5話
「二手に分かれて捕まえに行くぞ。俺達男はこっち、女子達は向こうを探してくれ」
「分かりましたわ」
「りょーかいです!あきちゃん隊長!」
「ああ。奏も、それでいいね?」
「はいはい、分かりましたよ従いますよ〜」
完全には納得していない者もいるが、ひとまず全員秋の指示に従ってくれるようだ。皆が移動する中、秋はこっそり愛華に近寄る。
「愛華、時間がないから簡単に伝えるぞ。そっちには鶏が1羽いる。向こうに歩いて行けば会えるが、逃げるから追いかけてくれ」
「ふんふん、成程。それで?どうやって捕まえるんだ?」
「方法は──」
「あいちゃん〜?」
「宵月、行かないのか?」
「っ!」
宵月は一瞬悩んだ後に口を開く。
「長中水奈を信じろ。俺から言えることは以上だ」
「え!?」
秋はそれだけ伝えると、静斗と奏の方へ行ってしまった。固まって動かない愛華を水奈が心配そうに見つめる。
「あいちゃん?どうしたの〜?」
「な、何でもありませんわ。行きましょう」
♢♢♢
きちんとしたアドバイスができなかった秋。愛華を心配しつつも静斗達と移動を始める。しばらく走り続け、ある木の前で止まった。
「白露静斗。宵月秋。ここから鳴き声が聞こえないか?」
「え?……本当だ。よく気が付いたね」
耳を澄ますと、確かに太い枝の辺りから鶏の鳴き声が聞こえてくる。初見で気付くのは難しいだろう。
奏はじとっとした目つきで秋を見る。
「本当本当〜これは気付けないぜ。鶏が木の上にいるっていうのも、普通じゃ考えもしねぇし。最初から知っていたとしか思えないわ〜」
「奏、そう疑うのはよくないよ。私が鶏を捕まえてくるから、そこで仲良く待っていておくれ」
そう言うと静斗は──目にも止まらぬ速さで木を登っていく。王子然とした見た目からは想像もできない動きだ。
あっという間に目的の枝まで辿り着いた静斗は、見えない鶏を掴む。
「この辺りかな……おお!見えないのに触れるとは不思議だね」
(白露静斗、ゲーム通り凄い奴だ。流石、『テストは全部赤点だが運動神経は学校一』という設定を持つだけはある)
「よっと」
静斗は枝から軽やかな動きで飛び下りる。片手で透明な鶏を掴みながら、もう片方の手で顔の汚れを拭う。そして、儚い王子様のような笑みを秋達に向けた。
「まずは1羽、だね」
「うへ〜相変わらずヤバい運動神経してんな」
「それ程でもあるかな」
「自信満々だな。……白露静斗、もし俺が本当に黒幕だった時、お前はどうする?」
「え?そうだな……」
静斗は少し悩んだ後、優しい声音で告げる。
「殴るかな。難しく考えるのは苦手だし、暴力で解決するのが一番だ」
「野蛮」
「蛮族」
「脳筋」
「ゴリラ」
「「脳筋ゴリラ」」
「君達、本当は仲がいいだろう」
静斗はやれやれと言った様子で秋と奏を見た後、「それで?」と秋に問いかける。
「次に鶏がいそうな場所は分かるかい?」
「ああ、それなら見たら直ぐに分かる。あれだ」
秋が指差した先には雑草が生い茂っていた。そして、その中央は何か重い物がのっているかのように潰れていた。
「!あれか。次も私が──」
「ちょい待ち。お前は既に1羽捕まえてんだからオレが行く。ソイツを逃さないようにしっかり捕まえてろよ〜」
奏はそう言うと、草が潰れている辺りにそろりそろりと近付く。そして、勢いをつけて飛びかかった。
「とりゃ!……しゃあ!捕まえたぞ!」
奏の手元からは鶏の「コケ〜」という気の抜けた鳴き声が聞こえる。暴れている様子もない。どうやら無事に捕まえられたようだ。
「よくやった」
「とーぜん!」
「最後の1羽はどこだろうね」
「菊園愛華達が見付けているかもしれない。ひとまず戻らないか?」
「ふむ、そうだね。なら、この2羽を飼育小屋に戻しておこう」
話がまとまり、男子3人は来た道を引き返す。愛華と水奈がきっと鶏を捕まえていると信じて。
♢♢♢
さて、そんな期待をかけられている愛華達女子組だが……
「いませんわー!」
「ね〜。困ったなぁ」
全く成果を出せていなかった。
あれから秋に言われた通りの方向へ歩いているものの、鶏は見つからない。耳を澄まし、どんな音も聞き逃さないように進んでいるが、こうも見つからないと疲れてくるものだ。
愛華は死んだ目でぶつぶつと文句を呟く。
「本当にいるのか……もしかしてもう通り過ぎた?戻るか?戻った方がいいのか?」
「あいちゃん」
「あっ、な、何でもありませんわよ。へへへ、おほほほ」
「あいちゃん、こっち」
「す、水奈さん!?待ってくださいな」
走って行く水奈を追っていると、何かの音が聞こえてくる。これは……鶏の鳴き声だ!
