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1-4「譲渡された鍵」

 気がついたらベッドで寝かされていた。どうやら生きているみたいだ。


「ぐっ⁉︎」


 動こうとしたら、腹部に激痛が走る。確か炎を帯びた拳で殴られたんだ。あの瞬間は絶望的だった。


 それより俺を運んでくれたのは誰なのか気になる。後でお礼が言いたかった。自分は死んでも良いはずの出来損ないなんだ。それでも治療してくれるような優しさは感謝しかない。


「やっと目覚めたみたいだね? 全く、無茶しかしないんだからさ」

「あ、貴方はグラン・エルティア医師⁉︎ 何故、助けてくれたんですか?」


 実に驚愕だった。まさかグラン医師が治療を施した人物だったとは予想外である。


 彼は父を担当する専門医師だ。故に他は相手しないことで知られていた。それが俺なんかを救ったなど、前代未聞の話だろう。


「私は医師だよ? 本来は命を救っていく存在だ。それほど“専門医師”と言う肩書きに囚われて生きようと思っていた訳じゃない。ただ、シルビア様は特別だから優先しているだけ。分かったなら黙っててくれないか?」

「は、はい……」


 グラン医師から頼まれてしまった。けれど、それは俺を救ってしまった故に頼まざるを得なかった話だ。それを他言して良いはずがない。


 彼は命の恩人だった。いつか正式にお礼がしたい。そう思って伝えておいた。


「あ、ありがとうございました! 実は突然現れた男と戦って敗れたんです。やっぱり、俺は出来損ないだったんですよ……」

「ほう? 出来損ないだと?」


 グラン医師は真っ直ぐ俺を見て来る。


 彼が考えていることは分からなかった。今ので俺を嘲笑するような気持ちが起こったりしたのだろうか? それは定かじゃないが、それでも命を救ってもらったんだ。それだけは感謝している。


 すると、グラン医師が意外な一言を述べて来た。それは心から安心させる要素が含まれている。


「私と似ているな? 実際に私も逃げ出して来た身なんだ。本当ならシルビア様と並ぶはずだった家系の生まれだったからね」

「––––え?」

「もう今は無き『エルティア家』の血筋だったんだよ。私だって最初は努力したさ。けど、運命は残酷だった」


 初めて聞いた名前じゃないとは思っていた。何かしら有名な一族だと勘づいていたんだ。それが騎士家系として名を馳せた一族だったとは思いもしない事実である。


「あ、貴方も騎士家系で生まれたんですか? それじゃあ何故、医師なんか……?」

「落ちこぼれていたんだ。基本は肉体ステータスとスキルで判断されている。それが著しく低かったせいで務まらなかった。いずれ我が一族は滅んでいったんだよ。私を置いて皆が死んでいった」


