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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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41/47

【幕2】責任

広場は揺れていた。


怒号ではない。

混乱でもない。


――空白。


誰を見ればいいのかわからない空気。


若手議員の告発の余韻がまだ残っている中、

ゆっくりと一人の男が前へ出た。


デルガ。


石畳を踏む足音が、やけに大きく響く。


彼は壇の中央に立つと、

群衆を見渡し、

そして、静かに言った。


「私が設計した」


ざわめきが広がる。


だが彼は続ける。


「若さを燃料にしたのも」


レイアの横顔が脳裏に浮かぶ者がいる。


「怒りを市場に変えたのも」


拍手。

歓声。

視聴率。

支持率。


「物語として整形したのも」


断罪の構図。

悪役。

救済。

浄化。


彼は一度、息を吸った。


「私だ」


空気が落ちる。



「違う!」


叫んだのはカイだった。


彼は前に出る。

目は赤い。


「進化させたのは私だ!」


「演出を洗練させたのは私だ!」


「拡張したのは私だ!」


彼の声は、怒りと焦燥が混ざっている。


だがデルガは首を振った。


「設計思想は、私から始まった」


その一言は、

言い訳でも、弁明でもない。


ただの事実。


「国家は怒りを処理できない」


「ならば舞台を作ろう」


「対立を構造化しよう」


「若者を象徴にしよう」


「物語で包もう」


その最初の一線を引いたのは――


「私だ」


沈黙。


デルガはまっすぐ前を向く。


「ならば私が終わらせる」


ざわ、と空気が震える。


「責任は、設計者にある」


「制度を止めるなら、私を裁け」


彼は自ら、被告席に立った。


誰も命じていない。


誰も押していない。


自分で、そこに立った。



観衆は戸惑う。


悪役がいない。


怒るべき相手がいない。


カイは怒っているが、悪ではない。

デルガは認めたが、開き直っていない。

若手議員も糾弾ではなく問いを投げている。


英雄もいない。


勝者もいない。


構図が成立しない。


石畳の上で、人々は初めて気づく。


これまで求めていたのは――


わかりやすい役割だった。


善と悪。


主人公と敵。


泣く者と裁く者。


それがあれば、安心できた。


怒りを預けられた。


拍手できた。


だが今。


舞台の中央に立つのは、


「責任」という、

形のないものだった。



カイは震えている。


怒りだけではない。


恐れ。


「物語を奪うのか?」


その声は、かすれている。


「民は何を信じればいい?」


彼はデルガを見る。


「制度を止めれば終わりか?」


「構図を壊せば成熟か?」


「物語が消えれば、国家は何になる?」


広場が静まる。


「無機質な管理社会だ」


「数字と報告書だけの世界だ」


「誰も感情を共有しない」


「誰も熱を持たない」


彼は拳を握る。


「物語は必要悪じゃない」


「人間の本質だ」


「火を消せば安全かもしれない」


「だが、光も消える」


彼は理屈で戦っていない。


本能で守っている。


人は物語を求める。


役を欲する。


象徴を欲する。


それを完全に排除することはできない。


できると思う方が傲慢だ、と。


「あなたはそれを理解しているはずだ、デルガ!」


叫び。


だがデルガは静かだ。


彼の目は、カイではなく群衆を見ている。


問いは、ここにある。


物語は必要か。


必要なら、誰が責任を持つのか。


排除するのか。


制御するのか。


成熟させるのか。


広場は答えを持たない。


だが、以前のように拍手も起こらない。


誰も役を与えられていないからだ。


断罪が止まり、


物語が揺らぎ、


国家は今、

裸のまま立っている。


幕はまだ降りない。

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