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小学二年生、8歳。家族を守るためにただいま奮闘中!!  作者: いなずま


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第4話 つむの知らない涙

探索者の人たちにいろいろ聞かれたあと、つむたちはお家に帰ってきた。


「ただいまぁ……」


「ただいま」


玄関のドアを開ける。


すると——。


「紬! 結衣!」


「……?」


お母さんの声がした。


「おかあさん?」


なんで?


お母さんはお仕事のはずなのに。


そう思っていると、奥からお母さんが走ってきた。


「二人とも!」


「わっ!」


ぎゅうっ!


いきなり、つむとお姉ちゃんをまとめて抱きしめた。


「お、おかあさん……?」


「よかった……本当に、よかった……!」


お母さんの腕に、ぎゅうっと力が入る。


「く、くるしいよぉ……」


でも、お母さんは離してくれない。


それどころか、もっと強く抱きしめてくる。


「お母さん、落ち着いて。私たちは大丈夫だから」


「本当に!? 怪我は!? 二人ともどこも怪我してない!?」


「私は大丈夫」


「紬は!?」


「つ、つむもだいじょうぶ!」


そう答えたけど、お母さんはすぐにつむの身体をぺたぺた触り始めた。


「本当に? どこも痛くない?」


「ちょっとだけ、いたい……」


「どこ!?」


「わっ!」


お母さんの顔がすごく怖くなった。


怒ってるんじゃない。


でも、すごく怖そうな顔。


「手と、ひざ……」


「見せて!」


手を取られる。


転がったときに赤くなったところを、お母さんがじっと見る。


「他には?」


「ないよ」


「本当に?」


「う、うん」


「頭は打ってない? 気持ち悪くない? お腹は? どこか痛くない?」


「お、おかあさん……」


次から次へと聞かれる。


なんだか、つむまで怖くなってきた。


「お母さん」


お姉ちゃんがお母さんの肩に手を置く。


「紬が怖がってるから」


「……あ」


お母さんが止まった。


それから、つむを見る。


「……ごめんね」


「ううん……」


「本当に、これだけなのね?」


「うん」


「……よかった」


お母さんが大きく息を吐いた。


でも——。


手が震えてる。


「……?」


どうしたんだろう。


もう、わるいやつはいないのに。


お姉ちゃんだって元気になった。


探索者の人たちも来てくれた。


だから、もう大丈夫なはず。


なのにお母さんは、全然大丈夫そうじゃない。


「おかあさん」


「なに?」


「どうして、お家にいるの?」


「え?」


「おしごとは?」


いつもなら、まだ帰ってくる時間じゃない。


お母さんは少し黙った。


「……連絡が来たの」


「れんらく?」


「紬と結衣が、ゲートの出現に巻き込まれたって」


「……!」


ゲート。


その言葉を聞いた瞬間、お母さんの顔がまた怖くなった。


「仕事中だったんだけどね。そんな連絡が来たら、仕事なんてしてられなくて……早退してきたの」


「おかあさんも、そうたい?」


「……も?」


「うん! おねぇちゃんもいつも——」


「紬」


「むぐっ」


お姉ちゃんにつむのほっぺをむにっとされた。


「なぁに?」


「……なんでもない」


変なお姉ちゃん。


「それよりお母さん、本当に大丈夫だから」


「……うん」


お母さんは頷いた。


でも、すぐにつむとお姉ちゃんを見た。


二人ともちゃんといるか確かめてるみたいに、何度も見る。


そして——。


また、ぎゅっと抱きしめられた。


「わっ」


「……本当に、無事でよかった」


「おかあさん、くるしいよぉ……」


「今日くらい我慢して」


「むぅ……」


ちょっと苦しい。


でも、離してとは言わなかった。


だってお母さんの身体が、また震えてる。


「……また、二人までいなくなったらって……」


「え?」


小さな声だった。


よく聞こえなかった。


「おかあさん?」


「……なんでもない」


ぎゅっ。


もっと強く抱きしめられる。


「二人とも……ちゃんと帰ってきてくれて、よかった……」


「…………」


ぽたっ。


何かが、つむの頭に落ちた。


「……?」


雨?


でも、お家の中。


顔を上げる。


「おかあさん……?」


泣いてる。


お母さんが泣いてる。


「なんで……?」


「……泣いてないよ」


「ないてる」


「泣いてない」


「でも……」


また、ぽたっと落ちてきた。


お母さんが泣いてるところなんて、ほとんど見たことない。


でも——。


なんでだろう。


ずっとずっと前にも、見たことがあるような気がする。


つむが、もっと小さかったころ。


お母さんがいっぱい泣いてた。


誰かがいなくなって。


ずっと、ずっと泣いてたような——。


「……おかあさん」


胸の奥が、きゅっとなる。


さっきまで、もう大丈夫だと思ってた。


わるいやつはやっつけた。


お姉ちゃんも起きてくれた。


ちゃんとお家にも帰ってきた。


だから、もう怖くないはずだった。


なのに——。


お母さんがこんなに泣いてる。


「……つむたち、だいじょうぶだよ?」


「……うん」


「おねぇちゃんも、ちゃんと元気だよ?」


「うん……そうだね」


「だから、なかないで?」


「……うん」


そう言ったのに、お母さんの涙は止まらなかった。


つむには、よく分からない。


今日のことって、そんなに怖いことだったの?


「…………」


隣を見る。


お姉ちゃんも笑ってなかった。


お母さんの背中を優しく撫でながら、難しい顔をしている。


お母さんも。


お姉ちゃんも。


いつもと違う。


「……おねぇちゃん」


「ん?」


つむは、お姉ちゃんの服をぎゅっと掴んだ。


「……?」


お姉ちゃんがつむを見る。


「どうしたの?」


「……なんでもない」


今日は、お姉ちゃんから離れたくない。


なんとなく、そう思った。


つむもお母さんの服をぎゅっと掴む。


お姉ちゃんも一緒。


三人で、ぎゅうってする。


あったかい。


いつもなら、それだけで安心できるのに。


今日は胸のところに、小さな怖いのが残ってる。


——そういえば。


つむは、お姉ちゃんを見る。


お姉ちゃんも、つむを見た。


今日のことは、二人だけの秘密。


お姉ちゃんと約束した。


だから——お母さんにも言わない。


「……?」


お母さんが首を傾げる。


「二人とも、どうしたの?」


「なんでもない!」


「……なんでもないよ、お母さん」


「そう?」


「うん!」


つむは大きく頷いた。


ちゃんと秘密にできた。


でもどうして秘密にしなきゃいけないのか、さっきまではよく分からなかった。


今だって、ちゃんとは分からない。


ただ——。


泣いているお母さん。


いつもと違うお姉ちゃん。


二人を見ていたら今日のことは、つむが思っていたよりもずっと大変なことだったのかもしれない。


そんな気がした。


だからお姉ちゃんとの約束は、絶対に守ろう。


つむは心の中で、もう一度そう決めた。


姉の名前初公開

工藤《くどう》結衣《ゆい》

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