【幕3】制度の裁き
広場に張りつめた空気は、もはや熱ではなかった。
王子アルベルトはゆっくりと視線を巡らせ、
静かに言う。
「制度を、被告席へ」
魔導鏡が点灯する。
映し出されるのは、人物ではない。
文字。
断罪制度 検証項目
王子は一つずつ読み上げる。
「第一。若者依存構造の存在」
五歳の少女。
十七歳の聖女。
二十歳の令嬢。
若さが燃料となった歴史が映し出される。
「第二。感情市場化の過去」
炎の時代。
歓声。
経済効果。
商品化された怒り。
「第三。演出による誤認誘導」
再現映像。
誇張された証言。
境界の曖昧化。
「第四。象徴の消耗」
魔導鏡に映るのは、
静かに壇を降りるレイアの姿。
美しく、理性的で、そして消耗していく象徴。
「第五。国家権力と世論の混合危険」
王権と怒りが重なった瞬間の危うさ。
広場は息を呑む。
初めてだ。
制度が、
人ではなく、
構造そのものが、
被告席に立っている。
王子は振り向く。
「デルガ。証言せよ」
足が重い。
だが彼は進み出る。
数万人の視線。
炎の時代を知る者。
娯楽の時代を支えた者。
処理の時代を見届けた者。
そのすべてを背負う。
「私は……」
声がわずかに震える。
「断罪を設計し、支え、疑い、
そして見届けてきました」
魔導鏡に、過去の場面が断片的に映る。
怒号。
歓声。
冷静な評決。
「炎の時代がありました」
若さがぶつかり、
国家は熱を得た。
「娯楽の時代がありました」
怒りは商品となり、
秩序は演出された。
「そして処理の時代」
静かな納得。
完璧な透明性。
美しい着地。
彼は一度、目を閉じる。
「制度は成熟しました」
広場は動かない。
「だが成熟は、永続を意味しません」
沈黙。
「成熟した制度ほど、
自らを疑う力を持たねばならない」
言い終えたとき、
彼の震えは止まっていた。
王子は頷き、次に視線を向ける。
「カイ。弁論を」
若手宰相候補カイは、ゆっくりと前へ出る。
一瞬だけ目を閉じ、
深呼吸。
かつてのような軽やかな笑みはない。
だが、声は明瞭だった。
「制度は進化してきました」
「過ちを修正し、透明化し、合理化した」
魔導鏡に示される改革履歴。
監査制度。
証拠開示義務。
段階評価。
「問題は制度ではない。運用です」
論理は強い。
「道具は使い方次第で毒にも薬にもなる」
「ならば我々は、より良い運用を目指すべきです」
かつてなら、ここで歓声が上がった。
だが今日は違う。
誰も叫ばない。
観衆は、責任を持って聞いている。
制度を裁くという重さを、
共有している。
王子は手を上げる。
魔導投票装置が起動する。
四つの選択肢が空中に浮かぶ。
「存続」
「縮小」
「再設計」
「廃止」
単純な賛否ではない。
成熟を測る段階評価。
数万人の光が、一斉に点灯する。
広場は静まり返る。
これは怒りの表明ではない。
これは、国家の自己判断。
デルガは観衆を見渡す。
炎はない。
だが重さがある。
カイもまた、光の揺らぎを見つめる。
完成だと思っていた制度が、
いま量られている。
王子は動かない。
王は待つ。
国家が自らを選ぶ瞬間を。
広場に漂うのは、
熱でも恐怖でもない。
成熟の、緊張。
――幕3 終了。




