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8話

 愛華達が話していると、パソコンから声が聞こえてきた。


『あ、あの……』


 見ると、ルール説明をしてくれた大人しそうな少女が戻って来ていた。


『もうほぼクリアなんですけど、一応最後までやってもらっていいですか?』


「あっ、そうだったそうだった」


 奏の暴走ですっかり忘れていたが、まだゲームの途中だった。奏は立ったままマウスを操作する。

 教卓の上の箱は無くなっており、代わりに鍵が浮いていた。その鍵をクリックして手に入れ、扉前まで移動する。そして、鍵を選択したまま扉をクリックした。


ガラガラッ


 扉が開く。それに合わせて画面が真っ白になっていき、やがて『GAME CLEAR』の文字が表示された。

 少女が控えめに拍手をする。


『おめでとうございます。これ、薬です……』


 少女がこちらに向かって手を伸ばす。すると、画面から手だけが出てきた。その手には小瓶が握られている。

 奏に小瓶を渡すと、少女の手はスッと画面の中に戻っていった。


『やっと終わったぁ……それにしても、ここまで全員生き残れているなんて凄いです。私と友達はその、皆……殺されちゃったから……』

「友達……そういえば、ここに来るまでに君と同い年くらいの子と会ったんだ。もしかしたら君の友人かもしれないね」

『わ、わあ!そ、そうかも!そっか……やっぱり他の子もまだいるんだ……もう会えないから寂しいけど、私だけじゃないと思うと安心……』

「もう会えない?」

『はい』


 少女はぽつぽつと喋り出す。


『私達幽霊は自分が死んだ場所から離れられません。あっ、でも、ふたなが特別に許可を出した時は別ですよ。センセイもそうですし』

「センセイというと、ふたなの担任でしたわね」

『はい……“あれ”は、過去の私や貴方達のように人間が入って来た時に毎回出されます。ふたなのお気に入りの玩具で、醜悪な化物です……』


 そこまで言って少女は慌てて辺りを見渡す。そして、若干怯えた様子で続ける。


『ご、ごめんなさい。あんまり喋り過ぎるとふたなに罰を与えられるので、私はこれ以上皆さんに何かを教えられません』

「あ、ああ。いいよ、構わない。こちらこそすまないね」

『いえ……では』


 少女が少し寂しそうに手を振るとパソコンの電源が消えた。他のパソコンと同じ真っ黒な画面はもう何も映し出すことはない。

 奏は小瓶を見つめる。


「なあ、これ誰が使う?」

「誰って……何を言っているんだ?あんたが使うに決まってるだろ」

「え?」

「俺もそれで構わない」

「ああ、今回は奏が一番頑張ったんだ。奏が使うべきだよ」

「な、えー!?で、でも俺、迷惑ばっかりかけちゃったし」

「奏さん」


 愛華は奏に近付き、小瓶を持っている彼の手を上からそっと包み込む。奏はビクッと肩を震わせると、顔を赤くして慌て出した。


「あ、え、き、菊園?そんな急に触られると照れるというか、皆の前で大胆というか」

「隙あり」

「あっ!」


 照れて力の緩んだ奏から小瓶を奪い取り、そのまま右手の痣にかける。奏は消えていく痣を申し訳なさそうに見ていることしかできなかった。

 愛華はくすくすと笑いながら手を離す。


「菊園〜」

「あら、早く受け取らない奏さんが悪くってよ。それに、奏さんだって遠慮する水奈さんに同じようにしていたではないですか」

「あ〜確かにやったかも。手を取って……あっ!あの時に長中の手を握ったのはやましい気持ちがあったわけじゃないから誤解しないでほしいっていうか!」

「わ、分かりましたから、落ち着いてください」


 早口で弁明をする奏を宥めた後、次に向かう場所の話し合いをする。……だが、今回は愛華が聞いても秋は「さあな」としか言わなかった。悩んだ末、一旦移動しようと言う話になり、一行はその場を後にする。


 パソコン室から出て皆で廊下を歩く。すると、秋が小声で愛華に話しかけてきた。


「愛華」

「あ、おい秋。何で次の場所を言わねぇんだよ」

「強制イベントがあるからだ」

「は?」

「一回強制イベントを挟んでから、次に行く場所の情報が出る。だから余計なことは言わなかったんだ」

「強制イベント〜?何だよ、何が起きるんだ?」

「ああ、それなら直ぐに──」


ドンッ!


