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16話

『 少女は頑張っていましたが、ネックレスはネコさん達にあっさり見つかってしまいました。


「ちょっと〜学校にこんなの持って来ちゃ駄目でしょ〜?」

「ごめんなさい!もう持ってこないから!お願いします、返してください!」

「え〜どうしよう、信用できないな〜」

「そんな……」


 ネコさんはニヤニヤ笑っています。意地の悪い笑みです。


「ん〜じゃあ、先生に言うのはやめてあげる」

「本当!?」

「うん。はい!もう学校にこんなの持ってきたら駄目だよ」

「う、うん!約束する!」


 ネコさんが少女にネックレスを渡してきます。少女は安心してそれを受け取ろうとして──目の前で地面に落とされました。ネコさんはネックレスを踏み付けます。


パキッ


「あ」


 石の割れる音。確かめるまでもなく壊れてしまったと分かります。……分かってしまいます。


「色気付いてんじゃねぇよ」


 それだけ言い残し、ネコさん達は去って行きました。


 残された少女は粉々になった石の前で座り込みます。光のない、虚な目をして。


「はは……あははははは!!は〜……なんか、もうでもいいや」


 ネックレスだった物を拾い集め、少女は立ち上がります。大丈夫、きっと大丈夫。沢山我慢をしたから、良い子にしたから、きっとお姉さんと同じ所に行けるはずです。


「お姉ちゃんに言わないと……ありがとう、嬉しかったよって。壊しちゃってごめんねって。お姉ちゃん、お姉ちゃん……」


 少女はふらふらとした足取りで校舎へ向かいました。この先は幸せだと信じて。』



 物語が終わり意識が戻る──ことはなかった。暗転したかと思うと、今までと違う景色に変わる。


 クレヨンで描かれた可愛らしい森ではなく実写の映像。学校の暗い廊下を一人称視点で進んでいる。映画を見ているかのような気分だ。


「はぁ……はぁ……」


 荒い息遣い。時々立ち止まり、涙で滲む視界を手で拭う。階段を上り、上り、扉を開く。


ギィィ


 景色が開ける。そこは屋上で、空は嫌になる程の青空。雲一つなく、この世界には悲しみや苦しみなんて何もないかのようだ。


 これから“逝く”場所は素晴らしい場所だと祝福しているかのように感じる。


「は、はは……お姉ちゃん、待っててね」


 ゆらゆらと視線が揺れつつ前に進む。そして柵を飛び越え、地面に向かって──


ぐしゃ



 気付いたら愛華の意識は図書室に戻っていた。

 頭痛はない。だが、どうしようもない程に嫌な気分だ。それはその場にいる全員が同じなのだろう。皆、苦しそうな顔をしている。


「……ぼくはふたなのこと、ここまで知っても好きになれない。けど、こんな最後なんてあまりにも……」

「惨いよな。ふたなに同情するわ……本当、いじめを平気でする奴らの気が知れねぇ」

「で、でもさでもさ!ふたちゃんは最後まで誰も呪っていなかったよね!」

「え?」


 確かにそうだ。ふたなは親に殴られても、助けた子達に見捨てられても、いじめっ子に石を割られた時でさえ恨み言一つ口にすることはなかった。それは、従姉妹に夢を見ていたからか、それとも全てを諦めていたからかは分からない。だが、今のふたなとは別人と言っても言い程だった。


