16話「風呂姫」
ピーニャの提案でナギサとピーニャは風呂へとやってきた。
王都の技術がふんだんに使われた風呂は、ナギサにとっては初めて見るものばかりであった。
「すごい。夜でも明るいんだね。お湯がかかってろうそくがすぐ消えちゃわないのかな」
「それは大丈夫っすよ。『灯火』の魔石のおかげでいつでも明るいっすからね。ろうそくいらずっす」
「へー、そうなんだ。王都は進んでるなあ」
二人は石鹸を手に取り体を洗う。
「そういえばナギサはシャワーを使ったことあるっすか?」
「しゃわー?」
ナギサにとっては聞き慣れない言葉。体を流すには湯船の湯を桶に入れて体にかける、それがナギサが知ってる唯一の方法だ。だが、ここの風呂にはシャワーがある。蛇口をひねればお湯が出てくる。
「そこの赤いのを右に回すっす」
ナギサがバルブを時計回りに回す。
「ひゃあ!?」
「あはは。それがシャワーっす。ウチも初めて使った時は似たような反応したもんっす。ていうか大丈夫っすか」
ピーニャが思わず尻餅をついたナギサに手を差し出す。
「うん、ありがとう。そうじゃなくて知ってるなら先に言ってよ!」
「いやー、ごめんっす。ついつい反応が見たくて。お湯を止めたいときは逆に回せばいいっす。あっ、あとそっちの青の方は回すと冷たい水が出てくるから注意するっすよ」
「へー、そうなんだ」
ナギサが赤いバルブを締め、青いバルブを回す。
「本当に冷たいね。川から水を持ってきてるのかな」
「地下を水が流れてるらしいっすよ」
「やっぱり王都の技術はすごいんだねえ」
「さっ、さっさと湯船に浸かるっす」
「はー。いい湯っすねー」
「それにしてもお湯が管から出てくるなんてびっくりしちゃったよ」
「ああ、あれは『放水』の魔石を使ってるっすね。蛇口をひねれば魔石の力でお湯が流れるっす。水を流す『放水』も水を温めてお湯にする『灯火』もどっちも基礎魔法だから魔法学校を卒業するころには魔石なしでできるようになるっすね」
「ピーニャちゃんは詳しいなあ」
「ウチは魔石職人を目指してるっすからね。魔石が何に使われてるか把握しておくのも大事なことっす。ナギサはなんかないっすか? 将来の夢」
「うーん。あんまり考えたことないなあ。やっぱり故郷の村が大事だから、そっちで魔法を活かして色々出来ればいいかなって感じかな」
「それは、いいっすねえ。別に金をいっぱい稼ぐとか誰かに勝つだけが人生じゃないっす。数字じゃ測れないものも大事っすから」
「うん。そうだよね。ピーニャちゃんのおかげでちょっと将来のことが見えてきた気がするよ」
「それにぃ……、いざとなればお嫁さんになればいいっす! この胸があれば余裕っすよ!」
そう言ってピーニャはナギサの豊満な胸に手を伸ばす。
「ンッ……。ちょっ!? ピーニャちゃん!? 何やってるの!」
「何って、こんなに立派なものがあるのに触らないなんて逆に失礼ってもんっすよ!」
「もう! だめだって……」
「いやこれはやめられないっす。柔らかくかつ適度な弾力があって……、いつまでもずっと揉んでいられる至高のおっぱいっす!」
もはやセクハラオヤジと化したピーニャを止められるものはここにはない。
「ピーニャちゃんにもあるんだから自分のを揉みなよ……。十分おっきいでしょ?」
「もう飽きたっす」
「飽きたって……」
「あ、ウチの胸を揉みたいなら別にいいっすよ」
「遠慮しとく……」
「いやいや遠慮することはないっす。よく考えたらウチだけナギサのを揉むのは不公平っすからね。さあ存分に揉むといいっす!さあ!」
「えー……。じゃあちょっとだけ……」
ナギサもピーニャの胸に手を伸ばす。互いに胸を揉み合っている謎の光景。
「ン。ナギサも結構上手いっすねえ」
「褒められても全然嬉しくないよ……。というか意味がわからないしもういいんじゃないかな……」
「あとちょっと!あとちょっとだけ!」
「はあ…」
これはまだまだ続きそうだ。ナギサはそう予感する。
しかし、その予感はすぐに覆ることになる。
「あなたたち!何をやってますの!?」
扉を開け入ってくる一人の女生徒。
ルナ・ヘクスター。この学校に通う貴族の一人である。
「げっ、風呂姫」
ピーニャが静かにつぶやく。
「風呂姫?」
ルナには聞こえないようナギサの耳元に手を当てる。
「あの人いっつも風呂に入ってるんすよ。授業のある日でも1日3回。休日に至っては1日5回は入ってるっす。それでウチらの間でついたあだ名が風呂姫っす。あっ、本人には風呂姫って言っちゃだめっすよ」
「全く……、何をコソコソしてますの」
「今出ていくから気にしないでほしいっす」
「別に出て行けとまでは……」
「いやいやウチらがお邪魔するわけにはいかないっす。失礼しましたっす」
ピーニャとナギサはそそくさと立ち去る。
「あの人貴族だよね?」
「そうっす。ルナ・ヘクスター。ヘクスター家の一人娘っすね」
「貴族用の寮って別にあるんじゃなかったっけ?」
「そのはずなのに、なーんでか時々こっちの風呂に入りに来るんすよねえ。全く迷惑な話っす」
魔法学校では、貴族と庶民で寮もクラスも分けられている。庶民は貴族の寮に立ち入ることは許されていない。一方、その逆は何の問題もないが、そもそも貴族寮と比べ設備の乏しい庶民寮に来る意味はまずない。
「こっちの方がお風呂が良かったりするのかなあ」
「まず貴族寮の方が豪華だとは思うんけどねえ。貴族様の考えることはよくわかんねっす。まあ、ナギサも目をつけられないように適当にやり過ごしたほうがいいっすよ」
「うん、わかってるよ」
「じゃ、そろそろ寝ましょうか。おやすみっす、ナギサ」
「おやすみ。ピーニャちゃん」




