【幕2】予想外の宣言
鐘の音が広場に広がる。
ざわめきは自然と収束し、
数万の視線が円形舞台へ集まった。
音楽は控えめ。
炎は象徴として、壇の両脇に小さく灯るのみ。
証拠投影用の魔導鏡は静かに光を湛えている。
洗練。
過剰の排除。
理性の演出。
若手宰相候補カイの設計は完璧だった。
壇上に現れたのは、王子アルベルト。
年齢を重ねたその姿は威圧ではなく、
安定そのものを象徴している。
拍手。
整然とした、節度ある音。
やがて静寂。
王子は群衆を見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「断罪を行う」
当然の宣言。
制度の頂点にふさわしい開幕。
誰もがそう思った。
だが――
次の言葉が、空気を切り裂く。
「対象は――制度そのもの」
時間が止まった。
拍手の余韻が、場違いに漂う。
理解が、遅れて押し寄せる。
「……制度?」
「何を?」
「聞き間違いか?」
ざわめきが、波のように広がった。
壇下でデルガは目を閉じる。
(来たか)
王子は動じない。
声は揺れず、感情も乗らない。
「我々はこの制度によって、
若者の怒りを制御してきた」
魔導鏡に記録が映る。
過去の断罪。
経済指標の上昇。
治安安定の統計。
「政治は安定した。
経済は回った。
透明性も向上した」
功績を否定しない。
王は破壊者ではない。
「だが――」
一瞬、間。
「制度が国家を支えるとき、
制度は常に検証されなければならない」
ざわめきが弱まる。
人々は、今度は聞こうとしている。
「我々は他者を断罪してきた」
映像に映るのは、若者たちの姿。
炎の時代。
娯楽の時代。
そして理性化された処理の時代。
「ならば今、
我々自身を断罪できるかを問う」
それは糾弾ではない。
自己検証。
制度が成熟したと誇るなら、
自らを裁く勇気があるか。
王の声は静かだった。
「断罪は悪ではない。
だが万能でもない」
「ならば問おう。
この制度は、今も必要か」
広場は、完全な沈黙に包まれた。
怒号はない。
歓声もない。
ただ、数万人が思考している。
壇脇。
カイは初めて言葉を失った。
制度は完成していたはずだった。
証拠開示も。
監査も。
理性的評価も。
批判は吸収済み。
最適解に到達したはず。
だが王子は、その完成を祝福しなかった。
完成を――対象にした。
(終点ではなかった……?)
胸の奥に、微細な亀裂が走る。
制度は、進化の果てに
検証の俎上へ上がった。
カイの中で、初めて確信が揺れる。
壇下でデルガは息を吐いた。
炎の時代を越え、
娯楽の時代を越え、
処理の時代を越えた断罪は、
ついに――
自分自身を裁く段階へ来た。
広場の空気が変わる。
熱ではない。
恐怖でもない。
それは、重さ。
国家が自らを量ろうとする重さだった。
――幕2 終了。




