ネッシーを見に行こう
ネッシーは、当然ネス湖にいるものだと思っていた。
朝食のあと、ケイスケは宇宙船に乗り込んだ。ルリに見送られて向かった先は、スコットランドのネス湖だ。
透明になった宇宙船から、眼下の湖を見下ろす。
(……すげぇ)
細長く伸びた湖が、遠くの方まで続いている。水面は、深い黒に近い色で、両岸には、なだらかな緑の山々が連なっていた。薄い霧が、山肌をゆっくりと流れていく。湖畔には、古い城の廃墟が、ぽつんと立っていた。
美しい。
ファンタジー映画の世界に迷い込んだようだ。日本の景色とは、まるで違う。
(これなら確かに、恐竜っぽいのが居てもおかしくないよな)
宇宙船は、湖面へ向かって、静かに降りていく。そして、音もなく水の中へ沈んだ。
光の膜に包まれて、黒々とした水の中を進む。
あえてゆっくり、湖中観光をさせてくれているのだろうが、水があまり澄んでいないネス湖の中は、それほど見ていて楽しい光景ではなかった。
(……で、ネッシーはどこにいるんだ?)
一応、目を凝らして探しはするが、それらしい生き物や影は見当たらない。
まぁ、湖中に潜ったくらいですぐに見つかるなら、とっくに発見されてるか。
「今、ネッシーのいる方向に向かって進んでるんだよな?」
『はい。ですが、ネッシーの生息域は、この湖のさらに先にあります』
「先?」
宇宙船は、湖底の岩壁の前で、ぴたりと止まった。
目の前には、ただの岩盤が、広がっているだけだ。
『この岩盤の奥に、大きな空洞があります。かつては、湖と空洞をつなぐ水中の通路があったようですが、現在は塞がっています。こじ開けます』
「え、こじ開けるのか」
岩が、光に包まれて、脇へ退いていく。その奥に、暗い水中トンネルが、口を開けた。
宇宙船は、その中へ、ゆっくりと入っていった。
長い、暗いトンネルだった。ケイスケは、息をひそめて、前方を見つめた。
やがてトンネルの先が、ほのかに明るくなってくる。
そして、視界が大きく開けた。
「……うわ」
思わず、声が漏れた。
宇宙空間のような光景が一気に広がった。
「こ、これは……」
『地底湖です。その広さは、ネス湖の約10倍です』
とてつもなく広大な地底湖には、高い天井や、岩壁の一面に、光コケのようなものが、びっしりと生えていた。
それが、朧げな青緑の光で、空間全体を照らしていた。水面には、その光が映り込み、揺らめいている。
まさに幻獣が住んでいそうな、幻想的な世界だった。
(すげぇ……)
しかも、ここは、位相のずれた領域ではないのだ。
(別位相じゃなくて、現実に、あるのか)
ケイスケは、しばらく、言葉を失って、その景色に見入っていた。
『では、ネッシーの元にご案内します』
宇宙船が、光コケの光の中を進み出した。
やがて、動きが止まる。
その水面が、ゆっくりと、波打った。
長い首が、静かに持ち上がる。
「……いた」
プレシオサウルスのような、その生き物は、ゆったりと、水の中を泳いでいた。
体長は、10メートルを少し超える程度。ワニを、少し大きくしたようなサイズだ。ブループやダイオウイカを見たあとでは、巨大生物としてのロマンは、やや物足りない。
だが、光コケの淡い光に照らされて濡れた体表が、青緑に艶めいている。幻想的な空間を優雅に泳ぐその姿は、非常に美しかった。