 愛華は雫の言葉を思い出し、ポツリと呟く。


「ふたながこの学校を呪ったのではなく、学校がふたなを呪って利用している、ね。あの幽霊が言った言葉がようやく理解できましたわ」

「ああ、そうだね。過去のふたなはあの瞬間、本当に死んだ。今、私達を呪い、弄んでいるのは別の存在なんだ」

「……そう思うとさ、ふたなってずっと被害者なんだよな」

「ええ、そうなの」


 少女が愛華達の話に割り込んでくる。


「七外さんはずっとずっと苦しんで、死んでからも体を利用されて、何であの子がこんなに酷い目に遭わないといけないのか分からない」

「貴方はふたなを恨んでいませんのね」

「……恨む資格なんてない。むしろ、これは当然なの。七外さんはいじめられていた私を救ってくれた。でも、彼女がいじめられている時に私は、怖くて……本当、最低」


 ボロボロと溢れる涙を少女は乱暴に拭う。そして赤くなった目を愛華達に向けた。


「ごめんなさい、取り乱しちゃった。はい、これ。ゲームクリアおめでとう」


 差し出されたのは薬の小瓶。静斗はお礼を言いながらそれを受け取った。

 このまま落ち込んでいても仕方ない。やっとゲームをクリアしたのだから、気持ちを切り替えて進むべきだ。そう考え、静斗はわざと明るい声を出す。


「さて、宵月。残っているのは私と君だけだけれど……この私に速さとパワーで挑んでみるかい?」

「それは悪役側の台詞だろう……」

「もういんじゃね?宵月が使って」

「いいのか?お前は俺のことを疑っていたじゃないか」

「いいって。ここまできたら流石にもう疑ってぇよ。別に死んでほしいわけでもねぇし」

「……そうか」


 秋は右手を出す。その従順な様子に静斗は満足そうだ。秋の手の甲に薬をかける。

 秋の痣も消え、残るは静斗のみとなった。この後はどこに行こうかと話し合っていると、少女が話しかけてきた。


「次に行く場所が決まっていないのなら職員室がオススメだよ」

「え?そこで最後のゲームができるってことかい?」


 静斗の問いかけに少女は頷く。


「私の本によれば、ね。けど、結構危険。せっかく呪いが解けたのだから、1人を置いて皆で逃げるって選択もできるけど……」

「しませんわ」


 少女が言い終わる前に愛華が否定する。他の皆もそれに続く。


「まっ、ここまできたらな」

「薬を譲ってもらったのに自分だけ逃げるなんて、そんな可愛くないことできるかよ」

「うんうん、皆一緒じゃなきゃ意味ないもん!」

「……だ、そうだ」

「ふふ、私はいい友人をもったよ」

「そう……」


 少女は目を瞑る。ふたなに助けられ、けれどふたなを見捨てた彼女はこの友情がどう見えているのだろうか。

 数秒して目を開く。最初に会った時の無関心とは違う、優しい瞳だ。


「貴方達のこと、応援している。頑張って」


         ♢♢♢


 1階まで下り、職員室の前までやって来た。直ぐに扉は開けず、外から中の音を聞く。……何も聞こえない。ひとまず安全そうだ。静斗は扉を開けた。


「おっと、これは……ここまでで一番荒れているね」

「うわっ、壁も傷だらけじゃん。怖〜」


 最後に入った奏は扉を閉めつつ、部屋の惨状に顔を顰める。


 職員室の中は図書室と違い荒れていた。埃まみれの机にはボロボロの紙や筆記用具が散らばり、床は倒れた椅子で歩きづらい。部屋の奥にはホワイトボードが置かれており、そこには大きい文字で『助けて』と書かれていた。

 耕野が辺りを見渡す。


「今のところ幽霊はいないけど、本当にここで最後のゲームをするのか……?」

「そのはずですわ。もう少し待ってみましょう」

「ああ、俺もそれがいいと思う。だが、それならこの部屋を探索しないか」


 秋の提案を受け入れ、皆で職員室を見て回ることになった。

 そんな中、奏が何かを見つけた。


「ん?これ……」


 机の上に置かれた一枚の紙。他の紙と同じくボロボロの古い紙だが、丁寧に折りたたまれている。表面には『呪われた人間へ』と書かれていた。


(何だこれ?……まあ、読んでみれば分かるだろ)


 奏は紙を開く。


『この手紙を読んでいる方へ


 ボクの名前は雪乃雫。この学校に足を踏み入れ、呪われ、呪いを解く為に探索をしているただの人間です。』


「!この手紙……」


 雪乃雫……確か、家庭科室で会った幽霊だ。


『 ボクのように呪いを受けて出れなくなった人達の力になりたいと思い、この手紙を書くことにしました。』


「アイツ……生きるか死ぬかって状況でこんなことを……おかしい奴だったけど、悪い奴じゃなかったんだな」


『 ではまず、ボクがここに来た理由、きっかけを話していこうと思います。ボクは元々心霊現象に興味があり──』


「アイツ……生きるか死ぬかって状況でこの必要ない長い文章を……?余裕じゃん……」


 そうだった、あの幽霊はとにかく喋るのが長かった。奏が呆れていると、愛華達もその手紙に気付いたようだ。奏はこれが雫の残した物だと説明し、必要そうなところを読み上げる。


『 貴方はセンセイとはもう出会っただろうか?粘土で作った大きい蛙のような化物です。これは偶然知ったことですが、あの化物は倒すことができます。』


「!」


『 他の幽霊と違い、あの化物には物理攻撃が効くのです。特に顔辺りが脆く、目を潰して逃げることができました。

 あれの目は口元にあります。口元に紙が貼ってあるので、その中心を狙ってください。試していませんが、他にも色々と効果があるでしょう。


 ここまで書きましたが、無理に戦わず逃げることも大切です。あれは知能があまり高くない。もしもの時は無駄な戦闘を避けてくださいね。』


 まさかあの化物に攻撃ができるとは……。有用な情報を得たと愛華が思っていると、奏が首を傾げた。


「んん?何かこの先は滲んで読みづらいな……えっと、『何かに使えると思い……を……のロッカーに隠しました。貴方の助……です。』か」

「何だよそれ。大事なところが全く分からないじゃないか」

「仕方ないだろ〜」

「だが、何か使える物をロッカーに隠してくれたことは分かったね。それを探しに行こうか」

「……!み、皆!あれ見て!」


 皆が手紙を囲んで話し合っていると、水奈が急に叫んだ。

 水奈が指差しているのはホワイトボードだ。そこに書かれいてた文字が『助けて』から変わっていた。


『ゲーム センセイを殺せ』

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