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追い出された貧乏男爵令嬢、ぬいぐるみ職人として公爵家に拾われました 〜宝石の名を持つドレスは精霊と辺境を救います〜  作者: かも@ろん


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第十章 水は、やさしく包む

第48話 静かな午後と、お茶の時間


 午後の陽射しが、窓から柔らかく差し込んでいた。


 公爵家の小さな居間。

 丸テーブルの上には、焼き菓子とハーブティー。


 エレノア様は、私の隣でぬいぐるみを抱いている。

 うさぎ、くま、ねこ。

 それぞれ、私が作った服を着せた子たちだ。


「……今日は、この子」


 そう言って差し出されたのは、

 少し古い、くまのぬいぐるみ。


 ほつれた耳。

 擦り切れた手足。


「大切に、されてきたんですね」


 そう言うと、

 エレノア様は、少しだけ誇らしげに頷いた。


「いちばん、ながく一緒」


 私は微笑み、

 新しい服の構想を思い描いた。


 この子には、

 安心できる色がいい。


第49話 水の精霊は、そっと現れる


 針を動かしていると、

 部屋の空気が、しっとりと変わった。


 湿り気を帯びた、心地よい感覚。


 ――ぽたり。


 水音。


 顔を上げると、

 窓辺に、淡い青の人影が立っていた。


 長い髪は水のように揺れ、

 瞳は湖面の色。


「……水の精霊、さん?」


「ええ」


 声は静かで、

 それだけで心が落ち着く。


「あなたの作るものは、

 傷ついたものを、元の流れに戻す」


 私は、手を止めた。


「……癒やし、ですか?」


「癒やしだけではないわ。

 巡らせるの」


 精霊は、くまのぬいぐるみを見つめた。


「その子にも、衣を」


第50話 流れを縫い込む


 水の精霊の依頼は、

 とても抽象的だった。


 「包むこと」

 「冷やしすぎないこと」

 「留めないこと」


 ――流れ。


 私は、水色の布を手に取った。

 澄んだ色だが、少し緑を含んでいる。


 刺繍は、波紋のように。

 縫い目は、規則正しく、けれど固くならないように。


「……これは」


 ドレスというより、

 羽衣に近い。


 名前は、

 ターコイズ。


 水と大地をつなぐ色。


第51話 涙の理由


 完成した衣を、水の精霊が纏う。


 その瞬間、

 空気が、やさしく満ちた。


「……ありがとう」


 精霊の目から、

 一筋の雫が落ちる。


「人は、水を忘れがち。

 でも、あなたは覚えている」


 胸の奥が、きゅっとする。


「……私、そんな大層なことは」


「しているわ」


 水の精霊は、微笑んだ。


「だから、加護を」


 また、温かさ。


 今度は、

 胸から全身へ、静かに広がった。


第52話 日常に戻る場所


 その夜。


 エレノア様は、くまのぬいぐるみを抱いて眠っていた。


 新しい服を着た、その子を、

 ぎゅっと胸に抱いて。


「……安心する」


 寝息混じりの声。


 私は、そっと毛布をかけた。


 特別なことは、何もしていない。


 ただ、

 誰かが安心できる形を、作っただけ。


 水の精霊は、

 窓の外で、静かに見守っていた。


 この仕立て屋が、

 “守る服”を作る理由を。

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