第11話 罪状:物語の乱用【幕1】告発
王都・中央広場。
石畳は乾いていた。
数週間前、制度検証の公開討議が行われたその場所は、今は静かだった。
断罪制度は一時停止。
再設計委員会が発足し、王都は「次の形」を模索している――はずだった。
だが、その朝。
掲示板に新たな告示が貼られた。
白い紙。
余白は広く、文字は黒く、迷いがない。
公開検証
罪状:物語の乱用
ざわ、と空気が揺れる。
誰だ。
何の話だ。
また誰かを裁くのか。
人々が集まり、読み、顔を上げる。
続きの一文。
対象:断罪制度運営陣
及び
物語設計責任者
視線が、ゆっくりと動く。
一つの方向へ。
デルガ。
彼はその場に立っていたわけではない。
だが、名はすでに広場にある。
人々の頭の中で。
「物語設計責任者」
それは彼の肩書きではなかった。
だが、事実だった。
断罪は、制度であると同時に、演出だった。
構図。対立。象徴。
若者。怒り。救済。
誰が設計したのか。
――デルガ。
◇
公開検証の日。
広場は再び埋まる。
だが、以前と違うのは、
怒号ではなく、戸惑いだった。
断罪は停止中。
それでも人は集まる。
なぜならこれは――
制度ではなく、構造への告発だからだ。
壇上に立ったのは、若い議員だった。
再設計委員会の最年少。
まだ理想を失っていない目をしている。
彼は声を張り上げない。
淡々と、だがはっきりと告げた。
「本日の検証対象は、断罪制度そのものではありません」
ざわめき。
「国家が“物語”を乱用した可能性について、検証します」
空気が、冷える。
彼は続ける。
「断罪は、人を“役”に押し込めました」
レイアの名を出さずとも、誰もが思い浮かべる。
悪役令嬢。
象徴。
舞台の中心。
「善悪の構図を強制しました」
王子。
カイ。
観衆。
「若者を象徴として消費しました」
沈黙。
「政治的緊張を、物語化して単純化しました」
それは、痛いほど正確だった。
複雑な問題を、
“悪”という一点に集約する。
怒りを集め、放出する。
浄化。
拍手。
次へ。
彼は最後に言った。
「国家は、物語を乱用した」
広場が、息を止める。
それは制度批判ではない。
文化構造への告発だった。
◇
カイは、壇上の端に立っていた。
彼の目が揺れる。
怒りか。
否定か。
それとも、裏切られたという感情か。
若手議員の言葉が終わると同時に、
彼は前へ出た。
「乱用?」
その声は、いつもの滑らかな調子ではない。
荒い。
「物語がなければ国は動かない!」
広場がざわめく。
彼は続ける。
「人は理屈では団結しない!」
「制度だけでは感情は動かない!」
「物語は国家の血流だ!」
その言葉は、計算ではない。
本音だった。
「あなたたちは、何を望む?」
「冷たい報告書か? 数字の羅列か?」
「怒りを、どう処理する?」
「喪失を、どう共有する?」
彼の声は震えていた。
「物語があったから、人は立ち上がった」
「物語があったから、国家は崩れなかった」
彼にとって物語は武器ではない。
信念だった。
国家を動かすための、最後の橋。
「それを“乱用”と言うのか?」
沈黙。
誰もすぐには答えない。
若手議員も、言葉を選んでいる。
だが、広場の空気は変わっていた。
怒りではない。
疑問。
物語は必要か。
必要なら、どこまで許されるのか。
そのとき。
群衆の後方から、ゆっくりと歩いてくる影があった。
デルガ。
彼はまだ何も言わない。
だが、彼が前に出るという事実だけで、
空気は張りつめる。
物語を設計した者。
制度を構築した者。
彼は、逃げない。
広場は静まり返る。
物語が、物語そのものを裁こうとしている。
幕が上がったばかりだ。
【幕1 告発 終】




