17話「貴族が放って置くわけがない」
学校中に響き渡る鐘の音で目を覚ます。
アリサキ村にいたころは日が登ってきたら適当に起き、日が沈んできたら寝る生活をしていたが、学校に入学し、時間に縛られる生活が始まってしまったことを意味していた。
朝、鐘は2度鳴る。1度目は起用、2度目は授業開始の合図だ。この2度の鐘の間に各々朝食や身支度を済ませる。
俺はさっさと朝食を済ませて二度寝をする。勝手に目覚ましが成ってくれる、これは便利だ。
こうして俺が惰眠をむさぼっているころ、部屋の扉が叩かれる。
しばしの沈黙。俺は今寝てるんだ。邪魔しないでくれ。
「入るよ」
そう言うと、その男は許可もなく扉を開けて中へと入ってくる。
「やあ。君の話は聞いているよ。どうだい僕の従者にならないか?」
「まず、お前は誰だよ」
「おっと失礼。自己紹介が遅れたね。僕はデイビッド・ウィルキンス。よろしくね」
クラスじゃ見たことないやつだな。それに苗字があるってことは……貴族か。
しかし、いきなり従者になれだなんて、なんてふてぶてしんだろう。
「悪いが、俺は誰の下にも付く気はないんでね。従者を探してるなら他をあたってくれ」
「そうか……。悩みもしないんだね。残念だよ」
「受け入れる気ゼロなんでね」
「まあ、予想はしていたよ。君の実力ならその気があるならもうとっくになっていただろうし。ちなみに、これからもこういう誘いは来るかと思うけどすべて断るのかい?」
「ああ、そのつもりだ。あと、いちいち部屋まで来られても面倒だから、他の貴族にも伝えておいてもらえると助かる」
「なるほど。でも、伝えるのは構わないけど、君に会いに来るのを辞めさせるのは無理じゃないかな? あの竜巻、初めはみんな先生の誰かが使ったものだと思っていたんだけど、君がやったと判明してからは、君の話でもちきりだよ。学生で、いや学生じゃなくてもあの規模の魔法を使える魔道士なんてほとんどいないからね」
思った以上に目撃されていたらしい。まあ、あれだけ騒ぎになったし当然か。
「ああ、そうそう、外であと3人待ってるから僕はもう行くよ。もし心変わりしたなら言ってくれればいつでも歓迎しよう」
そう言ってデイビッドは去っていった。
俺は部屋の外に出て、残りの3人にも従者にはならないことを告げ、さっさとお引取りを願う。
金銭面での交渉をしてくるものもいたが、金の問題じゃない。たとえ相手が貴族だろうと、誰かの下にはつくのはまっぴらごめんだと、ただそれだけのシンプルな話だ。
今の俺と貴族たちのやりとりを見て集まってきたクラスメイトたちが口々に騒いでいる。
「おいおい……、すげえな! エイト! もう貴族に目をつけられてんのかよ!」
「ウィルキンス、ヴィンセント、アップヒル、テイラーの4家なんてみんな超がつくほどの有力貴族だぜ!? 俺なら二つ返事でオーケーするのになあ!」
「それを取り付く島もなく断るなんて、どこまで大物なんだ」
「というより貴族相手に臆せず話せるだけですげーわ」
しかし、面倒なことになりそうだな。
俺の力目当てに寄ってこられるのは、悪い気がするわけではないが、正直迷惑でもある。
それに、快眠を邪魔されてぞんざいな対応をしてしまったことは否めない。もう少し言葉を選んで穏便に断った方が今後のためを思うと良かったのかもしれないな。
貴族に敵対意識を向けられるのは避けられるのであれば避けたい所。トラブルメイカーになる必要はあるまい。
「なあ、もしかしてエイトは貴族になる気なのか?」
その場にいた一人に話かけられる。
「貴族に? いやそんなことは考えたことはなかったな。ちなみにどうやったらなれるんだ?」
「うーん……。国家に貢献したらなれるんだろうけど、具体的に何をしたらいいかは聞いたことないな」
話を聞いていたチャーリーが入ってくる。
「そう言えばホムラさんには打診があったらしい。本人は拒否してるみたいだが」
「まあ大竜殺しを成し遂げたならそれくらい当然だよなあ」
「でも最近も3人目の大竜殺しが出たんだろ? 誰がやったのかは不明らしいが」
大竜殺し。たった一人で大竜を討伐する偉業。〈竜の剣〉では俺が3人目ということになっているが、実際に大竜を狩ったのは俺でなく俺が契約した竜のブラストということもあり、対外的には3人目が俺であるということは隠してもらっている。しかし、いつまでも隠しきれるとは思わないし、なんとかしないとなあ。
思い浮かぶ最も単純な対策としては――俺の手で大竜殺しを現実にしてしまうこと。そう遠くない未来に可能になる手応えがある。
もしも本当の意味でそれを成し遂げたなら、貴族になるということも考えてもいいかもしれない。
「なあもしかしてエイトが……」
ゴーン。ゴーン。ゴーン。
言い切らぬうちに鐘が鳴り響く。授業開始の合図だ。
「おっともうこんな時間か。みんな早く行こうぜ」
「ああ、そうだな。エイト! 今日もお前の魔法見せてくれよ!」
「なんなら俺たちに魔法を教えてくれ!」
「そりゃあ、いいや!」
他愛もない話をしながら、一旦部屋に戻りカバンを持って教室へと向かった。




