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日本のラーメンは宇宙人一?

再び、数日後。

ソファーに寝転がりながら、ぼんやりと考える。

神と出会い、陰陽道に触れ、きさらぎ駅のような異世界に触れ、そして、魔法の世界にも触れた。

地球の中にも、ケイスケの知らない、科学以外の世界が、数多く存在しているらしい。

そして、月で見た、鬼と、地球からの移民たち。

(地球人も、もしかして、科学以外のアプローチでなら、すでに宇宙に出ているんじゃないか?)

「なぁ、ルリ。実は地球人も、すでに宇宙に進出してたりするのか?」

膝枕されながら、そんな風に尋ねる。

「いえ、地球人類は、いまだ、自力で恒星間航行を可能とする域には、到達していません」

「そうか……」

少し、がっかりした。

「じゃあ、やっぱり地球人って、宇宙全体で言えば、低レベルな存在なのか?」

様々な宇宙人が、地球に来ているというからには、少なくとも、それらの宇宙人よりは、レベルが低いのは間違いないだろう。

そう思っていたが、ルリから返ってきたのは、意外な答えだった。

「いいえ。そうとも言い切れません。カルダシェフ・スケール、つまり【文明の発展度をエネルギー利用の規模で測る指標】で言えば、地球文明はいまだタイプ0、つまり地球の全エネルギーを完全に掌握できていない段階です。科学技術のフェーズにおいては、確かに低レベルと言えます。しかし、人類としては極めて優秀です」

「人類としては、ってのは、宇宙人も含めて、ってことか?」

「もちろんです。地球人ほど、多様な文化、多様な言語、多様な技術の方向性、そして多様な位相を持ちながら、ひとつの世界観を保てている人類は、宇宙でも極めて稀です。本来、これほどの多様性は、文明の同一性を内側から瓦解させ、分裂や停滞を招く要因になり得るものです。そのうえ、これほど多くの宇宙人からの干渉を受けていながら、それでも、滅んでいません。もちろん、天照大御神様のような、宇宙規模で見ても上位の力を持った存在が、神として護っているという点も大きいですが——それも含めて、地球人の価値です」


---


「それに人類、特に日本人は強固な【世界観】を持っています」と続けるルリ。

また出た。

【世界観】というワード。

なんというか、この言葉を発するときのルリは、他に適切な言葉がないために、無理やり近い言葉で翻訳している感がある。

ただ、続く言葉を聞くと、いつも、何となくニュアンスは分かるのだ。

「それを、今から体感していただきましょう」

そう言って、昼食の準備に取り掛かるルリ。

そして、出てきた昼食は、なんとラーメンだった。

しっかりと魚介で出汁を取り、麺から作った、こだわりの一品。

店に出しても、問題ない美味だ。

しかし——

「いかがですか?」

「いや、めちゃくちゃ美味いよ」

「では、あなたが食べたラーメンの中で、一番感動的ですか?」

そう問われると、難しい。

いや、否だ。

元職場の近くの、行きつけのラーメン屋の方が、好きだ。

十二時を過ぎると確実に行列になるため、食べたければ仕事を調整し、開店前の十一時には並ばないといけない、麺信道のラーメン。

あれには、敵わない。

味という数値化が難しい尺度で、どっちが美味しいかの評価を求められると分からない。

ただ、どちらが感動的かと問われると、不思議と麺信道と答えたくなる。

具体的に、どこがどうと聞かれると、料理人ではないケイスケには、分からないが……

ルリを見ると、続く言葉を待っている。

自分の作ったラーメンの方が感動的だと言われるのを待っているようには見えない。

なので、正直に言った。

「いや、昔の職場の近くにあった、麺信道のラーメンには、敵わないかな、と思う……」

その言葉を受け、ルリは言う。

「それこそが、強固な【世界観】を持つ人類の力です」と。

そして続けるルリ。

「仮に、味だけを数値で評価するなら、私の作ったラーメンの方が上回るでしょう」

「うん」

そこは否定できない。

「ですが、この味が好きだ、この食材をこう使いたい、こんなラーメンをお客様に食べさせたい——そういう意思の強さは、恐らく麺信道のような名店にこそあります」

「確かに……」

「これは、あくまで一例に過ぎませんが」

少し声のトーンを落として、ルリは続ける。

「日本のあらゆる職人が持つ、強い魂の反映——その煌めきの高さには、地球をスキャンした際、驚かされました」


---


そんな話をしたもので、久しぶりに「麺信道」のラーメンが猛烈に食べたくなったケイスケは、翌日、ルリを伴って懐かしのオフィス街へとやって来た。

開店である11時30分の少し前に到着したため、運良く最初の一巡目でカウンター席に着くことができた。

当然ながら、ビジネス街の殺伐とした行列の中に突如現れたモデルやアイドルもビックリの長身美女であるルリに対し、すれ違うサラリーマンや通行人たちは軒並み目を奪われ、二度見どころか立ち止まりそうな勢いだった。

しかし、そこは流石「麺信道」の店長とスタッフである。どれほど浮世離れした美女が来店しようとも決して鼻の下を伸ばすことなく、他の客と変わらず淡々と、そして威勢よく元気な声で接客していた。その職人らしい媚びない立ち振る舞いが、ケイスケにはたまらなく心地よかった。

