20話「最速のプロポーズ」
Aクラスとの合同授業が終わり、俺の実力はもはや学校中の知る所となってしまったようだ。
他のクラスの貴族からもよく声をかけられるようになった。
それに、俺が誰の下にもつかないと宣言したことは周知の事実となったようで、従者になって欲しいなんて言われることもなくなった。
これで俺は突然の来訪者に邪魔されず、ゆっくりと自室で休めるようになったわけだ。
コンコン。
何かが叩かれる音がする。ドア……ではないな。窓の方だ。風で木の枝でもぶつかたんだろうか。
コンコン。
まただ。明らかに誰かが窓を叩いている。ナギサか? 正面から来れば良いものを……。ああ、そういえば夜は異性の寮に入ってはいけないきまりだったっけ。
そう思いながら、窓を開ける。
そこにいたのは……、ルナだった。
「どうしたんだ? こんなとこまで」
「あなたとお話がしたくて参りましたわ」
ああ、またか。ルナは美人だし、胸もでかいから正直好みかと問われれば、そうであると答える。だが、従者になるかというこことは話が別だ。
「悪いけど、従者になる気はないから」
「いえ、そんなことは申しませんわ。ただ……」
ただ?
「わたくしと結婚してくださいませんか!?」
あまりの急展開に言葉を失う。
結婚!? 早い早すぎる。出会ってまだ半日だぞ? それなのにもう結婚とは。この世界の文化なのか? それとも貴族だからなのか?
「いや、あの、ちょっと、あの、仰ってることがよくわからないというか、その」
「ですから! わたくしと結婚して子供を作って欲しいと言っているのです!」
まったくもって聞き間違いなどではないようだ。
「あの、とりあえず、そっちに行くから少し待っててもらっていいですか?」
あまりにテンパりすぎて敬語になてしまう。
「ええ、お待ちしておりますわ」
ルナはにっこりと微笑んだ。
全く事情が飲み込めていないが、とりあえず外に出て、近くにあるベンチに座った。
「ええと、もう少し詳しく説明してくれると助かるというか……、返事ができないっていうか……」
「ええ、そうですわね……。ヘクスター家のお話からしましょうか」
ルナは苗字がヘクスターというのか。それすら今知ったぞ。
「ちなみにヘクスター家はご存知でして?」
「いや、知らないな」
「そうですわよね……。ヘクスター家は所詮地方のいち貴族に過ぎませんもの……」
まあ、そもそもヘクスター家だけでなく貴族の家のことなんて一つも知らないが。
「わたくしはそのヘクスター家の一人娘ですわ。だからこそ、跡取りとして家をより大きく強くする義務があります。そのための努力は惜しみませんでしたわ……。領地を豊かに発展させるために経済を学び農学を学びましたわ。それに魔法だってわたくしの家の格を考えれば、本来はDクラス相当のところをAクラスに入れるようになるまで鍛え上げましたわ」
「ああ、確かにあの魔法はすごかったよ」
「一瞬で使えるようになったあなたがそれを言いいますの……」
少し、いやみったらしく聞こえてしまっただろうか。
「まあ、そんなことはどうでもいいですわ。ともかく、わたくしにはあなたが必要なのです。従者だなんて軽んじたことは言いませんわ。わたくしの夫として、ともに歩んでください! それに、わたくしだって魔力には自信がありますし、わたくしたちの子供ともなれば、絶大な魔法の才能に恵まれるはずですわ! そのためならこの身体喜んで捧げましょう!」
子供……。そう言えば魔力の高い両親からはより魔力の高い子供が生まれるなんて話をベックから聞いたなあ。
地方とはいえ、貴族ならそれなりの財産も広大な領地を持っているはずだ。なら、そこでスローライフなんてのもいいかもしれないな。何より美人だし。
そんな考えが一瞬よぎる。
だが――
「結婚っていうのはさ、そういう義務感とかでするものじゃないと俺は思うんだ。ずっとこの人と一緒にいたいと互いに思うから結婚するんじゃないかな?」
この時代の恋愛観がどうかなんて俺は知らない。昔は貴族は家同士の結びつきを強めるために当人の合意もなしに結婚されたなんて話も聞いたことがある。
それに、俺は元の世界じゃ結婚は愚か恋愛すら録にしたことがない。
だから、こんな俺の言葉に説得力なんてものはまったくないのだろう。
でも、俺はこの考えを変える気にはならない。好きでもない相手と結婚するくらいなら孤独に死にゆくことを選ぼうじゃないか。運命の相手とは運悪く生きているうちに巡り会えなかった。それだけの話さ。
「お互いの感情ですか……」
「あまり人の家の事情に口を挟むのもどうかと思うけど、自分の人生なんだから家のことだけじゃなくて自分がどうしたいのかということも大事にするもいいと思うよ」
「家よりも個人の感情を優先ですか……。お優しい考え方をしますのね……」
「ああ、だからもっと自分の身体を大切に……
俺が言い切らぬ内にルナが口を開く。
「ふふ。益々好きになりましたわ! お互いの気持ち……、つまり、あなたがわたくしを好きになれば良いというわけですわよね!?」
ん? なんか俺が思っているのとは違う方向に理解されてしまっている気がするんだが……。
「エイトさん、絶対にあなたを振り向かせてみせますわ!」
あー、そうきたか……
これはどうやら、一筋縄では行かなそうだ。




