表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追い出された貧乏男爵令嬢、ぬいぐるみ職人として公爵家に拾われました 〜宝石の名を持つドレスは精霊と辺境を救います〜  作者: かも@ろん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/18

第十一章 風は、境界を越えて

第53話 噂は、窓から入ってくる


 最近、来客が増えた。


 仕立て屋の扉を叩くのは、

 貴族だけではない。


「王都の外でも、

 こちらの服が話題になっておりまして」


 そう言って頭を下げたのは、

 地方の商会の者だった。


「動きやすくて、品がある。

 しかも、着る人を邪魔しない、と」


 私は、少し驚いた。


「……そんなふうに、言われているんですか?」


「ええ。

 “風のようだ”と」


 ――風。


 その言葉が、胸に残った。


第54話 軽やかな訪問者


 その夜。


 工房の窓が、ひとりでに開いた。


「……あ」


 風が、流れ込む。


 けれど、冷たくない。

 むしろ、心地いい。


「やあ」


 軽やかな声。


 振り向くと、

 淡い緑の人影が、宙に腰掛けていた。


 短い髪、柔らかな笑み。

 羽のような装飾が、肩で揺れている。


「……風の精霊、さん?」


「そうそう」


 楽しげに、精霊は頷いた。


「君の服、よく飛ぶね」


 ――飛ぶ?


「人から人へ、街から街へ。

 話題も、一緒に」


 私は、思わず苦笑した。


「私は、そんなつもりでは……」


「知ってる」


 風の精霊は、にこっと笑う。


「だから、頼みに来た」


第55話 風に必要なもの


「欲しいのは、

 “留めない衣”」


 風の精霊は、くるりと回った。


「速くなりすぎず、

 散らかりすぎず、

 でも、止まらない」


 ――難しい。


 けれど、

 どこか、聞き覚えがあった。


「……普段着、ですね」


「正解」


 風の精霊は、指を鳴らす。


「日常に溶けるものが、

 一番、遠くまで行く」


 私は、エメラルド色の布を選んだ。


 深すぎない緑。

 若葉のような色。


 形は、シンプルに。

 装飾は、風の流れを示す程度。


「これは……」


 完成した衣を見て、

 私は息を吐いた。


 軽い。

 でも、頼りないわけじゃない。


第56話 エメラルドの衣


 風の精霊が、それを纏う。


 次の瞬間。


 工房のカーテンが揺れ、

 紙が舞い、

 けれど、何一つ落ちない。


「……いいね」


 精霊は、満足そうに言った。


「これなら、

 情報も、流行も、

 ちゃんと形を保ったまま運べる」


 名前は、

 エメラルド。


 若さと、循環の色。


「加護、置いていくよ」


 そう言って、

 風の精霊は、窓の外へ溶けていった。


第57話 広がる輪郭


 翌日から。


 仕立て屋には、

 地方貴族や、商会からの依頼が増えた。


「旅に向いた服を」

「動きやすいけれど、失礼にならないものを」


 私は、一つひとつ、丁寧に応じた。


 エレノア様は、窓辺でぬいぐるみを並べながら言う。


「……みんな、来るね」


「風に、乗ってるのかもしれません」


 そう答えると、

 小さく笑ってくれた。


 私は、まだ知らない。


 この“風”が、

 やがて――

 私を、王都の外へ連れ出すことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