 グラン医師から告げられた残酷な事実。グラン医師の家族は全員死んでしまった。それを悲壮感が漂った表情で述べる。


 そんな現実を抱えて生きて来たグラン医師は立派だった。一人で孤独ながらも生き抜いたんだと、俺は心から思わされる。


「お気の毒に……」

「悪いな。こんな話を聞かせたかった訳じゃないんだけどね。ただ、アイルなら大丈夫だよ。きっとやっていけるさ」

「ありがとうございます……」


 グラン医師が声援を送ってくれる。他にも俺は味方がいたことを知った。


 しかし、グラン医師は立場がある。だから、あまり俺を気遣えないのは分かっていた。


「そろそろ出ていってもらえるかな? 君を助けたことがバレるかも知れないんだ。悪いんだけど、早く出ていってくれ」

「す、すいません⁉︎ 今すぐ出ます!」


 俺は慌てて部屋から出た。本来なら一緒にいても良いはずがない。


 なるべく急いで部屋を出ていった。


 一旦、俺は自室に戻って来る。


 そこで傷は治っているのか気になって確かめてみた。すると、腹部には傷跡すら残っていない。


 これほど完璧に治療してもらったなら普通は高額を請求されるはずだった。それを黙って治してもらってしまう。


「マジで助けられたんだな……。もう、這い上がれない気がしてならないよ」


 非力な自分を呪うかのように責めたくなる。けども、再び内心には頑張るしかないと立ち上がった。


「まだ時間はあるんだ。もっと強くなって見返してやる……!」


 再挑戦を目指すと決めた。この決意は絶対に果たしてみせる。


 まずはミシア姉さまに話して修行を見てもらうのが良いと思った。急いでミシア姉さまを探していた時、二人の男が立ち塞がる。


「お前がアイルだな? ちょっと手荒だが、これも命令なんだ。我慢してくれ」

「え……?」


 片方が腹部を殴りつけて来る。諸に殴られてしまい、膝から崩れ落ちていった。


「な、何をするんだ……!」

「よし、運び出すぞ」

「おう!」


 俺は強引に担がれてどこに連れて行かれる。力が入らなくて抵抗する間もなかった。


 そのまま運び出された先は檻の中。乱暴に放り込まれて地面に転がった。


 やけに地面は冷たくて肌寒い。辺りは薄暗い上に殺風景な場所だった。


「こ、ここはどこだ……! な、何するんだよぉ……!」

「分かってねぇや。お前はビルス様から指示されて連れて行こうとしたアルメスを庇ったんだから当然だろ!」

「がっはっは! その通りだぜ!」


 まさか以前に挑戦した相手はビルス兄様が向かわせた人物だったらしい。だから、檻まで運ばれて来たみたいだ。


 男たちは檻を鍵で閉め、逃げられないような環境に置かれる。もはや、追放以上に酷い目に遭うかも知れなかった。


「それじゃあ大人しくしてろ」

「じゃあな? はっはっは!」


 笑いながら男たちは去っていく。腹部の痛みは和らいで来たが、外に出られなくなってしまった。


 これでは何も出来ない。どうすれば良いかわからなくなってしまった。

 もう、このまま俺は閉じ込められて終わるのか不安である。


 歯を噛み締め、今になって後悔していた。あの時、戦った相手は間違っていたんだと。今更のように反省し始めた。


「畜生ぉ……!」


 すると、背後からか弱そうな女性の声が呼びかけて来る。


「もしかして君も不運と巡り合わせてしまったんですか?」

「––––はっ⁉︎」


 振り返ってみると、そこには痩せ細った女性が座り込んでいた。もう、何も飲まず食わずでいるのが分かる。


 まさか同じような理由で閉じ込められた人かも知れなかった。


 けど、何をしたらこんな状態になるまで放置されるのか疑問である。


 目の当たりにした現実が戦慄させた。恐怖で頭が支配されてしまい、ガタガタと体は小刻みに震える。


「そんなに怖いですか? でも、私にはどうも出来ません。申し訳ないです」

「く、くそっ……!」


 もはや、後悔しか頭になかった。助けようとしたのが間違いだったんだって思い返す。


「ぐぅっ⁉︎ 何でだよぉぉぉおおお⁉︎」


 無意識に出てしまった絶叫。恐怖は叫び声が上がる理由を作った。


 こればかりはどうにも出来ない。寒い檻で絶望の淵に立たされて理解した。


 きっと“実力者には逆らうな”と明言した方が良い。それも由緒正しい家柄に生まれ、期待を背負った者は逆らわないのが適切だった。


 そんな心が彷徨い続けていると、痩せ細った女性から提案をもらう。


「お願い……。私の話を聞いて欲しいの……?」

「お、お願い……? それって一体なんだよぉ……」

「右手の甲にぃ……刻まれている紋章を、託したいわ。貴方にしか出来ないことだからね……?」


 すでに死んでしまっても可笑しくない状態である。


 最後に彼女は手の甲を差し出して告げた。その紋章が輝き出す。それを受け取って欲しいみたいだ。


 実際に受け取れたとして何の意味があるか分からない。けど、彼女は死に際かも知れなかった。


 ならば、最後に紋章を受け取るぐらいはしてあげても良い。


 これで何か変わる訳じゃないのは確かだ。それでも死にゆく人を助ける意味でも受け取っておこう。それがせめてもの善行だと思った。


 そっと彼女の手を握り締める。次の瞬間、手の甲から眩しい光が解き放たれた。


「うわっ⁉︎」


 発光と共に凄まじい魔力が流れ込んで来る。これは元から紋章が持っていた魔力のようだ。


 それが譲渡されることで、魔力ごと受け継いでしまった。


 全身が魔力で満ち溢れる。この感覚を得られるなど、誰が予測したものか。俺は予想外の結果に驚いた。


『お前が新たなる主人だな? 良かろう。我が力を使ってみるが良い!』


 気づいたら眼前に一匹の鬼が現れる。かなり大きい体つきを誇っていた。


 ここから思いがけない奇跡が紡がれていく。急に現れた鬼と対峙してしまった俺は逆転を遂げようと動き出した。

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