第9話:『おにぎり処・零』、ついに開店すれど……?
こんにちは、小橋零です。
13回目の世界で無事に店舗と神田を手に入れ、『おにぎり処・零』の開店にこぎつけました。邪神の眷属も秒で追い払い、さあ商売繁盛と行こうとしたところ、近衛騎士団長が「王城へご招待!」とか言い出しやがりました。いやいや、前回のトラウマがあるんで王城の宴会なんて絶対フラグでしょ。断固拒否してやろうとしたその矢先、空の上からまたしても不穏な光の柱が……。神様、俺のおにぎり屋に何の恨みがあるんですか? 第9話、開幕です!
五柱の邪神の眷属が文字通り霧散してから数分後。
王都の裏通りは、先ほどまでの絶望的な喧騒が嘘のように静まり返っていた。遠巻きに様子を伺っていた衛兵や住民たちが、おそるおそる零の店へと近づいてくる。
「あ、あの……! いまの超特大の光景、一体何が……?」
先ほど店に飛び込んできた少女――名前をルルというらしい――が、目を丸くして震えながら尋ねてきた。
零は店先のカウンターに真新しい木の看板を掲げながら、フッと鼻を鳴らした。
「ん? いや、ただの害虫駆除だよ。それよりルル、お前暇なら手伝ってくれ。今日からここ、『おにぎり処・零』をオープンするからさ」
「は……? お、おにぎり処……? 街が滅びかけのときに、おにぎり屋ですか……?」
「街が滅びかけてるからこそ、うまいメシが必要なんだろ。腹が減っては戦もできぬって言うしな」
ツッコミどころが渋滞しすぎていてどこから手をつければいいか分からないといった顔をするルルをよそに、零はさっそく「本日のお品書き」と書いた木札を店頭に掛けた。
『特製塩むすび:金貨一牧(ただし激ウマ)』
『神田育ちの新米定食:金貨三枚』
「高っ!? おにぎり一個に金貨一牧って、この国の一般的な宿代より高いじゃないですか!」
「いいんだよ、原材料費と手間に神々の加護が乗っかってるんだから。文句言うな」
強気すぎる価格設定にルルが頭を抱えていると、先ほどの騒ぎを聞きつけたのか、王都の近衛騎士団長である厳めしい顔をした男が、部下を引き連れてガチャガチャと鎧を鳴らしながらやってきた。
騎士団長は零の顔を見るなり、その場に片膝をつき、深々と頭を下げた。
「――伝説の勇者殿とお見受けする! 先ほどは我が国の民を、そして王都を救っていただき、騎士団を代表して厚く御礼申し上げます!」
「あ、どうも。お疲れ様です。で、何か注文ですか? テイクアウトなら塩むすびがおすすめですよ」
あまりにもマイペースな零の態度に、騎士団長はわずかに眉をひそめたが、すぐに真剣な面持ちに戻って首を横に振った。
「いや、注文ではない。実は我が国の国王陛下が、あなたを王城へ招き、盛大な褒美と感謝の宴を開きたいと仰せなのだ。さあ、馬車を用意した、共に行こう!」
それを聞いた瞬間、零の顔からスッと笑顔が消え去った。
(……待て。前回の世界でも似たような流れで祝賀会に呼ばれ、その直後にビビった女神に強制送還されたぞ。これ、フラグじゃねえか?)
「断る」
「は……?」
騎士団長の固まった顔を無視して、零は腕を組んだ。
「俺は王城の晩餐会なんて興味ないね。今やりたいのは、この店で客におにぎりを食わせることだけだ。用があるなら、お前らが客として並んで金払って食っていけ」
一国の騎士団長に対してあまりにも不遜な物言い。しかし、先ほど一瞬で邪神の眷属を消し去った怪物を怒らせるわけにはいかない。騎士団長は冷や汗を流しながら、引き攣った笑みを浮かべた。
「は、はは……。流石は伝説の勇者殿、ご冗談を……」
「冗談に見えるか? ほら、邪魔だから店の前で立ちふさがらないでくれる? 通行人の邪魔になるんで」
その時だった。
王都の上空の空気が、再びビリビリと嫌な音を立てて歪み始めたのだ。
ルルが「ひっ……!」と青ざめ、騎士団長が剣の柄に手をかける。
空の裂け目から現れたのは、お馴染みの――しかし、これまでよりもはるかに禍々しい、神々しくも冷酷な光を放つ巨大な光の柱だった。
「……おいおいマジかよ」
零は頭を抱えた。まだおにぎり一個も売ってないんですけど。
第9話をお読みいただきありがとうございます!
ついに開店したおにぎり屋ですが、平和なスローライフの道のりはやっぱり遠いようです。王城からの招待を華麗にスルーした零の頭上に迫る、怪しい光の柱の正体とは一体……? そして、今度こそ零はおにぎりを売ることができるのか。
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