第十三章 選ぶ場所、選ばれる未来
第63話 告げられた話
辺境伯からの申し出は、
とても簡潔だった。
「……辺境に、来てほしい」
場所は、公爵家の応接室。
公爵夫人も同席している。
「正式な縁談として、だ」
私は、すぐには答えられなかった。
驚きは、なかった。
けれど――重い。
「急がせるつもりはない」
辺境伯は、真っ直ぐ前を見たまま言う。
「だが、辺境は今、
変わる必要がある」
その言葉の意味は、
痛いほど、わかった。
第64話 公爵夫人の本音
話が終わり、
辺境伯が席を外したあと。
公爵夫人は、私に向き直った。
「……行きなさい、とは言わないわ」
その声は、優しい。
「でも、
あなたが“選ばれる”理由は、わかる」
私は、膝の上で手を握りしめた。
「私が、いなくなったら……」
「寂しいわよ」
即答だった。
けれど、夫人は微笑む。
「それでも、
あなたは“ここで終わる人”じゃない」
胸が、熱くなる。
「居場所は、
与えられるものじゃないの」
夫人は、はっきりと言った。
「あなたが、
作るものよ」
第65話 夜の対話
その夜。
工房に、
ひとりで座っていた。
布も、針も、
そこにあるのに、手が動かない。
「……どう思う?」
小さく、そう呟く。
答えは、ない。
けれど。
床の石が、
静かに、温かい。
風が、
窓を揺らす。
水音が、
遠くで響く。
炎は、
消えずに灯っている。
――言葉はなくても。
精霊たちは、
“見送る準備”をしている気がした。
第66話 決意
翌朝。
私は、辺境伯を呼び出した。
「……お返事を」
彼は、
何も言わず、待つ。
「辺境へ、行きます」
一瞬、
彼の目が揺れた。
「ただし」
私は、続ける。
「仕立て屋として。
誰かの“付属品”には、なりません」
彼は、
ゆっくりと頷いた。
「それでいい」
むしろ、
誇らしげに。
「その覚悟があるから、
頼んだ」
第67話 旅立ちの準備
屋敷では、
静かな慌ただしさが広がっていた。
エレノア様は、
私の袖をつかんで離さない。
「……また、くる?」
私は、膝をついて答える。
「ええ。必ず」
そして、
小さなぬいぐるみを渡した。
四人の精霊を、
デフォルメしたもの。
「おまもり」
エレノア様は、
ぎゅっと抱きしめた。
「……いってらっしゃい」
その言葉に、
私は、初めて涙を流した。




