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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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35/47

【エピローグ】

夜。


広場は、もう空だ。


昼間の整然とした熱気は跡形もない。


可動式円形舞台は解体されている。

魔導鏡は取り外され、証拠投影装置は丁寧に梱包される。

段階評価装置の光は、ひとつ、またひとつと消えていく。


かつて若者たちが叫び、炎が上がり、歓声が天を震わせた場所。


今はただ、木材の軋む音と、工具の打撃音だけが響いている。


制度は完璧に機能した。


誰も傷つけず。

誰も排除せず。

激情もなく、暴発もなく。


断罪は、美しく完遂された。


背後から、軽い足音。


カイが並ぶ。


夜風に外套を揺らしながら、解体作業を眺めている。


満足げだった。


「次は、もっと洗練させましょう」


穏やかな声。


「議論時間の最適化もできます」


「観衆教育も進められる」


「断罪は、まだ進化します」


未来を語る声。


希望に満ちている。


だが、デルガは答えない。


視線は、解体される舞台の中央。


そこに、炎はなかった。


叫びもなかった。


ただ、処理。


整えられ、判定され、整理され、片付けられる。


彼は理解してしまった。


断罪は、ここで完成した。


感情から距離を取り。

演出から距離を取り。

若さの暴発を封じ、制度へ回収した。


ゆえに――


ここが限界だ。


娯楽ではない。

儀式でもない。


最終的に到達したのは、


“処理”。


秩序を保つための、合理的な処理。


そして処理は。


熱を必要としない。


怒りを必要としない。


若さを、必要としない。


必要とされるのは、


理解力と、自己制御と、順応。


若さは、静かに削られる。


燃え尽きるのではない。


消耗するのでもない。


整えられ、丸められ、制度に適合させられる。


デルガの指先が、わずかに震える。


炎の時代、彼は恐れていた。


暴走を。


激情を。


国が焼ける未来を。


だが今。


彼が恐れているのは、


焼けない未来だ。


窓の外。


広場の外周を、一台の馬車が静かに進む。


レイアが乗っている。


背筋を伸ばし、顔を上げ、堂々と。


敗者ではない。


犠牲者でもない。


象徴を降りた者。


美しい。


だが。


彼女の周囲に炎はない。


歓声もない。


涙もない。


ただ、静かな夜。


制度は彼女を包み込み、整え、送り出す。


完璧な終幕。


カイはまだ語っている。


未来の改革案。


透明性のさらなる強化。


国際モデル化。


成功例としての輸出。


断罪は、国家の誇りになるだろう。


だがデルガは、遠くを見つめている。


炎は危険だった。


だが炎には、熱があった。


熱は、未熟を許した。


間違いを許した。


叫びを許した。


今。


正しさは整った。


だが。


整いすぎた。


広場の灯りが、最後に消える。


夜が完全に支配する。


静寂。


デルガの震えは、止まらない。


それは恐怖ではない。


後悔でもない。


ただ、予感。


この完成は、終着ではない。


完成した制度は、次の何かを生む。


削られた若さは、どこへ行くのか。


燃えなかった怒りは、どこへ沈むのか。


夜は静かだ。


炎はない。


だが、だからこそ。


彼の胸の奥で、何かが小さく軋んでいる。

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