麺信道のラーメンは、魚介・豚・鶏の「トリプルスープ」。

使用しているすべての具材へのこだわりやこだわり抜いた製法が、カウンター席の目の前や壁面のあちこちに所狭しと書かれている。

まるで小さなラーメン博物館かテーマパークのようだ。

ラーメンを待つ間、その能書きを読みながら胸を躍らせる。

やがて、湯気を立てる極上の一杯が二人の前に着丼した。

「いただきます」

と手を合わせ、まずはレンゲでスープをひと掬い。

そして、勢いよく麺を啜る。

ここ最近、ルリの手料理や超高級店の美食によって舌が肥えに肥えていたはずのケイスケだったが――一口食べた瞬間、脳裏を突き抜けるような変わらぬ感動的な美味さに思わず目を細めた。

ふと隣を見ると、ルリも、目を細めて、じっとスープを見つめていた。

味わうというより、何かを確かめているような顔だった。

「……分かってはいても驚きますね。理論上よりも、ずっと美味しい……」

抑えた声で、ルリが呟く。

「だろ? とにかくチョーうまいんだ」

「これが、人の為せる業なんですね」

「そうだろうな」

しばらく、二人とも、黙って麺をすすった。

変わらず、旨い。

なのに、なぜか、少しだけ、物足りなさを感じている自分がいた。

(なんでだろうな……)

首をかしげながら、ふと、カウンターの端に目をやる。

若いサラリーマンが一人、ラーメンを神妙な顔で、一心不乱に食べている。

すこし、目じりに涙が浮かんでいる。

「な? 美味いだろ」

「はい」

と、先輩らしい男がそう言いながら自分も麺をすする。

その光景を見て思い出す。

初めてこの店に来たときのことを。

あれは徹夜続きで、心身ともにボロボロだった頃。

もう辞めたい、逃げ出したい、そう本気で思っていた夜。

先輩が、「奢ってやるよ」と、このラーメン屋に連れてきてくれたんだった。

(そうか……)

ここは、オフィス街だ。

このラーメンはきっと、戦うサラリーマンたちのために作られている。

疲れ切った身体に、染み渡るように。

今の自分では、百パーセント受け取れるものではないのかもしれない。

(まぁ、だかと言って、あの理不尽な世界に戻りたいとは思わないけどな……)

麺を食べつくし、残りのスープをゆっくりとレンゲで掬って飲みながら、若いサラリーマンを見て思った、

(悪いな)

(頑張れよ)

と。


---


少し涙ぐむ若いサラリーマンの姿に、柄にもなくセンチメンタルな気分になったケイスケだったが、それはそれ、これはこれである。

満腹になった腹をさすりながら、ルリを伴って平日昼間のオフィス街を悠々と歩く。急ぐ理由が何もない足取りは、かつてこの街で働いていた頃の自分とは、まるで別人のようだった。すれ違うサラリーマンたちの早足を眺めるだけで、なんだか贅沢な気分になる。

大通りに面したオープンカフェに腰を下ろし、食後のコーヒーを頼む。運ばれてきたカップを傾けながら、雑談感覚で尋ねる。

「他にも、ルリがこれはすごいなと感じたものはあるのか?」

ルリは、視線を宙に浮かせるようにして、周囲に立ち並ぶビル群を見上げた。

「このオフィス街、特にあれらの高層ビルも、なかなかのものです」

周囲のビルを見渡しつつ、周囲に他の客がいないことを改めて確認し、声に出して言う。

「ビル? 宇宙船作れるレベルの異星人からすりゃ、大したことないんじゃないのか」

「技術の水準だけで言えば、そうかもしれません。ですが、これも麺信道のラーメンと同じ話です」

「ビルとラーメンが同じって……まぁ、こだわりとか業の話か?」

「はい。それに、そもそも技術力そのものを、異星人同士で比べること自体、フェアではありません。星ごとに条件が違いすぎます」

ルリは例を挙げるように指を一本立てた。

「例えばわたしの船の外壁です。あれは、エネルギーの掛け方次第で強度も粘度も変えられます。しかも形状も指示通りに変更が可能です。そのような物質は、地球にはありません。重力を操作する技術も、現実を強引に書き換える魔法も、巨大な生き物を使役して手伝わせる手段も、日本人は持っていません」

「言われてみりゃ、ないものだらけだな」

「それだけの条件で、すべて人の手で組み上げています。何百人、何千人という人数を、契約で縛ってはいるものの、洗脳も支配も使わず、自由意志を持たせた中で動員し、何年もかけて。工事の間、周りのビルも道路も、社会機能を一切止めません。天候は安定せず、いつ地震が来るかも分からない土地で、それでも、これだけ美しく、安全で快適な建物を建てられる企業が、何社もある」

「た、確かに……」

元はサラリーマンだったケイスケからすると当たり前に思っていたが、改めて別の世界の存在、しかもはるかに高度な力を持った存在から言われると改めて感じる。

「人の為せる業、の凄さが詰まっています」

(や、やっぱ俺らの現実って、ちゃんと無理ゲーをみんなで頑張って何とか成立させてたんだな……)

と……

「ちなみに、宇宙人がこれほど多く来る発展途上の星は滅多にないんですよ? それだけ多くの宇宙人に興味を持たれ、そして、参考にされているのが地球で、特に日本なのです」

そう言われて、誇らしいような、それでいて少し落ち着かないような、妙な気分になるケイスケだった。

(興味を持たれてる、ってことは……見られてる、ってことでもあるよな)

そんなことを考えながら、コーヒーカップに口をつけようとした、そのとき。

「あのぉ……失礼ですが、ドクターKの尾形ケイスケさんですよね?」

不意に、背後から声をかけられた。

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