番外編 エレノアは、知っている
わたしは、
まわりの大人が思っているより、
たぶん、いろいろ知っている。
泣けば困らせること。
わがままを言えば、空気が悪くなること。
「いい子」でいれば、みんな安心すること。
だから、
ぬいぐるみと話す。
この子たちは、
なにも聞かないし、
なにも期待しない。
――そう、思っていた。
あの日。
お母さまが連れてきた人は、
少し、変わっていた。
綺麗なドレスを着ているのに、
音を立てずに歩く人。
声が、大きくない人。
わたしのぬいぐるみを見て、
「かわいいですね」じゃなくて、
「大事にされていますね」と言った人。
――あ、この人。
ちゃんと、見てる。
その人は、
ぬいぐるみに服を作ってくれた。
うさぎには、
ひらひらしすぎないドレス。
くまには、
抱きしめても痛くならない上着。
ねこには、
動きやすい、短いマント。
みんな、
わたしの“好き”を、
わたしより先に知っていた。
夜。
その人は、
そっと、毛布をかけてくれる。
起こさない。
でも、いなくならない。
わたしは、
その人がいると、
ちゃんと眠れる。
ある日。
わたしは、
はじめて、言った。
「これ、いや」
着せられたドレス。
きらきらして、重たい。
空気が、止まった。
でも、その人は、
怒らなかった。
「じゃあ、どんなのがいい?」
――聞いてくれた。
うさぎと、
おそろいがいい。
それを言ったら、
その人は、少しだけ驚いて、
とても、嬉しそうに笑った。
お茶会の日。
わたしは、
ちゃんと、子どもだった。
ドレスが、うれしくて。
ぬいぐるみと、同じで。
褒められて、照れて。
その人は、
後ろで、静かに立っていた。
でも、
わたしは知っている。
あの場所に、
わたしを連れてきたのは、
その人だ。
だから。
その人が、
遠くへ行くと聞いたとき。
わたしは、
泣かなかった。
泣いたら、
困らせるから。
かわりに、
ぎゅっと、ぬいぐるみを抱いた。
精霊さまの、
ちいさなぬいぐるみ。
――まもって。
わたしは、
また、いい子でいる。
でも。
いつか、
大きくなったら。
今度は、
わたしが、
あの人を迎えに行く。
ちゃんと、
「おかえり」って言うために。
エレノアは、
それを、決めている。
エレノア視点、いかがでしたでしょうか。
本編ではあまり描けなかった「彼女が知っていたこと」を、今回は静かに書いてみました。
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