19話
何故、保健室で寝ているのだろう?真が不思議に思っていると、カーテンの向こうがバタバタと騒がしくなった。
シャッ
勢いよくカーテンが開かれる。そこにいたのは校門で真に話しかけてきた男子、高尾秀だった。
「北井!大丈夫か!?」
「クソ眼鏡……」
「高尾秀だ!」
秀はコホンと咳をする。
「君は校門で倒れ、1時間も意識を失っていたんだ」
「マジか……もしかしてお前が運んでくれたのか?」
「当然だ。目の前で倒れた人がいるのに放置するわけがないだろう。……まあ、お前にとっては余計なお世話かもしれないが……」
「いや、助かったわ。ありがとう」
「!?お、お前が礼を……!?あ、おい!待て!まだ休んでいろ!」
「平気だよ。じゃあな」
真は立ち上がり、保健室から出て行く。体に痛みはないが酷く疲れている。早く家で休みたい。
(秋は……アイツの中の奴はどうなったんだろう……もしアタシしか帰れてなかったら……)
そんな不安に苛まれながら家路に着くのだった。
♢♢♢
翌日。疲れてはいたもののあの世界のことを考えて眠れなかった真は、いつもよりも不機嫌なオーラを出しながら登校していた。
他の生徒達はそんな真を怖がり、彼女を避けていく。そんな光景も何だか苛々としてしまい、真は舌打ちをしながら靴箱を開けた。
「ん?」
上靴の上に1枚の手紙が置かれていた。首げつつその場で開く。
手紙には簡潔に一文だけ書かれていた。
『今日の放課後、校舎裏まで1人で来い。』
真は舌打ちをし、手紙をぐしゃぐしゃに握り潰す。それをポケットに突っ込み、溜息をついた。
(また果し状か?たくっ、面倒くせぇ〜。秋の中の奴を探しに行きてぇのに……けど、無視したのを逃げたって思われるのも腹立つ。嫌だが行っとくか)
心の中で手紙の主に悪態をつきながら教室に向かう。
授業はいつも通り退屈なまま終わり、直ぐに放課後になった。真はさっさと教室から出る。誰も真に近付いて来ない為、すんなりと待ち合わせ場所まで来れた。
真が来るのが早かったのか、校舎裏には誰もいなかった。
(はあ〜まだ来てねぇじゃねぇか。早くしないと秋の中の奴が帰るかもしれねぇのに〜)
真が焦っていると声が聞こえてきた。
「待たせたね!」
見ると、1人の男子生徒が立っていた。美しい黒髪に、灰色の瞳。綺麗な顔をしている。
男子生徒は親友に会ったかのように親しげに話しかけてくる。
「やあやあ、来てくれてよかったよ。僕のことは知っているかな?」
「知らねぇよ。有名人気取りか?自意識過剰野郎」
「口悪っ!機嫌が悪いのかい?もう……僕は君のことをよく知っているというのに」
「は?何だよ、弱みでも握る為に後をつけていたか?」
「そんなことはしないさ。僕は君と喧嘩したいわけじゃない、ただ仲良くなりたいんだ。ほら、これを見て。きっと君も僕と同じ気持ちになる」
そう言って男子生徒はスマホを取り出し、操作する。何を見せる気だ?真は警戒しつつ、次の行動を観察する。
スマホから音声が流れた。
『お姉様〜!どこですか〜?』
「あら、どうしましたの耕野さん。ワタクシを呼び、ました……」
やってしまった。甘えるような耕野の声に反射的に反応してしまった。
真の顔が段々と赤くなる。目の前の男子生徒は馬鹿にして笑うことはしない。だが、恥ずかしいことに違いはないのだ。
羞恥で震える真に気遣うことなく、男子生徒は自信満々な顔で胸を張る。
「どうだい!これは公式が投稿している『土井耕野 対お姉様ボイス集』だ!」
「お、お前ー!忘れろ!……って、これを聞かせてくるってことは……」
「ああ!まずは自己紹介をしようか!」
バッと手を真に向ける。
「僕は森中望。宵月秋として君と共にゲームの世界を冒険した者だ!」
「……」
「昨日ぶりだね、真さん。いや、菊園愛華!……ってあれ?反応がないな?お〜い……ぐふっ!?」
望に向かって真は勢いよく体当たり……もとい、抱き付く。望は受け止めきることができず倒れた。
望の上で真はぎゃんぎゃん喚く。
「お前お前お前!!アタシが昨日どれだけ心配したと思ってんだよ!てか、呼び出しの方法も他にあっただろうが!また喧嘩売られたのかと思って警戒したじゃねえか!」
「す、すまない……ちょっとしたサプライズというか、驚きの再会を演出したかったというか……」
「馬鹿!阿保!無事でよかった!」
「はは、ありがとう」
真はある程度言いたいことを言って落ち着いたのか、望から離れる。
「は〜……ごめん、落ち着いた」
「構わない。むしろ嬉しかったよ。あれが夢だったり、忘れられていたりしたらどうしようかと思っていたからね」
「夢……結局何だったんだろうな、昨日のは」
「さあね。確か、君も僕も謎の少女の声を聞いてあの世界に行ったのだったね」
「あ!それだ!忘れてた」
「色々あったからね。しかし、謎の少女にゲームの世界……何て興味深いんだ!」
「マジかぁお前」
真は引いているが、望は全く気にしていない。むしろ、その反応さえも面白そうに見ている。
「ふふ、実は僕、心霊研究・解明部の部長なんだ。こういった体験を実際にできるとは思ってなかったから、昨日からわくわくしっぱなしだよ。……あっ!そうだ!」
急に大声を出した望に真は驚く。だが、そんな真にもお構いなしに望は距離を詰める。真の手をぎゅっと握り、顔を近付けてきた。
「真さん!僕の部活に入らないかい?」
「はー!?アタシ、心霊なんて詳しくないぞ」
「僕がサポートするよ!なあ、いいだろう?君、どうせ暇だろう?」
「失礼な奴だな!……それに、アタシが入ったら他の部員が怖がるんじゃねぇの?」
「ああ、大丈夫。この部活、僕しかいないから。顧問もいない」
「それ部活じゃねぇよ」
望に引き下がる気はなさそうだ。キラキラと輝く瞳で真を見ている。
真は数秒悩んだ後、溜息をついた。
「分かったよ」
「本当かい!?なら、早速今から活動しよう!部室は空き教室を借りているんだ、行こう!」
「へいへい。……それ、許可とって借りてんの?」
「知っているかい?バレなければ許可を取る必要がないんだ」
「お前の方がよっぽど不良じゃね?」
そんな会話をしながら2人は歩き出す。昨日とは違う、穏やかな日常の中で笑いながら。