「!いましたわね。凄いですわ、水奈さん!」
「えへへ、不安だったけど進んでよかったね〜」
「ええ。じゃあ、捕まえ──」
「コケー!」
「!」
鳴き声とともに鶏が走り去って行く音が聞こえてくる。まずい、逃げている。ここで逃すわけにはいかない。愛華は水奈に「追いますわよ!」と呼びかけ、追いかける。
「くっ、見えない……足音はするから目の前を走っていることは分かるのに、どこにいるのか分かりませんわ」
「う〜ん、どうしよう……あっ!あいちゃん!あれ!」
水奈が先の方を指差す。そこには花壇……に、水を撒く用の蛇口があった。蛇口にはホースが付いている。
「ホースで地面に水を撒くの!そうしたら鶏がどこにいるか分かるんじゃないかな?」
「そ、それはそうですが……でも、もう水なんて流れていないのでは?そんな可能性の低いこと……」
「大丈夫!すいを信じて!」
「……分かりました。先に行ってワタクシが水を撒きます。水奈さんはこのまま鶏を追いかけてください」
「りょーかい!」
愛華は走り出し、蛇口がある場所まで移動する。そして、蛇口を捻……
(硬い!何だこれ、ずっと使ってないからか?こんなの、捻れても水なんて……いや、秋も水奈もアタシに信じろって言ったんだ。疑って諦めるなんてあり得ねぇだろ)
そこまで考えていると、水奈の声が聞こえてきた。
「あいちゃん!今だよ!」
「ぐっ……おらあ!!」
無理矢理蛇口を捻る。すると、水が勢いよく出てきた。水はホースを通って外に流れ、地面を濡らす。そして──
「コケー!?」
丁度、鶏にもかかったようだ。鶏が歩くと水飛沫が舞う為、どこにいるかも簡単に分かるようになった。
水奈は鶏に走り寄り、躊躇うことなく掴む。鶏は先程まで逃げていたのが嘘のように大人しくなった。
愛華は水奈に駆け寄る。
「やりましたわね!」
「えっへへ〜あいちゃんのおかげだよ」
「2人で協力したのですから、2人の成果ですわ!」
「そっか……そうだね」
そう呟く水奈はとても嬉しそうだ。作戦が上手くいって喜んでいるのだろうか?
