19話「セカンドヒロイン」
俺たちは学校の敷地内にある池の前に集められていた。
今日は水の基礎魔法『放水』の授業だ。
いつものように午前中は座学だったが、もう記憶にない。
いくら魔法といえども無から有を生み出すことは出来ないらしく、水のない場所では水魔法は使えない。だから、あらかじめ十分に水がある池に集められたというわけだ。
そしてそこには、貴族クラスの連中もいた。
「それでは、これよりAクラスとFクラスの合同授業を始める」
Fクラス、これが俺たちのクラス名だ。ちなみにアルファベットはこの世界では古代の文字だそうだ。
魔法学校にはAからFまで6つのクラスが存在している。学年などはなく、半年ごとに実施されるテストを受け、十分な実力に達していると判断されることで晴れて卒業となる。
つまり魔法が上達してテストに受からない限りはずっと同じクラスにい続けることになるのだ
そして、クラス名のアルファベットは明確に意味を持っている。6つのクラスのうちAからEまでは貴族クラス、Fクラスだけが庶民クラスと分けられている。そして、貴族クラスの中でも家の格が高いもしくは魔法の才能に溢れる貴族ほど先のアルファベットのクラスに入ることになる。
また、1クラスの人数でも、貴族たちは1クラス10名程度に対し俺たち庶民は1クラス30名と明確に区別されている。
学校は貴族達の寄付で成り立っているということもあるため、パトロンである貴族には良い環境で授業を受けさせる必要があるのだろうが、あまり良い気はしないな。
今回の合同授業に対し、ベックが小声でぼやく。
「はー。貴族と一緒かよ……」
「なんでも向こうから、こっちと合同でやらないかと提案してきたらしい」
「まあ、エイト目当てだろうなあ……」
一人の貴族が俺の方に歩いてくる。
「やあ。また会ったねエイトくん。今日は胸を借りさせてもらうよ」
そう言って手を差し出してくる。
デイビット・ウィルキンス。俺に従者にならないかと持ちかけてきた奴だ。
「また俺を引き抜きに来たのか?」
「いや、もうそれは諦めたよ。昨日も君が巨大な土の壁を作り上げるのを見たけど、僕に御しきれる器じゃないことを改めて認識させられたからね。だから、せめてその恩恵に預かることにしたのさ」
なんだ。なかなか物分りが良いじゃないか。貴族なんてどうせみんな傲慢でいけすかない奴だろうと決めつけていたが、どうやらそうでもないようだ。
「そういうことなら歓迎しよう」
差し出された手を握り返した。
こうして授業が始まったが、すぐに庶民と貴族の違いを実感することになる。
「「「「「【水よ!流れ給え!】」」」」」
「「「「「『放水』!!!!」」」」」
水の基礎魔法『放水』。水を真っ直ぐに流す魔法だ。
貴族クラスの方では10人全員が池に勢いのある波を起こすことに成功している。
一方、俺たち庶民クラスはというと、そもそも発動に成功したのが5人。そして、その規模もしょぼい。
完敗だ。
様子を眺めていた所、Aクラスの担任であるエリクソン先生に声をかけられた。
「さて、君の力を見せてくれるかな?」
「ええ。わかりました」
「【水よ、流れろ!】」
「ほう!詠唱短縮とは大したものだ!」
エリクソン先生も俺の呪文詠唱に対しクラスの皆と同じ反応を示す。
「『放水』」
池の水は巨大な津波となり向こう岸に押し寄せる。
そして、ザバーンと大きな音をたてて向こう岸にぶつかった。どうやら池の水の3割ほどが外に出てしまったようだ。
「なるほど。なるほど。実に見事だ! しかも、これを全ての属性でできるというのだろう? Aクラスに来る気はないかね? 最高の環境を約束しよう」
ああ。またか。本当に毎回対応が面倒くさいし、ここらで宣言しとくか。
「悪いけど行きませんよ。俺はFクラスのエイトだ! 卒業までFクラスを出るつもりはないし、誰かの下につくつもりもない!」
「ふー……。私には理解できないね。だが、だからこそ見えるものもあるのだろうな」
少し呆れたような、それでいて少し遠い目をしたそんな声だ。
「まあいい! 授業を続けよう! さて、どうしますかな、アーデル先生? 私としては基礎魔法にあまり時間をかけたくはないのですが」
「ええ、そうですね。では『放水』を使える者はエリクソン先生にご指導いただき、残りの生徒は私が、でどうでしょうか?」
「ふむ。そうしましょう」
こうして俺たちは2つに別れた。まあ、あそこまで実力差があるのに合同で授業を行うのは無理があって当然か。
「いや、ラッキーっすね。あのエリクソン先生に魔法を教えてもらえるなんて」
ピーニャに話しかける。彼女も『放水』を使える5人のうち1人だ。
「有名な人なのか?」
「めちゃくちゃ有名っすよ! なんせ上級魔道士っすからね! それに専門が火属性っす!」
上級魔道士は全ての属性の魔法を高いレベルで使いこなせる証だ。それに火属性を専門として扱えるのはごくごく一部だって言ってたな。
「そうか。すごいんだな」
「エイトさんのおかげでエリクソン先生の授業が受けられるのだから感謝しかないっす」
「それは良かったよ」
エリクソン先生が前に出て講義を初めた。
「さて、基礎魔法は所詮基礎魔法に過ぎない。諸君らはより実践的な魔法を使えるようになる必要がある。エイトくん、君は水属性は何の魔法が使えるんだね?」
「えーと……、風属性ならいくつか使えますけど、水属性は『放水』だけですね」
「む。そうか。君ほどの実力なら他にも使えると踏んでいたが……。まあいい。それではルナくん、『治水瀑』を」
「はい先生」
一人の女生徒が前に出た。こころなしかこっちを睨んでいるようにも思える。
そして詠唱を始める。
「【自在なる水よ、妨げる路はなし、我に従い給え】」
「『治水瀑』!」
地面に染み込んでいた水が浮き上がり空中で水の球を作る。そして、そのまま空中で静止している。
「うむ。見事だ。それでは池に水を戻すといい」
「はい」
ルナが腕を振ると水の弾は池に向かって飛んでいった。
なるほど。水を空中で自由自在にコントロールできるのか。なかなか便利そうな魔城じゃないか。
「今の『治水瀑』は水属性の中でも上位の魔法だ。上級魔道士と言えど、使いこなせる者はそう多くないだろう。まず『渦流』のような簡単な魔法から……」
「【自在なる水よ、妨げる路はなし、我に従い給え】」
詠唱もどんな魔法かもわかったし、とりあえず試してみるか。
「『治水瀑!』」
池の水がまるごとフワフワと浮き上がる。よし上出来だ!
あとは被害が出ないように慎重に下ろしてっと……。
大層驚いた様子でルナがこちらに話しかけてくる。
「どういうことですの!? あなた水属性の魔法は使えないんじゃ!?」
「ああ、でも今見せてもらったし」
「そんなありえない……」
驚きすぎて言葉を失っているようだ。
エリクソン先生も青ざめている。
「一度見ただけで高位魔法を使えるようになるだと!? そんなバカな。そんなことが可能なはずがない!」
だが事実だ。
「規格外の天才……。そうとしか表現できない……」




