表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星夜見のプロテジェ〜加害者の彼と被害者の私は、星降る街で再会する〜  作者: wag


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

16

太陽と星は規則正しく巡り、山の木はその色を変えた。

はらはらと舞い散る木の葉が風の息吹を告げる。



「美味かったぜえ、

 ジェーンお手製のサンドイッチ」


夕暮れに合わせて出勤してきたノーマンがほくほく顔で大部屋のデスクに腰掛ける。


「は?お前ジェーンに何させてんだ」


眉をひそめて反応したのはケヴィンだ。


「そう僻むなって。

 今日はちょっと観測が立て込むから、

 軽食をお願いしたんだよ。


 そしたら作ってきてくれた。

 夜を待ちきれずに食っちまった」


「おいおい、

 性懲りも無く義務枠に嫁さん業務させんなよ」


「いいんだよ、本人がいいってんだから。

 しかし良かったぜ、ザックが彼女を手放してくれて。


 ようやく俺らも彼女の恩恵に預かれる」


「まぁな。

 お前、そんなにジェーンを気に入ってるなら、

 本当に嫁さんになってもらえば?

 彼女恋人いないんだろ?」


「…まぁ、ジェーンは綺麗だし、

 気立てもいいし、飯美味いし、

 優しくて穏やかで最高だけどさ。


 …でも、黒手袋だからな」


「あぁ、まあ。

 綺麗事抜きで、そこは考えるよな」


「興味本位で手を出して責任取れる相手じゃないし。

 俺は適当に恩恵にあずかれればそれでいいや」


「ブレないお前で俺は嬉しいよ」




ー…はは、と笑い飛ばす二人の会話を、デスクに突っ伏して寝たふりをしたザックは腹立だしく聞いていた。



あの、自分でも想定していなかった、その場の雰囲気と勢いに流された末の告白。最初はジェーンも驚いた顔をしていたし、伝わったかと思ったのだ。


なのに急にスンっと落ち着いた顔になったかと思ったら、


『あの、ありがとうございます。

 これからも困ったとき、

 ザックさんを頼らせて頂けると嬉しいです』


と、さらりと流されてしまった。

あれはきっと、『恋愛感情じゃないよね、その好きは』という結論に至った顔だった。


それ以上追求することもできないまま、ザックはジェーンの案内係を外れ、彼女は彼女で何やら毎日急がしそうにしている。


事あるごとに声を掛けてはみるものの、ジェーンの側からは何の戸惑いも感じないし、かといって避けられている訳でもない。


『意識されてない。眼中に入ってない』


その事実に毎度打ちのめされながらも、ザックはまだ諦めていない。ノーマンが増長するのも我慢ならないし、どうにかして彼女にこちらを向いて欲しい。


『責任が持てない、だと。

 適当に恩恵だけ受けられればいい、だと。

 身勝手なこと言いやがって』


ノーマンの暴言に心の中で悪態をつきながらも、ザックの脳裏にはジェーンのことを「呪い」と呼ぶ両親の顔がよぎる。


…自分だって、一緒なくせに。

ジェーンを振り向かせた後どうするつもりなのか、どう彼女を守るつもりなのか、筋道立ってもいないくせに。


『感情だけがどんどん突っ走る。

 猿か、俺は』


未だ突っ伏したままの額を自分の腕に擦りつけて悶えていると、さらに二人の会話が耳に入る。



「でも、

 ジェーンもいつまでいられるか分からんなあ」


「あれだろ?義務枠の縮小ってやつ。

 決まりそうなのかな」


「あぁ。月々の補助金も縮小になるらしい。

 可決はまだだが、時間の問題だろ」


「ひでえよな、見たか?紙面を。

 『庇護を受ける者』から『穀潰し』に改名すべきだ、

 だってよ。あまりに暴論だよな」


「だが一定の支持はあるらしい。

 あれだ、大国エウレクが新体制になったから、

 彼らにおべっか使うための金が必要なんだろ」


「あぁ、あの使節団ってやつか。

 莫大な金を使って立派な船を作るってやつ」


「そのために切り捨てたのが黒手袋って訳か。

 世知辛いねえ」



…ザックの耳の奥で、言い表せない怒りが冷たい金属音となって響いた。



ーーーーーーーーーーー



「あら。 

 こんなとこまで刻まれてる」


ジェーンは空き時間を利用してノーヴァの中に入り、こつこつと刻まれたユベリオス文字を書き写していた。


最初は使用許可を取るのに長官に訝しがられたものの、「備品の棚を使いやすいように整理したい」という理由を告げたら特に咎められることなく許可が下りた。一度の滞在が短時間なのも良かったようだ。


一度下りたらあとはなし崩しで、長官室に顔を出すと「ノーヴァか?」と聞かれるくらいになってしまった。


堂々とユベリオス文字を見たくて、と言えば良かったのでは、と思われるだろうが、ジェーンはあまり悪目立ちをしたくない。まかり間違ってオーレリアの耳に入ったら、何をされるか分かったものではない。


ザックの元を離れた後も、相変わらず彼女は気まぐれにやってきてはジェーンに嫌がらせをして去って行く。体の良いサンドバッグのような状態だが、ジェーンはもう少しだけこの塔で頑張りたかった。


