第5話:12回目のその後、そして訪れる不穏な予感
こんにちは、小橋零です。
魔王ガザルドを秒速で宇宙の彼方に飛ばした後、12回目の世界で盛大な祝賀会を開いてもらいました。でもね、俺が求めていたのは名誉でも金でもなく、「おにぎり屋の安定経営」なんです。
不動産屋を探していただけなのに、ビビった女神様にプレミアムVIP帰還パスで強制送還されてしまいました。そしてたどり着いた13回目の世界。もう驚きもしません。第5話、開幕です!
魔王ガザルドが星屑の彼方へと消え去ってから三日後。
世界は驚異的なスピードで平和を取り戻し、首都の大聖堂では盛大な「魔王討伐祝賀会」が開催されていた。
「おお! 救国の英雄様! あなたこそ真の勇者です!」
「我らが世界の救世主様、どうかこの黄金の盃を……!」
きらびやかなドレスやタキシードをまとった貴族たちが、まるでアイドルの出待ちをするかのような熱量で零を取り囲んでいる。しかし、当の本人である小橋零は、燕尾服の襟を鬱陶しそうに引っ張りながら、手元のグラスをチビリと傾けていた。
「いや、だから酒はいいって。それより、この国の不動産屋の連絡先教えてくんない? 南西の地区で、水が綺麗で、一階が店舗になってる物件を探してるんだけどさ」
「ふ、不動産屋ですか……? 勇者様ほどの御方が、なぜそんな庶民の商売を……?」
「うるせえよ。おにぎりを握りたいんだよ、俺は。この世界でも一店舗くらい構えないと、いつまた別の神様に拉致されるか分かんないからな」
零がやさぐれた目でため息をつくと、周囲の貴族たちは「さすが伝説の勇者様は謙虚であられる……!」と勝手に感動して勝手に涙を流し始めた。話が通じない。これがプロの異世界転生者としての宿命なのかと、零は遠い目をする。
そんな中、会場のひときわ高い壇上で、前回零を召喚したあの女神が冷や汗をダラダラと流しながらブルブルと震えていた。
(ひぃっ……! なんというプレッシャー……! 魔王を一突きで葬り去っただけでなく、もはやこの世界の全権を握る勢いではないか! は、早くあの化け物を元の世界へお帰りいただかねば、我が神界の威厳が完全に崩壊してしまう……!)
女神は震える手で『完全保証付きプレミアムVIP帰還パス』を取り出し、光り輝く魔法陣を零の足元へそっと、しかしものすごいスピードで展開した。
(頼む! 今すぐ帰ってくれ! 二度と呼ぶな! 零様、永久にさようなら!)
「ん? なんか足元が光っ――おい、ちょっと待て! まだ物件の契約が済んでねえぞ!」
「勇者様の偉業に感謝いたします! 良い旅路を! さらばだぁぁぁっ!」
女神の半狂乱の叫びと共に、視界を眩い光が埋め尽くす。
まただ。またこのパターンだ。商売を始めようとすると、決まって神様が強制送還ボタンを連打してくる。
「ふざけんなぁぁぁっ! 俺のおにぎり屋ぁぁぁっ――!!」
絶叫を残し、零の体は光の粒子となって12回目の世界から強制的に弾き出されたのだった。
そして――。
――ポンッ。
「――というわけで、小橋零くん! 君を再びこの世界に召喚した!」
目の前に広がる、真っ白な大理石の神殿。窓の外に見える、見覚えのある浮遊大陸。
頭上で神々しく発光する、今度はやたらとテンションの高い新しい女神像。
零は、床にうずくまり、両手で顔を覆ったまま、心底どうでもよさそうにつぶやいた。
「……なぁ。もう数えるのも面倒くさいんだけど、今度で何回目だっけ?」
第5話をお読みいただきありがとうございます!
めでたく12回目の世界を救い(物理)、ちゃっかりおにぎり屋を開こうとするも神様に嫌がらせの如く強制送還されてしまった零。気づけば13回目という驚異の数字に突入してしまいました。いよいよ常識がすり減ってきたプロ勇者の今後はどうなるのか。
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