第8話:おにぎり屋の開店準備は、邪神の眷属の乱入で中断される
こんにちは、小橋零です。
13回目の世界で念願のレンガ造り店舗と神田を手に入れたというのに、営業開始の直前に邪神の眷属が五柱も突撃してきやがりました。せっかく育てた新米の神田を踏み荒らされたらたまったもんじゃありません。営業妨害を働く不法侵入者たちを、いつものように秒速で更地にしてやりましたよ。さて、気を取り直しておにぎりの続きをいただきますか。第8話、開幕です!
「――で、その邪神の眷属ってのは、具体的にどれくらいのサイズなんだ?」
零は片手に塩むすびを持ったまま、青い顔をした少女を見下ろして尋ねた。少女はブルブルと震えながら、王都の裏通りを指さしている。
「い、一柱が体長二十メートルはあります! しかもそれが五柱も同時に……! 街の衛兵隊じゃ足止めすらできません! 早く逃げないとこの店もぺちゃんこに――」
窓の外を見ると、遠くの空がドス黒い瘴気で渦巻いており、ゴゴゴと地鳴りのような音が響いていた。確かに普通の人間にとっては人類の存亡を揺るがす大災害だ。
零の頭の中にあるのは災害の脅威ではなく、別の問題だった。
「……あのさ。二十メートルの化け物が五柱も暴れたら、せっかく整えた裏庭の神田が踏み荒らされるよな?」
「は……? 神田、ですか……?」
「せっかく土をならして最高の新米を育ててたのに、あいつらのせいで台無しになったら誰が責任取るんだよ。営業妨害にもほどがあるだろ」
少女はポカンと口を開けた。魔王軍の残党や邪神の眷属を前にして「営業妨害」などと真剣に怒る人間など、この世界どころか全宇宙を探してもこのプロ勇者くらいのものである。
零はため息をつきながら、持っていたおにぎりを一口で胃袋に放り込んだ。
「よし、ちょっと裏の掃除をしてくる。そこのテーブルで待っててくれ。冷めないうちにすぐ戻るからさ」
「えっ、ちょ、一人で丸腰で――!」
少女の制止を無視して、零は店の裏口からスッと外へ出た。
王都の石畳の通りには、すでに周囲の住民がパニックになって逃げ惑い、黒い触手を生やした巨大な魔獣――邪神の眷属たちが、我が物顔で建物を破壊し始めていた。
「ギェエエエエッ!!」
ひときわデカいトカゲ型の眷属が、零の真新しいレンガ造りの店舗に向かって巨大な尻尾を振り下ろそうとした、その瞬間。
「おい、そこ。うちの店舗の半径五メートル以内に近づくな。新米の匂いが移るだろ」
零は面倒くさそうに右手を軽く振り上げた。
刹那、物理法則を完全に無視した超圧縮の衝撃波が空間を切り裂き、トカゲ型眷属の巨体を一瞬で粉微塵の霧へと変え、「ぽーん」と残りの四柱もまとめて王都のはるか上空の彼方へと吹き飛ばした。
わずか一秒。五柱の邪神の眷属は、音もなく王都から消え去っていた。
静まり返る通り。遠くで避難していた衛兵や住民たちは、何が起きたのか理解できずに全員が木偶の坊のように固まっていた。
零はパッと手を払い、何食わぬ顔で店に戻ってきた。
「ふう、片付いた。さて、冷めないうちに続きのおにぎりを食うか」
第8話をお読みいただきありがとうございます!
店舗と神田を守るため、邪神の眷属を文字通り「秒で」片付けてしまったプロ勇者・零。マイペースすぎる彼の日常に、住民や少女はドン引きですが、本人はおにぎりのことしか頭にありません。いよいよ次回こそ、本格的におにぎり屋の営業がスタートするのでしょうか……?
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