1-5「鬼王降臨」
全身に多大なる魔力が満ち溢れる。これが譲渡された紋章の力。
それと目前に現れた一匹の鬼は告げた。
「きっと説明されていなかったはずだ。ここで正式に契約する前の説明から入ろう。この話が受理されるかされないかで紋章の取り消しが決まる」
「取り消し……? この紋章は“契約の印”なのか……⁉︎」
「その通り。後は今から説明する話で決めてもらいたい」
巨体を構えた鬼が説明してくれるみたいだ。この話が良ければ契約すれば良いんだろう。
期待しながら話を聞いてみた。
今から話してくれる内容は俺を成り上がらせる理由となる。
これから契約するか判断していくのだけれど、それは今後を左右して来る話でもあった。
落ち着いて聞く体勢を整える。身構えた俺を見下ろしながら鬼は説明し始めた。
「我は“鬼王ライバサラ”と言う者だ。かつて、世界を脅かした妖である。実は先ほど絶命していった女に敗れ、契ることで式神となった。以後は契約者と共に戦場を渡って来たんだ」
「き、鬼王だってぇ……⁉︎ そんな凄い奴と契約しようって話が出てるのか?」
「如何にも」
スケールがデカ過ぎてついていけなかった。けど、こいつと契約すれば檻から出られるはずだ。
しかも、立ち塞がる敵も討ち取っていける。
これほど希望になるような話はなかった。俺は危うく生きる希望を捨てるところまで追い込まれていたんだ。だから、再び自由を得られると言うならば契約は必須だった。
窮地に陥って押し寄せた絶望的状況を覆す事態は助かる。けれど、ちゃんと話を聞いて判断しないと後で後悔してしまうと考えた。
「我は契約者を求む。だから、お前が主となって欲しい。頼むから契約してくれないか?」
「取り敢えず力になってくれるんだろ? じゃあ、喜んで契約しよう。どうすれば良いんだ?」
急かすようだが、今はしょうがない状況に陥っている。早く済ませておきたいからこそ、契約は急ぎたかった。
「よし。契約する意思を確認した。だが、その前に我を解放してから話は進めよう。再び奴が相手になれば敵わない。奴と交戦する前に逃げ出したい」
「は? 鬼王でも敵わなかった奴? そいつは一体誰にんだよ!」
鬼王が口にした自身を上回る脅威を知る。そいつと相手すれば確実に命は絶たれることを教えてもらった。
「奴の名は『聖騎士シルビア』と言ったはずだ。こいつだけは我でも敵いそうにない」
「分かった。まさか親父がそんなに脅威だとは思ってもみなかったけどな。ただ、親父なら留守が多い」
ライバサラでも倒せない脅威は分かった。それを踏まえると、今しか顕現しても良い絶好のチャンスはない。
「早くした方が良いかも。じゃないと偶然にも親父が帰って来てしまったら大問題だ。取り敢えず頼むよ」
「ふむ。承知した」
ライバサラが了承した瞬間、景色は元の場所に戻っていた。
それより早いうちに済ませようと身構える。
俺は漲る魔力を集中させてから一気に解き放った。
「いけぇ! 鬼王ライバサラ、顕現せよ!」
右手の甲が光り出す。すると、地面が揺れ始めた。
轟音を立てながら光から鬼王が降臨する。檻ごと周辺を巻き込みながら収まり切らない巨体がぶち壊した。
「よし! 檻から出られたぞ!」
「さぁ、行くとしよう!」
自然に体が光で包まれる。そのまま体は宙を移動してライバサラの肩に乗っかった。
「すげぇ! 勝手に肩の上じゃん! これなら行ける!」
すると、近辺から驚愕したような声が上がり始める。それらをライバサラは構わずすぐに蹴散らした。
「派手にやっちまったな……。これはただで済まないかも」
「はっはっは! 気にせずに行くぞ!」
先が思いやられるが、今は進むしかない。
「ここに未練はあるか? すぐ立ち去っても良いんだがな?」
「うーん? ––––あ、そうだ! その前に助けたい人がいるんだよ! そいつを連れて去りたい!」
「了解! ただ、長居は出来ないぞ」
「分かってる!」
俺が連れて行きたかったのはアルメスだ。彼女は何かしら理由があって連れて行かれたんだと思う。それが何かまでは分からなかった。
ただ、アルメスを助けたい。絶対に彼女を残して行けなかった。
取り敢えず周辺を見下ろしながら進む。きっと鬼が暴れていれば大抵は出て来るはずだ。とにかく急いで探し当てたかった。
家が壊れていく光景は緊張感を増幅させる。けど、ライバサラがいれば乗り越えられると信じて選択した。
すると、イレヴェルト家で仕えている兵士たちが集まって来る。集まった兵士たちで、ライバサラを相手しようと攻撃して来た。
「奴を討ち取れ! きっと檻に閉じ込めていた女の切り札だ!」
一斉に攻撃を仕掛けて来るが、ライバサラは余裕で薙ぎ払ってみせる。
いつの間にか辺りがライバサラに集中攻撃していた。たった一つの巨体は目立ち、周囲から標的として狙われている。
すると、ライバサラが能力を発動してみた。宙を雷が集結していき、素早く各地に降り注ぐ。これがライバサラの力みたいだ。
