25話「道中の馬車道」
俺たち4人を乗せて馬車は走り出した。竜のいる方角へ向かって。
「じゃあ、そろそろ今回のことについて説明させてもらおうかのう」
「ええ、お願いします。ウォーレンさん」
「儂の魔法で竜が王都に向かってきてるのを感じとってのう。今日の日が沈まぬうちにくるはずじゃ。じゃからその前に討伐しようということになったのじゃ」
「今日中!? かなり近いじゃないですか?」
「いやいや、そうでもないぞ。今は竜がいるのは王都から200万ハイトってところじゃな」
ハイトとは人の身長を基準とした距離の単位でだいたい1.5メートルだ。
つまり約3000キロメートルということになる。
それを日が沈むまでとなると、10時間程度と考えて時速300キロは出ていることになる。
「かなり速いですね……」
「そうじゃのう。おそらく元はハヤブサかなんかじゃろう」
「元?」
「なんじゃ? 知らんのか? 竜は既存の生物の生まれ変わった姿なんじゃよ」
竜も元はこの世界にいる普通の生物だった。進化の結果ということなのだろうか?
「人が飼育していたトカゲが寿命を全うした後、転生したという記録がありますわ。親は普通のトカゲでしたわ。ですので、竜とは突然変異のようなものと考えれられています」
「そうなのか。初めて知ったよ。ちなみにナギサもこの話は知ってたの?」
ナギサにこれがこの世界の一般的な常識であるのか、あくまで魔道士にだけ知られているのかを確認する。
「いえ、私も知りませんでした。ところで小竜とかの分類にもちゃんと意味があったりするんですか? 私は大きさで分けられているって聞きましたけど……」
「ええ。もちろんですわ。まず、小竜は転生することと繁殖をしないという点以外は元の生物と全く同じままですわ。ですので、決して死別することのないペットとして人気がありますのよ」
「姿形が同じなら竜かどうかを見分ける方法ってあるのか?」
「基本的にはありませんわね。死んでみて初めて分かりますわ。一応、発情期がない点で見分けることもできなくもないですが、個体差もあるので絶対とは言い切れませんわね」
見分けるすべはなしか。まあ、普通の生き物と変わらないし特に問題はないのだろうな。
「ちなみに、ペットって言ってたけどのくらいの値段がするんだ?」
「値段なんて一概には付けられませんわね。100万ルクスはくだらないかと」
100万ルクスという金額は、豪遊しなければ一生を過ごすのに申し分ないラインである。
「なあ、それって手当たり次第に殺してみて、転生した奴だけを売るなんてことをする奴が出たりしないのか?」
「まず、ありえませんわね。そもそも、そんなことをしても竜に巡り会える確立が低すぎますわ。それに、そのような理由で生命を殺めれば重い処罰が下りますもの」
「いやいや、エイトくんの指摘は尤もじゃよ。昔は一攫千金を夢見て手当たり次第に殺して回る輩も大勢おった。じゃからこそ今はみだりに動物を殺してはならないという法律ができたんじゃよ」
「酷い。私欲のために多くの命を奪うなんて……」
「酷い……か。確かにそうかもしれんのう。じゃが、儂らだって毎日生きるために食事をしておる。意識するかしないかの違いだけで、みな多くの屍の上に立っておるのじゃよ」
「それに、俺たちが今討伐に向かっている大竜だって、人間にとって邪魔だから殺すんだ。こいつが仮に竜という不死の存在じゃなくてもな……」
「生きるために闘うのは当然のことですわ。闘う意志なくしては何も勝ち取れませんもの」
「なんというか……、みなさんすごく大人ですね……。私はまだそこまで割り切れません……」
「いやいや、その歳ならナギサちゃんの方が自然じゃろうて。この二人が達観しているだけじゃ」
実際、俺は36年間も生きてたしな。もう、青臭いことを考えることもなくなったさ。
「そういえば、ルナ。中竜と大竜はどう分けられているんだ?」
「中竜からは姿がどんどん変わっていきますわ。身体は大きく、爪や牙は鋭く。元々羽根が生えていない生物でも翼が生えることもありますわね」
「基本的に儂らが討伐の対象としてるのも中竜以上じゃな。まあ小竜でも元が熊や獅子なんかの凶暴なやつじゃと討伐することもあるがの」
「そして、大竜は中竜からさらに進化した存在。魔法を使うことが出来ますわ」
そういえば、俺が戦った大竜も口からビームを放ってきたな。あれも魔法か。
ここまでの話を簡単にまとめるとこうだ。
小竜:ほとんど今の生物と一緒。
中竜:でかい、強い。
大竜:魔法を使える。
ブラストはやはり大竜に位置するのだろうな。
「ところで竜の話は魔法学校では習わないのかの?」
「本来は習いますわ。ただこの方たちは入学して一週間ですので」
「ほう、一週間!? それでこんな大役を任されるとは相当じゃのう。まあ確かにそこらの魔道士とは格が違うのは感じられるわい」
「分かるんですか?」
「なあに、単なる勘じゃよ。ただ、儂もこれまで長く生きてかなりの数の魔道士を見てきたからの。ひと目見れば力量くらいは察せるようになっておるわ」
「四賢者のウォーレン様から見てもエイトさんの魔力は優れているのですわね」
「うむ。というより、儂より遥かに上じゃな。ホムラをも越えとるかもしれん。ま、今いる人類の中じゃ文句なしに最強格じゃろうな」




