を表に出さなかった?出せば魔術の発展に貢献できただろうに」
その問に息を呑んだのは誰だっただろうか。




