第6話 つむ、世界を知る
「つまりね、ダンジョンっていうのは、ゲートの向こうにある場所のことなの」
「げーとの、むこう?」
「そう」
お姉ちゃんが頷く。
つむはお姉ちゃんの隣に座って、じっと話を聞いていた。
今日は知らない言葉がいっぱい出てくる。
げーと。
だんじょん。
もんすたー。
すきる。
たんさくしゃ。
知ってるのもあるけど、よく分かってないのもいっぱい。
「今日、空に変なのがあったでしょ?」
「あった!」
ぐにゃってして、ぱかって開いたやつ。
「あれがゲート」
「じゃあ、あそこからわるいやつが出てきたの?」
「そう。今日出てきたのはワーウルフっていうモンスターらしいの」
「わーうるふ……」
つむは今日のわるいやつを思い出す。
怖かった。
お姉ちゃんをいじめた。
「つむ、わーうるふきらい」
「うん。お姉ちゃんも嫌い」
「いっしょ!」
「そこは一緒じゃなくてもいいかな……」
お姉ちゃんがちょっと困った顔をした。
「それでね。ゲートの向こうには、ああいうモンスターがたくさんいるの」
「いっぱい!?」
「うん」
「……やだ」
一匹でも怖かったのに。
あんなのがいっぱいいるなんて、絶対に行きたくない。
「でも、普通は勝手にこっちには出てこないから大丈夫」
「きょうは出てきたよ?」
「……そうなんだよね」
お姉ちゃんが難しい顔をする。
「今日みたいなのは、すごく珍しいの。だから紬は、ゲートを見つけても絶対に近づいちゃダメ。分かった?」
「うん!」
「知らないゲートが急に出てきた時も?」
「にげる!」
「そう。お姉ちゃんのところに来る」
「おねぇちゃんのところ!」
「お母さんが近くにいたらお母さんでもいいからね?」
「はーい!」
ちゃんと覚えた。
げーとを見つけたら逃げる。
お姉ちゃんのところに行く。
「それからスキルについて、ちゃんと説明しておかないとね」
「そうぞう!」
「そう。それ」
今日、急に出てきた不思議な文字。
《創造》。
ピコピコハンマーを作ったり、お姉ちゃんのお薬を作ったりできた。
「スキルってね、最初からみんな知ってたわけじゃないの」
「そうなの?」
「うん。七年前に、世界中で初めてゲートが出てきたでしょ?」
「……つむ、一さい?」
「そう。だから紬は覚えてないよね」
「おぼえてない!」
「だよね」
お姉ちゃんが少し笑った。
「ゲートが出てきたばかりの頃は、みんな何が起きたのか分からなかったの。モンスターのことも、ダンジョンのことも、スキルのことも」
「だれも?」
「誰も」
「おとなも?」
「大人も」
「先生も?」
「先生も」
「おお……」
大人なのに分からないことがあったらしい。
「でもね、ゲートが出てきてから少しずつ、不思議なことができるようになった人が見つかり始めたの」
「ふしぎなこと?」
「そう。普通の人より少しだけ寝なくても平気になった人とか、前より少しだけ早口で喋れるようになった人とか」
「ちょっとだけ?」
「うん。ちょっとだけ」
「……それ、ふしぎ?」
「まあ……ちょっとだけね」
お姉ちゃんが苦笑いする。
「最初は、それがゲートと関係あるなんて誰も分からなかったの。でも、同じような人が世界中でどんどん見つかって、調べていくうちに、それが《スキル》っていう力だって分かったの」
「へぇー……」
「それからもっと調べて、今では人間はみんなスキルを持ってるって分かってる」
「みんな!?」
「みんな」
「つむのクラスも?」
「みんな持ってるよ」
「みーちゃんも?」
「持ってる」
「ゆうくんも?」
「持ってる」
「先生も?」
「もちろん」
「おかあさんも?」
「持ってるよ」
「おねぇちゃんも!?」
「私も」
「おおー!」
すごい。
みんな持ってた。
「でもね、持ってるからって、みんなが使えるわけじゃないの」
「?」
また分からなくなった。
「もってるのに?」
「スキルが使えるようになる時は、人によって違うんだよ」
お姉ちゃんが、つむにも分かるようにゆっくり教えてくれる。
「紬みたいに子供の頃から使えるようになる人もいるし、中学生になってからの人もいる。高校生になってからの人も、大人になってからの人もいるよ」
「おとなになってからも?」
「うん」
「じゃあ、いつ?」
「それは分からないの」
「明日?」
「かもしれない」
「来年?」
「かもしれない」
「十年あと?」
「それもあるかもしれない」
「……いつか分かんない?」
「分かんない」
「むずかしい……」
つむは首をかしげる。
つむは今日だった。
お姉ちゃんがいじめられて、助けたくて、そうしたら急に出てきた。
「じゃあ、つむは今日から?」
「そういうこと」
「おおー」
今日が、つむのスキルが使えるようになった日。
なんだか誕生日みたい。
「それとね。スキルって言っても、普通はそんなにすごいものじゃないよ」
「そうなの?」
「うん。さっき言ったみたいに、少しだけ寝る時間が短くても平気とか、少しだけ早口が得意とか。そういうのがほとんど」
「じゃあ、みんなわーうるふ倒せない?」
「倒せません」
お姉ちゃんがすぐに答えた。
「でも、中にはすごいスキルを持ってる人もいるの」
「すごいすきる?」
「普通の人よりずっと力が強くなったり、速く動けたり。モンスターと戦うのに役立つスキルとかね」
「あ!」
つむにも分かった。
「たんさくしゃ!」
「正解」
「えへへ!」
また褒められた。
「探索者はね、ダンジョンに入ってモンスターと戦ったり、ダンジョンにあるいろんなものを持って帰ってきたりする人たちなの」
「おしごと?」
「そう。お仕事にしてる人もたくさんいるよ」
「じゃあ、今日きた人も?」
「探索者」
「おおー……」
つむは今日来てくれた人たちを思い出す。
剣を持ってる人。
大きな盾を背負ってる人。
みんな強そうだった。
「じゃあ、つむも探索者になれる?」
「駄目」
「はやい!」
まだ最後まで言ってないのに。
「紬はダンジョンには行きません」
「むぅ……」
「今日怖かったでしょ?」
「……こわかった」
「だったら行かない」
「はーい」
つむは素直に頷いた。
別にダンジョンに行きたいわけじゃない。
わるいやつ、いっぱいいるみたいだし。
「つむ、おうちで物つくる」
「うん。それなら——」
お姉ちゃんが止まった。
机の上を見る。
つむも見る。
そこには、今日作ったピコピコハンマーが置いてある。
「…………」
「…………」
「おねぇちゃん?」
「……やっぱり、それについてもちゃんと話そうか」
「?」
つむはピコピコハンマーを抱き上げながら、首をかしげた。




