表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追い出された貧乏男爵令嬢、ぬいぐるみ職人として公爵家に拾われました 〜宝石の名を持つドレスは精霊と辺境を救います〜  作者: かも@ろん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

第八章 地より生まれし、オパール

第38話 夜の工房にて


 夜の工房は、静かだった。


 ランプの灯りが、机の上を淡く照らす。

 針山、糸巻き、布切れ。

 どれも、私にとっては馴染み深いものだ。


「……次は、どれにしよう」


 ジュエルシリーズの布見本を広げながら、私は呟いた。


 オパール、トパーズ、ガーネット。

 それぞれに、色も、光り方も、意味も違う。


 その時。


 ――ごとり。


 机の下で、音がした。


「?」


 身をかがめると、

 床の上に、小さな石が転がっている。


 いつの間に?


 拾い上げると、それはオパールだった。


 乳白色の中に、虹色の光を閉じ込めたような、不思議な石。

 見る角度によって、表情が変わる。


「……綺麗」


 指先が、じんわりと温かくなる。


 ――その瞬間。


 影が、揺れた。


第39話 地の精霊は、静かに語る


「驚かせてしまったかな」


 低く、穏やかな声。


 顔を上げると、

 そこには“人の形をした何か”が立っていた。


 大地の色をした衣。

 髪は岩のようで、目は深い琥珀色。


 けれど、不思議と――

 怖くはなかった。


「……どちらさまですか?」


 そう尋ねると、

 それは、ゆっくりと微笑んだ。


「地を司る者だ。

 人は、地の精霊と呼ぶ」


 ――やっぱり。


 驚きよりも、

 どこか納得が先に来た。


「あなたが、宝石の名を与え、

 布に形を与えている者だね」


「……はい。仕立て屋です」


 そう答えると、

 精霊は、少しだけ目を細めた。


「なら、頼みがある」


 差し出されたのは、

 先ほどのオパール。


「この石を、

 “衣”にしてほしい」


第40話 仕立て屋の答え


「……私で、よろしいのですか?」


 思わず、そう聞き返した。


 精霊なのだから、

 もっと特別な力を持つ者に頼めばいい。


 けれど、精霊は首を振る。


「力を増すためではない。

 理解してくれる者に、託したいだけだ」


 私は、石を見つめた。


 オパールは、主張しない石だ。

 光はあるのに、強くはない。


「……わかりました」


 私は、静かに頷いた。


「この石が、

 一番きれいに見える形を、考えます」


 それでいい、と精霊は言った。


 こうして、

 私の中で“オパールドレス”が始まった。


第41話 オパールという名のドレス


 布選びは、慎重に行った。


 白すぎず、

 色を持ちすぎない生地。


 光を反射するのではなく、

 受け止めるもの。


 刺繍は最小限。

 ビーズも、使いすぎない。


 オパールが主役であるべきだから。


 完成したドレスは、

 静かで、柔らかかった。


 精霊がそれを身に纏った瞬間。


 ――空気が、変わる。


 床が、壁が、

 確かに“息をした”。


「……これは」


 精霊の声が、わずかに震える。


 その姿は、先ほどよりも、はっきりとしていた。


「格が……上がった」


 私は、目を瞬いた。


「それは……良かったです?」


「ああ。とても」


 精霊は、深く頭を下げた。


「礼を言おう。

 この加護を、君に」


 胸の奥が、温かくなる。


 けれど、

 何かが変わった実感は、まだなかった。


第42話 気づかぬまま、守られて


 翌朝。


 庭の土は、以前よりも柔らかく、

 花の色が鮮やかだった。


 公爵夫人は、不思議そうに言う。


「庭師の腕が、急に上がったみたいね」


 私は、微笑むだけだった。


 工房では、

 針が折れず、布が傷まない。


 ただ、それだけ。


 ――けれど。


 地の精霊は、工房の片隅から、静かに見ていた。


 自分を“特別扱いしない”この仕立て屋を。


 そして、

 これが始まりに過ぎないことを、知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