 背後から大きな音がした。何かが勢いよく壁にぶつかったような、そんな音。

 秋はいつも通りの感情が読めない真顔のまま呟く。


「来たか」


 愛華達はゆっくりと振り返る。そして、音の正体に目を見開いた。


 例えるなら、子供が粘土を捏ねて作った蛙。体は絵の具で色を付けたようにカラフルで、愛華達より遥かに大きい。目の辺りには安価そうなビーズが埋め込まれ、口には三角形にくり抜かれた紙が貼ってある。まるで笑っているようだ。


 化物は廊下の壁に手を着く。人間のように5本の指があるが、確実に人間とは違う、固くヒビだらけの手を。


「あそ、あそ……ちおほうり」


 高い声や低い声など、複数の声が交じって聞こえる。


「な、何かしら。何か喋って──」


「けれし!なおことあああ!!」


 化物は四足歩行で愛達の方へ走り出す。何を言っているのかは分からないが、このままここに立ち止まっていたら死ぬ、それだけは秋以外の全員にも理解できた。


 皆、全力で走り出す。廊下を真っ直ぐ進み、階段の前まで来た。急いで下りていく──前に、化物の手が伸びてくる。


バンッ!


「っ……危ないね」


 皆、間一髪で避ける。だが、愛華と静斗と、それ以外の者達とで分断されてしまった。

 秋は3階へ続く階段に向かいながら、下りの階段に近い愛華達に叫ぶ。


「菊園愛華!白露静斗!お前達はそのまま1階に行け!俺達は3階へ行く!」

「え、でも──」

「こっちは大丈夫ですよお姉様!心配いりません!」

「うんうん。絶対また後で合流しようねー!」

「あ〜あ、本当は俺が菊園を側で守りたかったのにな〜……まあ、静斗と一緒なら大丈夫か。静斗!菊園のことを頼んだぞ!」


 そう言って秋達は階段を上っていく。静斗は愛華の手を掴んだ。


「愛華、行こう。化物がどっちを追うか分からないが、私達に止まっている暇はない」

「……そうですわね」


(落ち着け、向こうには秋がいる。例え化物が3階に行っても何とかなる)


 そう自身に言い聞かせ、愛華は静斗と共に階段を駆け下りる。すると、階段の上からドンッいう音が聞こえてきた。

 ちらりと目を向ける。そこでは、怪物が壁にぶつかっていた。怪物は特に痛がっている様子もなく起き上がり、愛華達の方を向く。手足を器用に使い、ペタペタと階段を下りて来た。


(こっちに来たか!)


「静斗!さん!」

「分かっているよ!急ごう!」


 静斗は愛華の手を引いたまま階段を下り切る。このまま別棟を出るか、どこかの部屋に身を隠すべきか──そう悩んでいると、近くの部屋の扉が開き、手が出てきた。


 その手は、悩んでいる静斗の腕を掴む。


「!」

「こっちです!早く!」


 抵抗をしようとも思ったが、その必死な声を信じ、愛華と共に中に入った。


         ♢♢♢


 愛華と静斗が部屋に入り、扉を閉めた瞬間、階段から化物が下りて来た。化物はキョロキョロと辺りを見渡した後、真っ直ぐ廊下を走って行く。やがてガチャという音が聞こえ、怪物の足音は遠ざかっていった。


「ふう……別棟から出て行ったようですね」 


 愛華達を招き入れた謎の人物は扉から顔を出しながら安心したようにそう言う。


「あの、貴方は?」

「おっとすみません」


 謝りつつ、愛華達の方へ顔を向けた。


 その人物は、人形のように整った顔立ちの少女だった。短く揃えられた緑の髪。薄暗い部屋の中でも輝く金の瞳。愛華達より年下のようだが、落ち着いた雰囲気を纏っており大人びている。


「申し遅れました、僕は……あ〜そうだなぁ……ルナ。僕のことはルナと呼んでください。仲良くしてくださいね」


 仲良くとは言っているが、一線を引かれていることは愛華でも理解できた。


「……仲良くするかは貴方次第ではないかしら?」

「あれ、警戒されている?何故かな、僕が美し過ぎるからかな」

「というより、君が私達の味方か分からないから、だね。パッと見た限りでは死因は不明だが、ここにいるということは君も幽霊なのだろう?」

「え?待って待って!僕は生きた人間!生者!健康体!」


 愛華はじとーっとルナを睨む。怪しさしかない。


「信じてくださいよ〜証拠はないですけど〜。あ、ほら!今センセイから助けてあげたじゃないですか」

「センセイ……あの化物がセンセイなのかい?」


 静斗の質問にルナは頷く。


「はい。ふたなの担任で、今は彼女の言いなりの哀れな霊。ああはなりたくないものですね」

「貴方、詳しいのね。いつからここにいるの?」

「昨日……いや、一昨日?ここは時間感覚がおかしくなるし、お腹も減らないからハッキリとしなくて……」

「……」

「あ、これ余計に疑われていますね!?本当の本当に、僕は美しいだけの普通の人間なんですよ!少し事情がありまして、友達とここに来たんですけど……皆、いなくなって……」


