第8話 つむ、そうぞうさんに聞いてみる
「つむぅー!」
「あっ!」
この声!
帰りの準備をしていた、急いでランドセルを背負った。
「おねぇちゃーん!」
教室を出て、ぱたぱたと廊下を進む。
「あ、紬ちゃん。廊下は走らない!」
「はーい!」
歩く!
早歩きだけど、走ってないから大丈夫。
昇降口まで行くと、いつもみたいにお姉ちゃんが待っていた。
「おねぇちゃん!」
「紬、おかえり」
「ただいま!」
ぎゅっ、とお姉ちゃんに抱きつく。
今日もちゃんと迎えに来てくれた。
「今日、学校どうだった?」
「たのしかった! あとね、見せたいものが——」
「あ、工藤さん」
後ろから先生の声がした。
「あ、立花先生」
お姉ちゃんが先生の方を向く。
「今日の紬ちゃん、学校ではいつも通り元気に過ごしていました。授業中も特に変わった様子はありませんでしたし、図工も楽しそうでしたよ」
「よかった……」
お姉ちゃんがほっとした顔をする。
「ただ、昨日のこともありますので、しばらくは様子を見ておきますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
お姉ちゃんがぺこっと頭を下げる。
「…………」
つむはその隣で、ランドセルを開けようとしていた。
早く見せたい。
今日完成したお人形さん。
先生にもかわいいって褒められた。
それに——三ポイントももらった!
「おねぇちゃん」
「ちょっと待ってね」
「うん」
ちょっと待つ。
「おねぇちゃん」
「もう少し」
「はーい」
また待つ。
……まだかなぁ。
「紬ちゃん、さっきからそわそわしてるね」
先生が笑った。
「みせたいの!」
「何を?」
「おにんぎょ——」
「あっ、待って!」
お姉ちゃんが慌てて止めた。
「?」
「……ここじゃなくて、帰りながら見せてもらおうかな」
「うん!」
なんでだろう。
でも、やっと見せられる!
先生に「さようなら!」をして、お姉ちゃんと手を繋いで学校を出た。
少し歩いたところで、もう我慢できなくなる。
「おねぇちゃん、みて!」
ランドセルから、壊さないように大事にしまっていたお人形さんを取り出す。
「じゃーん!」
「おお。今日完成したの?」
「うん!」
「可愛いじゃん」
「えへへー!」
やった!
お姉ちゃんにも褒められた。
「ここね、つむが作ったの! こっちも! あと、おめめも!」
「うんうん。上手にできてるね」
「でしょー!」
つむは満足して、お人形さんを大事にしまう。
それから、もう一個大事なことを思い出した。
「あのね、おねぇちゃん。さん、もらった!」
「……何を?」
「ぽいんと!」
お姉ちゃんの足が止まる。
「生産ポイント?」
「それ!」
「お人形さんできたらね、頭の中でぴこんってなって」
《生産ポイントを獲得しました》
「って出てきたの!」
「……いくつ?」
「さん!」
指を三本立てる。
「だからね、よんじゅうきゅうだったのが、ごじゅうにになった!」
「ちゃんと計算できたんだ」
「できるよ!」
二年生だもん。
「ということは……《創造》を使ってなくても、物を作れば生産ポイントが手に入るってこと?」
「?」
「……紬にはまだ分からないよね」
「うん!」
元気よく答えたら、お姉ちゃんが苦笑いした。
———
「ただいまー!」
「ただいま」
お家に着いた。
靴を脱いで上がろうとすると、お姉ちゃんはリビングへ向かう。
「紬、ちょっと待ってて」
「なにするの?」
「お母さんに電話」
「おかあさん、おしごとだよ?」
「うん。だから電話するの」
お姉ちゃんが電話をかける。
「もしもし、お母さん? 今、紬と家に着いたよ。うん、大丈夫。学校でも元気だったって。立花先生とも話したから」
つむは首をかしげる。
なんで電話するんだろう。
いつもなら、お母さんがお仕事から帰ってきた時に「おかえり」ってするのに。
「紬? お母さんが声聞きたいって」
電話を渡された。
「もしもし?」
『紬?』
「おかあさん!」
『学校、大丈夫だった?』
「うん! 今日ね、図工でお人形さんできた! おねぇちゃんにも見せた!」
『そっか。よかった』
少しお話しして、お姉ちゃんに電話を返す。
「じゃあ、また帰ってきたらね。うん」
電話が終わった。
「おねぇちゃん、なんでお電話したの?」
「お母さんに、家に帰ったら一番最初に連絡してって言われてたから」
「なんで?」
「お母さんは心配なんだよ」
「しんぱい?」
「昨日、あんなことがあったでしょ?」
「あ……」
わーうるふ。
「だから、紬が今日もちゃんと帰ってきたって分かったら安心するの」
「そっかぁ」
お母さん、つむのこと心配してるんだ。
「じゃあ、明日はつむがお電話する!」
「じゃあお願いしようかな」
「うん!」
———
つむとお姉ちゃんは同じ部屋を使っている。
お部屋に戻ると、ランドセルを置いて、お人形さんを机の上に飾った。
「ここ!」
うん。
かわいい。
「それで、紬。さっきのポイントのこと、もう少し教えて」
お姉ちゃんが隣に座る。
「今日、お人形を完成させたら三ポイントもらったんだよね?」
「うん」
「昨日はハンマーと薬を作って、五ポイントずつ。でも作る時には五十ポイント使った」
