第11話 つむのプレゼント作り
それから三日間。
つむは、お母さんとお姉ちゃんにないしょでプレゼントを作った。
一日目。
「よーし、つくるぞー!」
机の上には、そうぞうさんに作ってもらった《特殊紙粘土》。
それから、二枚の作り方の紙。
まずはお母さんの腕輪から。
そう思って紙粘土の袋を開けようとした時だった。
たっ、たっ、たっ。
廊下から足音が聞こえた。
「……!」
この足音はお姉ちゃんだ!
もうお風呂終わったみたい!しかも、こっちに来てる!
「たいへん!」
つむは急いで紙粘土と作り方の紙をまとめる。
どこに隠す!?
とりあえず、机の中!
がたっ。
「わっ」
うるさくしちゃった!
急いで全部を机の中に入れて、引き出しを閉める。
そのすぐあと。
がちゃっ。
「紬?」
「な、なぁに?」
お姉ちゃんが部屋に入ってきた。
「何してるの?」
「ううん! なんもしてないよ!」
「……そう?」
「うん!」
つむはぶんぶん首を縦に振る。
お姉ちゃんが、じーっと見てくる。
「…………」
「…………」
ばれてないよね?
「まあ、いいけど」
お姉ちゃんはそれ以上聞かなかった。
「…………ふぅ」
あぶなかったぁ。…でも、今日はもう無理そう。
一日目は、紙粘土を出しただけで終わっちゃった。
————
二日目。
机の中から隠していた紙粘土を出してみると。
「やわらかい!」
昨日と同じだった。
普通の紙粘土なら、出したままにすると固くなっちゃうのに。
そうぞうさんの紙粘土は違うみたい。
「そうぞうさん、これ、かたくならないの?」
ぴこんっ。
《特殊紙粘土(紬専用)は、製作品が完成するまで乾燥・硬化しません》
「……かんたんに!」
《完成するまでは、やわらかいままです》
「おおー!」
それなら、何日かかっても大丈夫だね!
——そして。
「おねぇちゃん、おふろはいった!」
お風呂のドアが閉まったのをちゃんと見てから、つむは部屋へ戻った。
今日は作る。
絶対作る!
「まずは、おかあさんの!」
《げんきになれるうでわ つくりかた》
紙を机の真ん中に置く。
つむは説明の絵を見ながら、紙粘土をちぎった。
「これくらい?」
ころころ。
こねこね。
細長くして、丸くする。
「あ、ここくっつけるんだ」
ぎゅっ。
「……できた?」
まだだった。
作り方の紙を見る。
次は飾り。
「おかあさん、なにがいいかなぁ」
かわいいのがいい。
「うーん……お花さん!」
小さく紙粘土をちぎる。
ぺた。
ぺた。
「はなびら、いち、に、さん……」
ちょっと曲がった。
「むぅ」
指で直す。
「あっ、こっち大きい」
また直す。
普通なら、つむにはもっと難しかったかもしれない。
でも、作り方の紙には絵がいっぱいある。
それに、この紙粘土はすごく作りやすかった。
こうしたい、って思いながら指を動かすと、ちゃんと思った形になってくれる。
「そうそう! これ!」
お花ができた。
それを腕輪につける。
「かわいい!」
でも、かわいいだけじゃダメ。
これは、お母さんにあげるもの。
つむは腕輪を両手で持った。
お母さん。
いつもお仕事してる。
朝も早く起きる。
ご飯も作ってくれる。
つむのお話も聞いてくれる。
この前だって、いっぱい心配してくれた。
「…………」
つむは、お花をもう一度きれいに直す。
「おかあさんが、ずっとげんきでいられますように」
「じゃあ、これでおかあさん元気になる?」
《効果は正常に付与されています》
「こうか……」
よく分からない。
でも、ちゃんとできたってことかな?