ライバサラは『雷』を操る鬼。中でも『王級』に位置する大妖怪だった。
それが使役されてから式神として生きているのは本当だろう。俺が勉強して知っていることは『式神は召喚されると顕現する』と言った話であった。
これが本当なら手の甲は召喚を施せる印として刻まれている。印が反応して召喚は施されるんだと思った。
とにかく急いでアルメスを探し出す。ただ、居場所が分からない状態で探していく必要があった。
そこで俺は上から眺めながらだと探しにくいことを悟る。ならば、地上に降りた方が確実だった。
「なぁ、ライバサラ! 俺が地上を探しに行きたいんだよ! そうなると討ち取られる可能性が高い! どうにかならないか?」
ここは地上で探し回る策が有効だった。けど、それは単独行動になり、敵と対峙して倒されてしまう危険が伴う。
それを踏まえてライバサラに質問してみた。すると、頼もしい回答が来る。
「問題ない。我が紋章を頼りに援護する。必要ならば雷を落として助け出そう! 後は我が生成する魔剣を持っていけ!」
「本当か! まぁ、仮に敗れそうだったら、ライバサラが呼び寄せてくれれば良い! なら、行ってやるよ!」
俺は自らライバサラから降りて着地した。今ならば魔力量が増えているのと、ライバサラと言う補助役に頼れる。
そして近くに一本の魔剣が現れた。これを使って地上を探していけば大丈夫と言う確信が抱ける。
「力を借りるよ! これで俺は無敵だぁ!」
魔剣を握った瞬間、急に電気がバチバチッと弾けた。しかし、俺は感電していない。どうやら雷を宿した魔剣みたいだ。
多分、魔剣は雷を孕める。孕んだ雷は自由に俺が扱えてしまうことを悟った。
すでに魔法を取得したような感覚である。確かなのは絶大なる力が守ってくれていると言うことだ。
ここで大いに力を振るっていけば契約は完了する。奇跡的に授かった力は俺を強くしてくれていた。
今、駆け出していく。心当たりはなかったのだが、見下ろした時に一箇所だけ可能性を感じた。
そう、男たちから襲われた時、ビルス兄さまが仕向けたんだと情報は漏れていたはず。あれが本当ならアルメスはビルス兄さまと一緒かも知れない。
走ってビルス兄さまの部屋を目指した。ビルス兄さまからアルメスを救い出そうと駆け抜ける。
「いたぞ! アイルだぁ!」
「悪いが止められない!」
魔剣から雷を引き出す。横に薙ぎ払って雷が解き放たれた。
予測してもいなかった敵は雷で感電する。痺れて倒れていく敵を軽々と追い越した。
これを同じように繰り返しながら進む。敵が都合よく感電して足を止めてくれた。お陰でスピードを殺さないで済んでしまう。
目的地が近くなって来た。その手前で立ち止まる事態を招く。
「くっ! まさかお前が相手するのか?」
「どうもやってくれたじゃねぇか! 屋敷が壊滅しちまったんだよ。落とし前つけろ!」
躊躇なく攻めて来た。凄いスピードで間合いを詰めて来る二人の敵。そいつらは俺を檻に入れた男たちだった。
ここでリベンジ戦を果たせる。さっきの屈辱を晴らしておこうと構えた。
すかさず雷を落としていく。しかし、巧みに避けながら走る足を二人は止めなかった。
ただ、もう以前までの俺じゃない。すでに攻略法を見出していた。
単純に雷は意識を逸らすため、無数に落としている。これを回避する際に意識が分散していたはずだ。そこに予想外とも言える攻撃を仕掛けていく。
すぐそこまで敵が迫って来ていた。そこで落雷を続けながら俺は自ら攻める。
こちらも走り出して二人を迎え撃った。雷で誘導した先に魔剣を振り切る。
「な、何っ⁉︎」
一人目を斬り捨てた。足を狙って斬りつけ、行動不能にする。思いがけない行動に二人目が用心しながら接近して来ていた。
「よくもやりやがったなぁ!」
「そっちだって殴ったんだ! 今度のは仕返しだろうがよ!」
上手く切り返して二人目を迎え撃つ。正面で同時に斬り合った。
魔剣で相手とぶつかる。互いに攻撃をいなしながら斬りかかった。けど、ただの斬り合いで決着をつけようとは思っていない。
相手が夢中で魔剣を避けていた。そこに予測から外れてしまうように切り返す。その一瞬で相手が怯んだ。
「そこだぁ!」
もう一振りしてトドメを刺そうとする。けど、それを相手はギリギリで防いでしまった。
「まだまだじゃねぇか!」
トドメに向かったが、防がれて隙が生じる。すかさず隙を狙って斬りかかった。
相手は回避不可能の一撃を振るったつもりである。しかし、実は崩されたと見せかけていたんだ。
相手が次に振り払う間を置く。そこで魔剣を振り切ると同時に落雷が降り注いだ。
「ぐわぁぁぁあああ⁉︎」
落雷を受けて相手は感電した。もはや、二人は再起不能である。
すると、たった一人だけ残った人物が笑い飛ばして来た。
次は前の二人と比べて脅威だと予測する。向かい合った状態で構えた。