 ルナは少しの間俯く。嫌ことを思い出しているのだろう。だが、直ぐにパッと顔を上げた。


「で、そんな時に貴方達がセンセイに追われているのを見つけたって感じです。センセイに殺されかけているってことは、貴方達も人間ですよね?なら、協力しませんか?」

「協力、か。一緒にここから出ようということだね」

「いえ、違います。正直、僕はいつでもここから出れます」

「え?」


 ルナは右手を愛華達の前に差し出す。手には黒い手袋をしていた。その手袋をゆっくりと外す。


「そこの僕並みに美しいお兄さん、貴方の手に見えるその痣、ふたなの呪いですね。僕が一緒に来た子達の手にもそれが現れていました。しかし、僕にはその痣はできなかった。何故なら、僕には強い霊能力があるからです」

「霊能力ぅ?」


 何と凄い子だろう。喋れば喋る程怪しさが増していく。もはや才能だ。ここまでくると、流石の愛華も可哀想に思えてくる。


「あー信じていませんね!僕の母方の家系では女性は例外なく霊能力に目覚めるんですよ!僕はその力でここまで生き残ってきたんです!」


(いや、そんなの信じる馬鹿いないだろ──)


「おお!凄いね!超能力者に会うのは初めてだ!是非見せてくれないかい?」

「は!?」


 白露静斗、あまりにも単純……いや、純粋な男過ぎる。


「おっといい反応。ただ、超能力ではなく霊能力ですよ。お間違えないよう」

「ま、待て!いえ、待ちなさい!……こほん、ルナさん。貴方の言葉を全て信じるのなら、何故ここから出ないのですか?呪われていないのなら帰ればいいでしょう?」

「実はですね〜、とっても大切な物を無くしてしまったんです」


 ルナが言うには、無くしたのは家の鍵らしい。また、鍵には小さなぬいぐるが付いているようだ。


「正直、鍵はどうでもいいんです。大事なのはぬいぐるみの方。『アカクロ兎』って聞いたことあります?今大人気のキャラクターで、全然手に入らないんですよ」


 早口でそう語るルナの表情は輝いている。余程そのキャラクターが好きなのだろう。

 だが、それだけで命をかけられるものだろうか?愛華がそう疑問に思い、口を開きかけた時、静斗が先に質問をした。


「すまない、私は流行りに疎いんだ。だが、命の方が大事じゃないかい?」

「いや、これは特別なんです。というのも、これは兄からのプレゼンなんです。僕は親の離婚で兄と離れて暮らしていまして……中々会えない兄が、僕の為に頑張って手に入れてくれた宝物。だから諦めきれない……諦めたくないんです」


 ルナの言葉は全て怪しいが、少なくとも最後の言葉には本気の感情が乗っているように思えた。

 この話を信じるのなら、彼女がただのぬいぐるみの為に残っていることに納得はできる。いつでも帰れるし、霊にも怯えなくていいからこそ余裕があるのだろう。


 愛華はうんうんと頷きながら喋る。


「成程ね……話をまとめると、貴方はこの学校内のどこかにあるぬいぐるみを見つけたい。ワタクシ達は呪いを解いて脱出をしたい。だからこそ、お互いに協力をして目的を達成しようと」

「はい、その通りです」


 ルナは嬉しそうだ。やっと話が進んだからだろう。


「あっ、でも僕は1人で行動したいので、別行動でお願いします。それに、協力もおまけという扱いで大丈夫です。貴方達は脱出の為に行動しつつ、もしぬいぐるみを見つけたら……う〜ん、靴箱付近にでも置いておいてください。僕は僕で、探し物のついでにお役に立てそうな情報を探しておきますから。後、今回センセイに追われていた時のように危険な状態になっていたら手助けもしますよ。どうですか?」


 愛華と静斗はお互いに視線を合わせ、数秒間黙る。ルナの提案は、『確実に得られる物があるわけではないが、どちらも損はしない』というもの。ならば断ることもないだろう。

 静斗はルナに視線を戻す。


「その協力を受けるよ」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いしますね。……ああ、そうだ。もし次に行く場所に困っていたら、3階にある家庭科室がオススメですよ。あそこにとある男性の霊がいるのですが、口が軽い……お喋りな方だったので、何か聞けるかもしれません」


 それだけ言ってルナは部屋から出て行った。少しして、静斗は「あっ」と呟く。何か大事なことに気付いたのだろうか。


「超能力、見せてもらうのを忘れていたよ」

「静斗さん……」


 愛華は呆れたように静斗を見るしかなかった。

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