↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/23

スローライフの決意

それからは、再び優雅なスローライフを再開させた。

なるほど、確かに日本人に活気が戻っている気がする。

ケイスケは、ついこの前までは通行人のほとんどが外国人だと言われていた、大阪の難波に来ていた。

道頓堀を望めるカフェ席で、昼からコロナビールを瓶ごと呷りながら、街行く人々を観察する。

隣にはもちろん、ルリの姿もある。白いワンピース姿で、ブルーのカクテルを手にしていた。

平日だというのに、自分以外にも日本人の旅行客が楽しそうな時間を過ごしている。

そんな光景を眺めながらも、ケイスケの頭の中では、とある考えが浮かんでは消えていく。

(もっとこうすれば、日本は良くなるのか)

そんな考えだ。

しかしそれを、苦笑しながらかぶりを振って追い払う。

決めたことだ。

そういうことはしない、と。

アマテラス様を見送った、翌朝のことを改めて思い出す。

美しい最高神様から褒めに褒められ、最高の気分のまま眠りについた翌朝だ。


---


朝食を取りながら、ニュース番組を見ていると、大規模な詐欺集団が逮捕された、というニュースが流れてきた。

海外の豪邸を根城に、人を騙して手に入れた金で、豪遊していたらしい。

許しがたい所業だ。

詐欺師は、全員死刑でいい。

ケイスケは常々思っていた。

例えば、迷惑なフィッシング詐欺メールだ。

ある意味、殺人よりも罪が重い、とケイスケは考えていた。

何故なら、送信ボタンひとつで、何万人という人間に迷惑がかけられる。

それこそ金を騙し取られる被害がなくとも、そのための対策もしなければならない。

ちゃんとしたメールも埋もれてしまうし、ちゃんとしたメールも詐欺に見えてしまうこともある。

つまり、詐欺が介入することで、信頼関係の上に成り立つ社会が、成立しづらくなるのだ。

大きな手間暇をかけて、一人を殺すこと。

小さな手間で、大勢の人間に、少しずつマイナスを与えること。

その罪の総量は、同じではないだろうか。

詐欺の取り締まりは、所詮は、イタチごっこだ。撲滅などできないだろう。

そう考えていたケイスケだが……

テレビを眺めながら、ふと思う。

今の自分なら、できるんじゃないか。

こんなクズみたいな連中を、根絶やしにすることが。

それこそいとも簡単に……

しかし、そこまで考えて、頭を振った。

駄目だ。

それは、俺がやるべきことじゃないし、やっていいことじゃない。

それに、どこでどう、線を引く?

コマーシャルに入り、画面の中の美女が、シャンプーのCMに出ている。

この女優の髪が綺麗なのは、断じてこのシャンプーのお陰ではない。

なのに、さもこのシャンプーのお陰でこの髪と、何ならこの美貌を手に入れたかのような演出……

これは許されている。

もちろん、イメージ戦略や広告と詐欺とを、同列には語れない。

しかし、それを分けているのは、人間の価値観と判断基準だ。

ルミナスのマスターとなり、神様以上とすら言える力を手に入れた自分が、決めて、裁いていいことじゃない。

それは、おそらく、自己満足だ。

いや、自己満足のためならいい。

そして、個人的な範疇でするのは、俺の自由だ。

しかし、正義感で、良かれと思ってやっちゃ駄目だ。

それではおそらく、一番迷惑な神様になってしまう……


---


やれるのに、しない、それはそれで精神力を使う。

大阪観光中も、何度もかぶりを振った。

そして帰宅後、夕食を取りながらソファでぼーっとアニメを眺めてると……

「嘘よ! パパもママも、敬虔な信者だった」

「毎日神様にお祈りしてたし、悪い事なんて何もしていない」

「なのに、神様は助けてくれなかった!」

「……アイツらは、今ものうのうと生きてる……そして、きっとどこかで同じように罪を重ねている!」

「どうして!? どうして神様はパパとママを助けてくれなかったの!?」

「どうして、あいつらに罰を与えてくれないの!?」

画面の中で、女の子が必死に叫んでいた。

よくある台詞と言えば、よくある台詞だ。

昔のケイスケなら、神様なんて居ないんだから当然だろう、と皮肉気に捉えていた。

けど、今は違う。

実際に、神様に会ってしまっている。

故に、このシーンの受け取り方も、大きく変わってしまった。

(多分、この子の言う神様も、相当辛いだろうな)と。

もしアマテラス様が、自分の信者をこのような形で喪い、その子供がこんな風になっていたら……

どれほど、傷つき、悲しむだろうか。

(うっ……想像しただけで結構キツイ)

日本酒を煽る。

スッキリとした冷酒の豊潤な香りが口に広がり、心地よいアルコールが鼻に抜ける。

(しかし、それでも、ヒーローのように駆けつけて、直接助けたり、直接、悪人に神罰の雷を落としたりは、しないんだろうな)

実際に、ああして顕現できるところを見るに、力や能力の問題で、できないとは考えにくい。

それこそルミナスが、トップクラスの力を持った神だと評価するほどの存在だ。

だが、ほんの短い期間とはいえ、神様という存在と直接かかわり、学んだことで、そのあたりのルールというか、作法を感じてはいる。

何となくだが……

強い神様? 力のある神様? ほど、そのあたりの分別が、しっかりしているような気がする。

ケイスケは、隣にいるルリに語り掛けた。

「なぁ、ルリ。神様が、直接、悪人に神罰を与えたりしないのって、何か、ルールとかで決まってるのか?」

「ルールで決まっているわけではありませんが、作法には反しますね」

「そうなのか。例えば、戦争の時にアマテラス様が、敵国を神様パワーでやっつけなかったのも?」

「もちろんです!」

とんでもない、といった表情で返すルリ。

「けど、結界とか、そういったので、守ってはくれてるんだよな?」

「それも、直接ではありません。あくまで、信徒を通して技術のヒントを授けたり、信仰を通して、間接的に力の方向性を与えているにすぎません。伊勢神宮の構築と維持も、ピラミッドと同じく、すべて、人間の手によるものです」

なんというか、最大限に敬意を払った言い方をしていることは感じる。

「けど、アマテラス様の力ってのは、大きいんだよな?」

「もちろんです」

「はは、なかなか、元プログラマーの俺には、論理的にスッキリとは、理解できない概念だな」

「……論理で理解できる部分には、どうしても、限界がありますので」

そう言いながら、ケイスケの手をさするルリ。

「ちなみに、これも何となくなんだが、強い神様、力の強い神様ほど、直接的な干渉はしない、ってのは、あってるか?」

「はい。その通りです」

「やっぱりか。日本神話を調べてて思ったんだ。強い力を持ってる割に、他国の神様と違って、なんというか、武勇伝的な話が少ないな、と」

「安易に顕現し、直接的に力を行使する神は、神としては低位で、まだまだ非力の証とされています」

その言葉を聞いて、ケイスケはスッキリとした気分となった。

いかに力を持とうとも、自分はあくまで人間。

力を抑える必要もないが、使う必要もない。

やはり自分が目指すべきなのは、完璧なるスローライフでよいのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。