第7話 つむ、ポイントを貰う
次の日。
「いってきまーす!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はーい!」
つむはお母さんに手を振って、お姉ちゃんと一緒にお家を出た。
いつもと同じ学校。
いつもと同じ道。
昨日、わるいやつが出てきたところを通る時はちょっとだけ怖かったけど、お姉ちゃんがぎゅって手を握ってくれたから大丈夫だった。
「紬、大丈夫?」
「うん!」
「怖くない?」
「ちょっとだけ」
「そっか」
お姉ちゃんが、つむの手を握る。
つむも握り返す。
「でも、おねぇちゃんいるからだいじょうぶ!」
「……そっか」
お姉ちゃんが笑った。
それから少し歩いて、学校が見えてくる。
「がっこう!」
今日もいっぱい遊ぶ!
……じゃなくて、お勉強する!
校門へ向かって歩いていると——。
「あれ?」
学校の入り口のところに、知ってる人が立っていた。
「あ、たちばなせんせい!」
つむが手を振る。
先生もこっちに気づいた。
「紬ちゃん!!」
「わっ」
先生がすごい勢いで走ってきた。
「紬ちゃん! 大丈夫!?」
「?」
先生がつむの前にしゃがむ。
顔を見る。
手を見る。
足も見る。
また顔を見る。
「どこも痛くない!? 昨日、怪我しなかった!?」
「だいじょうぶだよ?」
「本当に?」
「うん!」
なんで先生、こんなに心配してるんだろう。
つむは元気なのに。
「よかったぁ……」
先生が胸のところに手を置いて、大きく息を吐いた。
「学校にも昨日のこと、連絡が来てたの」
「きのう?」
「ゲートのこと」
「あ!」
わるいやつが出てきたやつだ。
「大きな怪我はなかったって聞いてたんだけど……先生、心配だったの」
「つむ、げんき!」
「うん。元気そうで本当によかった」
先生が笑って、つむの頭を優しく撫でてくれる。
えへへ。
先生になでなでされた。
「立花先生」
お姉ちゃんが先生に声をかけた。
「あ……お姉さんも、おはようございます」
「おはようございます。昨日は学校からも連絡をいただいて、ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ……。本当に二人とも無事でよかったです」
先生はそう言ってから、もう一度つむを見る。
「紬ちゃん、昨日は眠れた?」
「ねたよ!」
「怖い夢とか見なかった?」
「みてない!」
「ご飯は食べられた?」
「たべた!」
「朝ご飯も?」
「たまごやき!」
「ふふっ、そっか」
なんだか今日はいっぱい聞かれる。
つむが首をかしげていると、お姉ちゃんと先生が少し離れた。
でも、すぐ近くだから声は聞こえる。
「昨日のことで、少しお話が……」
「はい」
先生の顔が真面目になる。
「学校としても、紬ちゃんの様子には気をつけるつもりです。昨日はあんなことがあったので……」
「ありがとうございます」
お姉ちゃんが頭を下げる。
「今のところ、トラウマになっているような様子はないと思います」
「そうですか……」
「昨日も家ではいつも通りでしたし、夜も眠れていました。ただ……」
お姉ちゃんがつむを見る。
目が合った。
「?」
つむが手を振ると、お姉ちゃんも小さく手を振ってくれた。
それから先生を見る。
「ゲートもモンスターも、あの子が実際に見るのは初めてでした」
「……そうですよね」
「本人は元気にしていますけど、怖かったのは間違いないと思います」
つむは昨日のわるいやつを思い出す。
怖かった。
すっごく怖かった。
でも、つむがピコピコハンマーで——。
「…………」
あ。
ひみつだった。
言っちゃだめ。
「もしかしたら、学校で急に昨日のことを思い出したりするかもしれません」
「はい」
「なので……」
お姉ちゃんが先生に頭を下げた。
「少しだけでいいので、学校でも紬のことを気にかけてもらえませんか」
「もちろんです」
先生はすぐに答えた。
「私だけじゃなく、ほかの先生方にも必要な範囲で共有しておきます。紬ちゃんの様子がいつもと違ったら、すぐに連絡します」
「ありがとうございます」
「いえ。当然のことですから」
お姉ちゃんが、もう一度頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「はい。任せてください」
二人が何か大事なお話をしてる。
つむのことみたいだけど、難しい言葉もあってよく分からない。
「おねぇちゃーん」
呼ぶと、お姉ちゃんがこっちへ来た。
「どうしたの?」
「もう教室いっていい?」
「あ、うん」
「今日ね、昨日作ったお人形さんのつづきするの!」
「そっか」
「もっとかわいくする!」
昨日は途中までしかできなかった。
今日はちゃんと完成させたい。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「うん!」
つむはお姉ちゃんに手を振る。
「おねぇちゃんも、がっこうがんばってね!」
「紬もね」
「はーい!」
つむは学校の中へ走り出す。
「紬ちゃん、廊下は走らない!」
「まだそとだよー!」
「そういう問題じゃありません!」
「えー!」
後ろから先生の声が聞こえる。
つむは笑いながら、ちょっとだけゆっくり歩いた。
昨日は、すっごく怖いことがあった。
でも今日は学校。
いつもの先生がいて。
いつもの教室があって。
いつものみんながいる。
だからつむは、いつもと同じように教室へ向かった。
———
一時間目が終わって。
二時間目も終わって。
「はい、みなさーん」
先生が教室の前で手を叩いた。
「三時間目は図工です。昨日の続きですよー」
「やったー!」
教室のいろんなところから声が上がる。
つむも両手を上げた。
「やったぁ!」
図工!