その時。
ぴこんっ。
また文字が出てきた。
《生産ポイントを獲得しました》
《獲得:10》
《現在:42》
「……じゅう?」
つむは目をぱちぱちさせる。
「じゅうも!?」
昨日作ったお人形さんは三だった。
ピコピコハンマーとお薬は五。
でも、これは——十!
「いっぱい!」
つむは嬉しくなって、腕輪を両手で持ち上げた。
「そうぞうさん! これ、じゅうももらえた!」
《——》
なんで十なのかは、つむには分からない。
でもお母さんのために、いっぱい考えた。
お花も自分で作った。
曲がったところも何回も直した。
それで十ももらえた。
「えへへ……」
なんだか、褒めてもらったみたいで嬉しい。
つむはもう一度、完成した腕輪を見る。
「おかあさん、よろこんでくれるかなぁ」
ぴこんっ。
すると、また新しい文字が現れた。
《提案》
《今後、製作品の性能および付与効果を正確に把握するため、《鑑定のルーペ》の製作を推奨します》
「かんてい」
知らない言葉。
「かんていってなに?」
《対象が保有する情報・性能・効果等を解析し、使用者へ可視化する行為です》
「…………」
つむは頬を膨らませた。
「そうぞうさん! かんたんに!」
ぴこんっ。
《作ったものが、どんなものなのか見て分かるようになります》
「おお!」
もう!最初からそう言ってほしい!
そうぞうさんはむずかしい言葉が好きなのかな。
「それ作ったら、このうでわがちゃんとできたか分かる?」
《はい》
「つくる!」
そう言いかけて、止まった。
「あ」
ポイント。
紙粘土を作った時に使った。今、うでわ作ったから十もらったけど……。
「でも、つむもうぽいんとあんまりないよ?」
《所持生産ポイント:42》
「よんじゅうに……」
《鑑定のルーペ》
《必要生産ポイント:40》
「よんじゅう……」
つむは指を出す。
四十二持ってる。
四十使う。
「……たりる?」
《はい》
「でも……」
四十二から四十。
「それ作ったら、あとちょっとしかのこらない?」
《残存生産ポイント:2》
「に……」
二しか残らない。
「むぅ……」
せっかく貯めたのに、いっぱいなくなっちゃう。
すると、そうぞうさんから文字が出てきた。
《《鑑定のルーペ》は、今後継続的に生産活動を行う上で、製作品の品質・性能・付与効果等を確認するために必要性の高い補助道具です》
《早期に製作した場合でも、今後の生産活動における有用性を考慮すれば、生産ポイント40の消費に対する利益は十分に見込めます》
「…………」
つむはじーっと読む。
読める。
ぜんぶ読める。
でも。
「そうぞうさん!」
《——》
「かんたんに!」
ぴこんっ。
《これからもいっぱい作るなら、ずっと使えます》
《いま作っても、もったいなくありません》
「おおー!」
それなら分かる。
これからも、つむはいっぱい作る。
お母さんのも、お姉ちゃんのも、もっといろんなものも作ってみたい。
だったら——。
「つくる!」
《生産ポイントを40消費します》
《現在 : 2》
ぽんっ。
机の上に、小さなルーペが現れた。
《獲得 : 4》
《現在 : 6》
「わぁ!」
つむはその出てきたものを持ち上げる。
虫めがねみたい。
「これで見るの?」
《はい》
「やってみる!」
完成した腕輪を机に置く。
ルーペを近づけて、のぞき込んだ。
「…………」
ぴこんっ。
文字が出てくる。
《鑑定結果》
《名称:げんきになれるうでわ》
《製作者:工藤 紬》
《品質:高》
《効果:疲労軽減・体調補助》
《装着者の身体的疲労を軽減し、体調を良好な状態へ維持する補助効果を付与します》
「…………」
また難しい。
でも、これは分かるところもある。
「げんきになれる……」
ちゃんと書いてある!
