表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/47

【幕2】揺れる理性

夜の執務室。


灯りは一つだけ。

机の上に広げられた投票資料が、長い影を落としている。


デルガは椅子に深く腰掛け、目を閉じた。


(整理せねばならぬ)


彼の内部で、断罪の変遷が静かに組み上がる。


第一段階――若者依存型儀式。

未熟さと激情を利用し、社会の不満を一人に集める装置。


第二段階――演出型エンタメ。

感情を設計し、炎を安全に見せる舞台。


第三段階――感情市場。

怒りが商品となり、参加が価値となる。


今は、第三段階。


市場は、熱で回る。

熱が冷めれば暴落する。


だが――


(放置すれば、暴走する)


市場は信用で支えられている。

信用が崩れれば、怒りは買い手を失い、

矛先を探して彷徨う。


その先は、王か。

それとも国家か。


デルガはゆっくりと目を開けた。


翌朝。


謁見の間には、余計な装飾はない。

王子アルベルトは玉座の前に立ち、静かに言った。


「私は民に選ばせたい」


その声に迷いはない。


デルガは一歩進み出る。


「民は感情で投票します」


事実だった。


炎派は熱狂し、

静穏派は恐怖で結束している。


理屈は後から付いてくる。


王子はわずかに頷く。


「だからこそ、理性を提示せよ」


沈黙。


「お前が語れ。

断罪の功罪を。

熱でも恐怖でもなく、構造を」


それは命令であり、

同時に信任だった。


デルガの胸に、重みが落ちる。


政治とは、

民を信じることではない。

民に判断材料を渡す覚悟だ。


王子は静かに言葉を続けた。


「私は結果を受け入れる。

だが、民が感情だけで選んだとは言わせぬ」


デルガは深く一礼した。


「承知しました」


その頃、王都の広場では空気が変わりつつあった。


赤旗の一団が、声を荒げている。


「廃止派は臆病者だ!」

「炎を奪うな!」


過激な言葉が飛び交う。


一部の若者は興奮し、

拳を振り上げ、

敵を作り始めていた。


静穏派もまた、口調が鋭くなる。


「感情の奴隷め!」

「国を賭博場にする気か!」


思想が、人格攻撃へと変わる。


デルガは報告を受け、目を伏せた。


(早い……)


投票前だというのに、

すでに勝敗後の怒りが準備されている。


もし廃止が勝てば、炎派は爆発する。

もし存続が勝てば、制度は正当性を得てさらに過激化する。


どちらでも、極端に振れる。


国家は振り子の中央を失いかけていた。


夜。


デルガは再び一人になる。


窓の外、赤と青の旗が風に揺れる。


(私はどちらだ)


存続か。

廃止か。


答えは、どちらでもない。


断罪は悪ではない。

だが万能でもない。


炎は必要な時もある。

だが、常用すれば国を焦がす。


彼はゆっくりと立ち上がった。


演説原稿に、最初の一行を書く。


「断罪は、国家の道具にすぎません」


擁護もしない。

否定もしない。


制度の限界を語る。


それが今、彼にできる唯一の選択だった。


幕2、終了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