「文字さえ全て書き起こせたら、

 辞めてもいいんだけど。

 でも、世論がなぁ…次の職があるかどうか」


ここ最近、黒手袋への世間の風当たりが強い。


『優遇されすぎている』

『苦労知らず』

『穀潰し』


そういう文言が連日新聞に踊っている。おかげで街ゆく人の目は極端に厳しくなり、見知らぬ人に睨まれることも増えてきた。


可哀相なのはリーゼロッテだ。

リーゼロッテは順調に黒手袋の扱いを覚え、数ヶ月の訓練過程を無事に修了した。その後はすっかり行きつけとなっていたレオンのパン屋で販売員として働き出したところなのだが。


彼女は美しく、また彼女の意思とは関係なく持ち物も高価なものが多い。先日、それを良く思わない見ず知らずの人から呼び止められ、「黒手袋のくせに生意気な」と公衆の面前で説教をされ、持っていた日傘を奪われてしまったのだ。


「わたくしが何をしたというの」


リーゼロッテが泣きながら吐いた言葉が耳に張り付いて離れない。


ジェーンはいい。酷い言葉は言われ慣れてしまっているし、自分が今後どうなろうとどうでもいい。だがリーゼロッテは違う。彼女は何も悪くない。


補助金が減らされるよりも、職の危機に陥るよりも、これ以上リーゼロッテを傷つける人が増えて欲しくない。


「…どうしたらいいのかしら」


未知の言語が並ぶノートに視線を落とし、ジェーンは己の非力を呪った。




ーーーーーーーー



「オーレリア、あなた返事をくれないから、

 どうしているのかと思って…」


連絡もなしに塔までやってきた両親を前に、オーレリアは目尻を吊り上げていた。


「便りがないのは息災の証と、

 そう思って欲しいのだけれど」


「そういうわけには…」


「ご心配には及びません、私は元気です。

 それでは」


そうとだけ告げて、面会のために借りた応接室を出て行こうとするオーレリアを、父親が引き留める。


「オーレリア、待て!大事な話がある」


「何ですか」


「…コーニ夫人が、もう長くない」


「…それで?」


「準備しておけ。次はお前の順番だ」


「了承した覚えはありませんが?」


「既に決まっていることだ。

 …頼む、何とか飲んでくれ。

 そうでないと…エイダンの要求を飲まないと、

 我が家がどうなるか」


「知ったことではありませんわ」


「オーレリア!」


お引き取りを、と吐き捨て、今度こそオーレリアは退室した。


『エイダン…まあ、あいつが変わる訳ないわよね』



しかし、時間がないのは間違いなさそうだ。両親がこのまま引き下がるとは思えない。



苦い顔をしながら早足で廊下の角を曲がると、ばったりと出くわしたのはザックだった。


「ザック様」


オーレリアの気分が浮上する。あの忌まわしい黒手袋のお世話係は終わったようだが、未だザックはオーレリアに冷たい態度をとり続ける。


ザックは何の感情も読み取れない目でオーレリアを見下ろす。だが、


「こっちで何を?」


と、珍しく彼から話題を振ってくれた。

オーレリアは浮かれた。浮かれたまま口を開けてすらすらと語った。


「両親が来ていたのですわ、私を家に連れ戻しに。

 私をエイダンに差し出すつもりなの。

 酷いと思いませんこと?」


「エイダン?」


「本家筋にあたる従兄弟です。

 生まれつき魔力がない、黒手袋なの。

 でも本家の長男だから、

 家の女たちがつきっきりで世話する決まりで。

 

 …私、子供の頃からエイダンに狙われているの。

 ほら、なまじ顔が整っているし、

 頭も回る子供だったから」


ちらり、とザックを見るが、怒るでもなく同調するでもなく、さもどうでも良いという表情を崩さない。


「ねぇ、ザック様。 

 このままじゃ私、連れ戻されてしまう。

 黒手袋なんかのお世話係で一生を終えたくないの。

 お願い、ザック様、

 私を助けると思って、お傍に置いてくださいな」


ザックの白い手袋をつまんで軽く引き、か弱い風情を演出する。

オーレリアはしばらく黙ったザックの言葉を期待した。が、降ってきたのはため息だった。


「言っただろ?俺はプロテジェは取らない」


それだけ言うと、ザックはオーレリアの手を振り払い、オーレリアが今来た方向に歩いて行ってしまった。


ぽかんとその背中を視線で追うと、ザックは迷わずひとつの個室のドアを叩いた。


「あそこは」


ジェーン・カンタベリーのいる義務枠の控え室だ。

返事があったのか、ドアを開けたザックが嬉しそうに笑うのを、オーレリアは絶望的な気持ちで見た。


『こっちで何を?』


あの言葉は、オーレリアを気に掛けて出てきた言葉ではない。ジェーンへ自分が危害を加えていないかという牽制だったのだ。


オーレリアは憤慨した。

足が地面に埋まってしまったかのように、重く身体が動かない。


「…くしょう。

 ちくしょう、ちくしょう!」


誰もオーレリアを見ない。

誰もオーレリアを助けない。

誰も、オーレリアを、愛さない。


両親も、ザックも、同僚の星読みたちだって。

オーレリアを腫れ物のように扱っていることだって知っている。


「…いや。

 まだ、いる。

 私にはまだ、手札がある」


もはやオーレリア自身、誰かから愛して貰えるなど甘えたことは思っていない。ならばどんな手を使っても、余すところなく利用し尽くしてやる。


「グランドール旧公爵…

 叩いたらどんな埃が出るかしら」


彼は使える。

彼を使って、オーレリアは全てを手に入れる。


エイダンからも逃げ切るし、星読みとしての名声も得るし、

いつかあの黒手袋を排除して、ザックの隣に立ってみせるのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