つむの好きな授業。
「昨日作っていた作品を完成させましょう。まだ途中の人は焦らなくていいですからね」
「はーい!」
先生の声に、みんなで返事をする。
図工の時間になると、つむは昨日作っていたお人形さんを机の上に置いた。
「よーし」
昨日は途中で終わっちゃった。
身体はできてる。
お洋服もできてる。
でも、まだちょっと足りない。
「どうしようかなぁ」
つむはお人形さんをじーっと見る。
「……あ!」
髪!
まだちゃんとできてない。
「ここをこうして……」
ぺたぺた。
「こっちも……」
ぺたぺた。
ちょっと曲がった。
「むぅ……」
やり直す。
今度はちゃんとできた。
「できた!」
……でも。
「まだ!」
もっとかわいくしたい。
小さな飾りをつけて。
お洋服も少し直して。
最後に顔。
「おめめはー……」
ちょん、ちょん。
「おくちは……」
にこっ。
笑ってる顔にする。
「できたぁ!」
つむは完成したお人形さんを両手で持ち上げた。
かわいい!
昨日より、ずっとかわいくなった。
「せんせー! できたー!」
先生に見せようとした——その時。
目の前に昨日と同じ文字が現れた。
《生産ポイントを獲得しました》
「……?」
つむの動きが止まる。
《獲得:3》
「…………さん?」
三。
三ポイント。
どこかで見た。
「……あ!」
昨日だ!
ピコピコハンマーを作った時と、お薬を作った時。
あの時も、作ったあとに数字が増えた。
つむは自分が作ったお人形さんを見る。
「…………」
もう一度、頭の中に出てきた文字を思い出す。
《獲得:3》
「……これ作ったから?」
お人形さんを持ち上げる。
「さん、もらった?」
どうして?
昨日はピコピコハンマーを作ったら五。
お薬を作ったら五。
今日はお人形さんを作ったら三。
「……?」
つむにはよく分からない。
でも。
「ふえた!」
それは分かる。
昨日、最後に見た数字は四十九だった。
そこに三。
「よんじゅうきゅうと……さんだから……」
指を使う。
「ごじゅう……に!」
たぶん合ってる。
「やった!」
何がやったなのかは分からないけど、減るより増える方がいい。
「紬ちゃん?」
「ひゃい!」
いつの間にか先生が近くにいた。
「どうしたの? 急に嬉しそうにして」
「あのね、せんせ——」
言いかけて、止まる。
昨日、お姉ちゃんに言われた。
スキルのことは、まだ誰にも言っちゃだめ。
「…………」
「紬ちゃん?」
「なんでもない!」
「そう?」
「うん!」
つむはお人形さんを先生に見せた。
「それより、できた!」
「わあ、完成したんだ」
「うん! かわいい?」
「とってもかわいいよ。昨日よりもっと素敵になったね」
「えへへー」
褒められた。
つむは嬉しくなって、お人形さんをぎゅっと抱える。
そのお人形さんを作ったことで、生産ポイントが増えた。
そうぞうのスキルは、まだつむには分からないことが多いけど。
ただ一つだけ。
「つくったら、ふえるのかなぁ……?」
つむは、新しく知ったことを小さな声で呟いた。