「ごじゅうなくなって、ご、もどってきた!」
「そうだったね」
お姉ちゃんが考え込む。
つむも考えてみる。
昨日は五。
今日は三。
「……なんで、さん?」
「それが分からないんだよね」
「おねぇちゃんも?」
「うん」
「むぅ……」
つむは机の上のお人形さんを見る。
なんで三だったんだろう。
五でもよかったのに。
十ならもっと嬉しい。
考えても分かんない。
分からないことがあったら、分かってる人に聞くのが良いって先生が言ってたから——。
「そうぞうさん」
「……え?」
「どうして、さんなの?」
「紬?」
「そうぞうさんに聞いてるの」
「スキルに聞いても分からないと思うけど……」
その時だった。
ぴこんっ。
目の前に、見覚えのある文字が現れた。
《質問を確認しました》
「……!」
「どうしたの?」
「でた!」
「何が?」
「文字!」
つむは目の前を指差す。
でも、お姉ちゃんは首をかしげるだけ。
「……何もないよ?」
「あるよ? ここ!」
「紬にしか見えないのかな……」
「そうなの?」
「たぶんね」
「へぇー」
つむはてっきり、お姉ちゃんにも見えてると思ってた。
すると、文字が変わる。
《回答を表示します》
「あ! おへんじしてくれるって!」
「……スキルが?」
「そうぞうさんが!」
お姉ちゃんが不思議そうな顔をする。
つむは目の前の文字を読んだ。
《生産ポイントは、生産物を完成させることで獲得できます》
「えっと……ものを作って、できたら、ぽいんともらえるって!」
「やっぱり、今日の人形を完成させたから三ポイントもらえたってことかな」
「うん!」
次の文字が現れる。
《生産ポイントの獲得量は、完成した生産物の品質・難易度・独自性・価値を総合的に評価し、決定されます》
「…………」
難しい。
すっごく難しい。
「紬?」
「わかんない」
「何て書いてあるの?」
「ひんしつと……なんいどと……どくじせいと……かち? で、もらえるのが決まるって」
「品質、難易度、独自性、価値……」
お姉ちゃんが繰り返す。
「どういうこと?」
「作った物がどれくらいちゃんとできてるか、作るのがどれくらい大変だったか、珍しい物なのか、どれくらい価値がある物なのか……それで決まるってことだと思う」
「むずかしいの作ったらいっぱい?」
「それだけじゃないみたいだけどね」
「むぅ……」
よく分からない。
「じゃあ、なんでピコピコハンマーはごだったの?」
ぴこんっ。
《質問を確認しました》
「またでた!」
「本当に答えてくれるんだ……」
《回答を表示します》
《対象:ピコピコハンマー》
《価値:高》
《品質:高》
《独自性:高》
《難易度:低》
「ピコピコハンマーは、かちと、ひんしつと、どくじせいがたかい! でも、なんいどは……ひくい?」
「難易度が低い?」
「うん!」
なんでだろう。
あんなにすごいのに。
《生産ポイントによる素材代替および《創造》の補助を受けて生産されたため、製作者本人に対する生産難易度は低く評価されます》
「…………」
また難しい。
つむがそのまま読み上げると、お姉ちゃんは少し考えた。
「つまり、自分で一から作ったんじゃなくて、ポイントとスキルの力で作ったから簡単に作ったことになってる……のかな?」
「かんたんだった!」
お願いしたら、ぽんって出てきた。
「薬も同じ?」
「きいてみる!」
《対象:回復薬》
《価値:高》
《品質:高》
《独自性:中》
《難易度:低》
「おくすりも、なんいどひくい!」
「やっぱり同じなんだ」
「じゃあ、お人形さんは?」
机の上のお人形さんを見る。
《対象:手作り人形》
《価値:低》
《品質:低》
《独自性:中》
《難易度:高》
「……あ! お人形さん、なんいどたかい!」
「え?」
「でも、かちはひくい……」
つむはお人形さんを見る。
「かわいいのに……」
「そこは価値とは別だから」
「こんなにかわいいのに?」
「紬にとっての価値はすごく高いよ」
「じゃあ、たかい!」
「そういうことにしようか」
お姉ちゃんが笑う。
《スキルによる直接的な生産補助を使用せず、製作者自身の技術と労力によって完成させたため、生産難易度は高く評価されます》
また分からない。
つむが読み上げると、お姉ちゃんが頷いた。
「なるほど……。今日の人形は、《創造》に作ってもらったんじゃなくて、紬が自分の手で作ったでしょ?」
「うん!」
「だから、物としての価値は低くても、紬が作るのは大変だったから難易度が高くなったんだと思う」
「……おおー!」
なんとなく分かった!
ピコピコハンマーとお薬は、そうぞうさんにお願いしたら、ぽんってできた。
でも、お人形さんは違う。
つむがぺたぺたして。
曲がったところを直して。
髪をつけて。
お洋服を作って。
お顔も描いた。
だから——三ポイント。
「じゃあ!」
つむは立ち上がる。
「つむがいっぱい作ったら、いっぱいぽいんともらえる!?」
「……たぶん」
「やったぁ!」
「でも宿題が先ね」
「えぇー!」
なんで!?
今、いっぱい作ろうと思ったのに!
「ほら。ランドセルから宿題出して」
「はーい……」
つむはしょんぼりしながらランドセルを開ける。
机の上では、今日完成したお人形さんが笑っていた。