「あのね、あいちゃん。すいのこと、信じてくれてありがとう」
「え?」
「すい、よく直感で動くからさ、理論的?な説明とか、皆が納得できる言葉とか、そういうの言えなくて……すいのことを信じて行動してくれる人って全然いないんだ」
「水奈さん……」
「だからね!」
水奈はぐっと顔を愛華に近付ける。そして、心底幸せだと言わんばかりの顔で笑いかけてきた。
「すいのこと、ちゃんと信じてくれる……“友達”って思ってくれるあいちゃんが大好き!これからもずっと仲良しでいてね!」
「……ええ、もちろんですわ」
(アタシは愛華じゃねえ……だが、きっと本物の愛華でもこう答えるはずだ)
水奈が喜んでいる姿を眺めながら、愛華は嬉しいような、申し訳ないような複雑な気持ちになるのだった。
♢♢♢
「あら、皆さんもう戻っていましたのね」
「ああ。2人ともお疲れ様」
愛華達が飼育小屋に戻ると、既に静斗達が中にいた。愛華達も飼育小屋へ入る為、扉を開ける。ちゃんと捕まえて来たからか問題なく中に入れた。
「おっ、来たな。やっと鶏を放せる〜」
「え〜!ずっと捕まえたままだったの!?離してもよかったのに〜」
「いやいや、もしまた逃げられて捕まえろってなったら困るじゃん」
そんな会話をしていると、耕野が「んんっ」と声を漏らす。あまりの騒がしさに目が覚めたようだ。
「あれ……?ぼく、今まで何を……」
「こうちゃん!」
水奈は耕野に抱き付こうとしたが、鶏を捕まえていることを思い出し我慢する。しかし嬉しさは抑えきれないようで、その場でぴょんぴょんと跳ねて喜びを表現する。
「え、な、何?」
「耕野さん、貴方は気絶していましたのよ」
「へ?あ、そっか。急に現れた子供に驚いて……」
「アタシのこと〜?」
「ひっ!」
どこからかまた少女が現れる。耕野は驚いた後、愛華の後ろに隠れた。
少女はその様子を面白そうに眺めている。
「あはは!お姉ちゃん、反応がいいね〜。もっと驚かせたくなるや」
「なっ……お、お姉様〜」
「はいはい」
愛華は耕野の頭を撫でて落ち着かせながら、少女の方を向く。
「捕まえてきましたわよ」
「みたいだね。もう鶏を離していいよ」
静斗達は顔を見合わせた後、ゆっくり手を離す。すると、先程まで見えなかった鶏の姿が見えるようになった。
それと同時に、愛華達の脳内に映像が流れてくる。
『ほら!この木の枝太いし、首を吊るにはもってこいじゃない?手伝うからやりなよ』
『痛っ、や、やめて……』
『ふたなちゃ〜ん!ご飯の時間だよ!ほら、お野菜。いっぱい食べていいよ』
『あの、これ、雑草……』
『は?うざ。食べたくないなら食べさせてあげる』
『あっ、ごめ〜ん。お花に水をあげようと思ってたら手が滑っちゃった。びしょびしょだね〜ウケる』
『……』
「っ……今のは」
「あ、見えた?それは七外ふたなの過去だよ。可哀想だよね〜。まあでも、アタシ達には関係ないし、気にし過ぎない方がいいよ」
少女はそれだけ言うと、液体が入った小瓶を差し出してくる。解呪の薬だ。
愛華がそれを受け取ると、少女は「ばいばーい」と手を振って消えていった。
全員その場に無言で立ち尽くす。せっかく薬が手に入ったのに、最後に見たふたなの映像の生々しさのせいで素直に喜べない。
そんな中、静斗が口を開く。
「ひとまず薬を使おう。私はいいから誰か使ってくれないかな」
「……ぼくはいいよ。今回は迷惑かけただけで何もできてないし」
「俺は最後でいい。お前達で使え」
「おっ、そうか?なら長中が先に使えよ」
「え!?いいよ!そうちゃんが使いなよ」
「いーんだよ」
奏は愛華から薬を受け取ると、水奈の手を取り、中身をかける。愛華の時同様、痣は直ぐに消えていった。
「あ〜!使っちゃった」
「いいんだよ。言ったろ?レディーファーストだって。オレは女の子には優しいんだぞ〜」
「むむっ……ごめん」
「え〜ごめんじゃないだろ?」
「ありがとう!」
「よし!」
こうして2人目の呪いも解くことができた。この調子で後の4人の呪いも絶対に解いてみせると、愛華は更に気合を入れた。




