第10話 公開断罪式【幕1】最大の舞台
王都・大広場。
朝から人の波は途切れなかった。
石畳は足音で震え、周辺の街区まで埋め尽くされた群衆は、まるでゆっくりと呼吸する巨大な生き物のようにうねっている。
見上げれば、拡張された魔導拡声塔が空へ伸びていた。
銀の紋章が刻まれた遠隔投影装置が空中に淡く光り、他都市へと同時中継の準備を整えている。
円形の中央舞台は、無駄のない構造美を湛えていた。
過剰な炎も、過激な装飾もない。
だが規模は圧倒的だ。
断罪は、ついに国家規模へ到達した。
もはや娯楽でもない。
儀式でもない。
これは――国家の自己演出。
王都が、自らの成熟を世界に示す日だった。
群衆の顔にあるのは熱狂ではない。
期待。
整えられた制度への信頼。
公平であるはずだという確信。
その空気が、逆に重い。
舞台裏。
若手宰相候補カイは最後の確認を終えた。
証拠公開システム――正常。
評価装置――監査済。
第三者記録官――配置完了。
進行台本――修正なし。
彼の動きに迷いはない。
焦りもない。
すべてが設計通り。
「今日は歴史になります」
誰に言うでもなく、静かに呟く。
彼の理想はここにあった。
透明。
公平。
合理。
怒りを制御し、若さを守り、国家を安定させる断罪。
感情に流されない正義。
完成形。
その自信が、彼の背筋をまっすぐにしていた。
壇下の影。
デルガは群衆を見渡していた。
数万人。
声は低く、ざわめきは均一。
以前のような怒号も、過剰な歓声もない。
人々は信じている。
制度を。
完成を。
(これは……頂点だ)
胸の奥が、わずかに冷える。
炎の時代は過ぎた。
娯楽の時代も越えた。
処理の時代を経て、ついに制度は洗練された。
非難の余地はない。
批判も封じられるだろう。
完璧だ。
だからこそ。
デルガは知っている。
頂点の次は――下降しかない。
制度が完成した瞬間、
それは目的を失い始める。
風が舞台上を吹き抜ける。
旗が鳴る。
遠くで鐘が鳴った。
開式の合図。
国家最大の断罪が、今、始まろうとしていた。
デルガの胸に残るのは、
歓喜でも誇りでもない。
微かな予感。
完成とは、終わりの別名なのではないかという――
言葉にならない、不吉な静けさだった。
――幕1 終了。