「できてる!」
嬉しくなって、腕輪を持ち上げる。
「おかあさん、げんきになる!」
やった!
つむが作った。
ちゃんと、自分の手で。
「えへへ……」
早く渡したい。
でも、お姉ちゃんのもまだ。
二人一緒に渡したいから、もう少し秘密。
——三日目。
今日も、お姉ちゃんがお風呂に入るのを待った。
お風呂場から、しゃーっと音が聞こえる。
「いまだ!」
つむは部屋に戻った。
机の上に紙粘土を出す。
今日は——。
「おねぇちゃんの!」
《身体を守るお守り つくりかた》
昨日と同じように、作り方の紙を横に置く。
紙粘土をちぎって、こねこね。
「おまもりだから……」
どんな形がいいかな。
作り方には、いくつか形が描いてある。
丸。
四角。
お花みたいなのもある。
「うーん……」
お姉ちゃん、どれが好きかな。
「ここは、お花さん入れようかな」
昨日のお母さんの腕輪にもお花をつけた。
おそろいみたいでいいかも。
「でも、おんなじだと分かんなくなる……」
ちょっと変えよう。
お母さんのお花は大きかったから、お姉ちゃんのは小さくする。
「ちっちゃいお花さん!」
ぺた。
「……あ」
曲がった。
「こっち!」
直す。
今度はいい感じ。
「かわいい!」
次は、お守りのまわり。
指で少しずつ形を整えていく。
こねこね。
ぺたぺた。
「ここ、まるくして……」
作り方の紙を見る。
「つぎは、ここ!」
少しずつ。
急ぐけど、ちゃんと作る。
だって、お姉ちゃんにあげるものだから。
つむは作りながら、あの時のことを思い出した。
モンスターが来た時。
お姉ちゃんは、つむの前に立った。
つむを守ってくれた。
それで——。
「…………」
つむは手を止める。
あの時のお姉ちゃん。動かなくなって、呼んでも起きなくて、すごく怖かった。
「もう、いたいいたいしませんように……」
小さなお花を、ぎゅっとつける。
「おねぇちゃんを、ちゃんとまもってね」
最後の形を整える。
「それから……」
いつも学校まで来てくれる。
一緒に帰ってくれる。
遊んでくれる。
分からないことも教えてくれる。
「いつも、ありがと」
その瞬間。
ぱぁっ!
「わっ!」
昨日と同じ光。
もう怖くない。
つむはじっと見つめる。
——ぽんっ。
光が消えた。
紙粘土だったお守りは、もうふにふにしていなかった。
「できた!」
つむはすぐに鑑定のルーペを取り出す。
「かんてい!」
お守りを、じーっとのぞく。
ぴこんっ。
《鑑定結果》
《名称:身体を守るお守り》
《製作者:工藤 紬》
《品質:高》
《効果:身体保護》
《装着者に対する一定以上の外的衝撃を自動的に軽減し、身体への損傷を抑制します》
「…………」
難しいところは分かんない。
でも。
《身体を守るお守り》。
ちゃんと書いてある。
「まもってくれる?」
《はい》
「やったぁ!」
つむは小さく両手を上げる。
でも、すぐに口を押さえた。
「……!」
お姉ちゃん、お風呂だった!
聞こえたかも。
つむは耳を澄ます。
しゃー。
まだお風呂の音がする。
「……よかったぁ」
つむは小さな声で笑った。
机の上には、お母さんの腕輪。
それから、お姉ちゃんのお守り。
三日かかった。
でも、どっちもつむが作った。
「えへへ……」
二つを並べる。
早く渡したい。
お母さんとお姉ちゃんどんな顔するかな。
喜んでくれるかな。
「……あした、わたそ」
そして、ちゃんと言う。
お母さんにも、お姉ちゃんにも。
「いつも、ありがとうって!」
つむは二つのプレゼントを大事にしまって、机の引き出しをそっと閉じた。




