【幕3】デルガの演説
王都・大広場。
赤旗と青旗が向かい合い、石畳の中央に空白がある。
その空白に設けられた壇上。
空は高く、風はない。
存続派も廃止派も、同じ数だけ集まっていた。
熱はある。だが怒号はない。
今日の言葉が、投票の流れを決める。
やがて、ゆっくりと一人の男が壇上へ上がった。
デルガ。
派手さはない。
老練な政治家の歩み。
ざわめきが、すっと引いていく。
静寂。
彼は群衆を見渡し、口を開いた。
① 導入
「断罪は悪ではない」
ざわり、と空気が揺れる。
赤旗の若者たちが頷く。
安堵の色が広がる。
だが、デルガは続けた。
「だが、万能でもない」
今度は青旗の側が顔を上げる。
赤と青の両方が、彼の次の言葉を待つ。
② 本論
「断罪は功績を持つ」
彼の声は大きくない。
だがよく通る。
「若者の感情の発散装置となり、
国家統合の象徴となり、
政治的安定を支えてきた」
炎派が小さく頷く。
「しかし同時に、危険も持つ」
沈黙が深まる。
「感情が優先され、
信頼に依存し、
演出の誘惑に晒される」
一瞬、カイの名を思い浮かべた者もいただろう。
デルガは間を取る。
「炎は暖かい」
その言葉に、広場がわずかに和らぐ。
「だが、火事もまた炎だ」
空気が引き締まる。
③ 核心
デルガは一歩前に出た。
「問題は断罪ではない」
赤旗も青旗も、息を呑む。
「私たちが、怒りをどう扱うかだ」
怒りは否定できない。
若さの激情も、社会の不満も、消えはしない。
「怒りを押さえ込めば、地下で爆発する」
青旗がわずかに揺れる。
「煽れば、国家を焼く」
赤旗の一部が視線を落とす。
「断罪は道具だ」
彼は静かに言った。
「道具は万能ではない」
道具を使うのは、人だ。
④ 提案
「私は提案する」
ざわめき。
彼は一枚の書面を掲げた。
「断罪制度は存続する」
赤旗の側が息を飲む。
「だが――」
青旗も耳を傾ける。
「証拠開示を義務化する」
「演出と事実を明確に分離する」
「第三者監査制度を設ける」
「年齢制限と心理保護を導入する」
断罪を“法の枠”へ戻す。
ショーではなく、
儀式でもなく、
制度へ。
炎を否定しない。
だが囲いを設ける。
デルガの声は最後に低く響いた。
「怒りは消えない。
だが怒りは、法の中で扱うべきだ」
⑤ 群衆の反応
拍手は、すぐには起きなかった。
歓声もない。
罵声もない。
沈黙。
広場全体が、考えている。
赤旗を握った若者が、隣と小声で話す。
青旗を持つ老商人が、腕を組んでうなずく。
熱狂ではない。
思考。
それは、これまでの断罪では見られなかった光景だった。
壇上で、デルガは深く息を吐く。
(炎ではなく、灯りになれ)
広場はまだ揺れている。
だが、暴れてはいない。
理性が、ほんの少し、顔を出していた。
幕3、終了。




