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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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39/47

【エピローグ】

夜。


数万人を飲み込んだ広場は、ゆっくりと静けさを取り戻していた。


足音が遠ざかり、

旗が畳まれ、

魔導拡声塔の光が一つずつ落ちていく。


炎はない。


舞台は残っている。


だが、もう動かない。


それはまるで、

巨大な問いだけを残して沈黙している装置のようだった。


壇上の端に、カイが立っている。


外套の裾を夜風が揺らす。


彼は結果を思い返していた。


「存続」でもない。

「廃止」でもない。


最も多く灯ったのは――


「再設計」。


制度は否定されなかった。


だが、無条件では許されなかった。


カイは小さく息を吐く。


「負けたわけではない」


その声は静かだった。


デルガが隣に立つ。


「勝ちでもない」


二人の間に、火花はない。


かつての対立は、今は重さに変わっていた。


カイは舞台を見下ろす。


「制度は進化したはずです」


「透明で、公平で、合理的に」


デルガは頷く。


「だからこそ、検証に耐えた」


しばらく沈黙。


「だが――」


デルガは続ける。


「完成した制度は、

やがて自らを目的にする」


カイは視線を落とす。


「問い続ける限り、制度は生きる」


その言葉に、デルガはわずかに目を細めた。


王城。


高い窓の前に、王子アルベルトが立っている。


王都の灯りが、夜に散っている。


静かだ。


怒号も歓声もない。


「断罪は必要だった」


王子は独り言のように言う。


「若さの炎を制御するために」


「怒りを暴走させないために」


「国家を安定させるために」


だが。


「永遠ではない」


窓に映る自分の姿を見つめる。


「制度は、国家の道具だ」


「国家は、制度の奴隷ではない」


広場では、最後の装置が停止する。


光が消えた瞬間、


そこに残ったのは、


ただの石畳。


第四段階が、静かに始まっていた。


若さを燃やさず。


怒りを商品化せず。


正しさを“処理”にせず。


国家は、


答えを固定するのではなく、


問い続ける構造へ進もうとしている。


デルガは広場を見渡す。


炎の時代を思い出す。


若さがぶつかり、

歓声が天を裂いた。


娯楽の時代。


怒りが商品になり、

正義がショーになった。


処理の時代。


美しく、冷静で、

しかしどこか静かに削れていった若さ。


そして今。


炎はない。


だが空虚でもない。


「断罪が成熟したのではない」


デルガは小さく呟く。


「国家が、ようやく成熟を始めたのだ」


遠くで、夜警の鐘が鳴る。


カイは最後に舞台を振り返る。


その目に、敗北はない。


探究がある。


王子は窓を閉じる。


風が止む。


夜は静かだ。


だがその静けさの奥で、


新しい構造が、ゆっくりと動き始めている。


断罪の時代は終わらない。


だが形を変える。


問いは続く。



第10話、完。

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