第25話:神界からの使者、ふたたび――『究極のお米コンテスト』の招待状
こんにちは、小橋零です。
元・天才美食王のリュシアンヌがすっかりまじめな竈の住人となり、我が『おにぎり処・零』は今日も平和にお米の香りに包まれています。……が、平穏な日常というものは、大抵お呼びでない来客によって破られるものらしいです。今回は、以前我が店で大恥をかいたはずのあの「システム管理の神様」が、なぜか大慌てで飛び込んできたというお話です。第二章第25話、開幕です!
その日、王都は抜けるような青空が広がっていた。
『おにぎり処・零』の昼のピークタイムが過ぎ、ルルがテラス席のテーブルを吹き上げ、ゼクシードが優雅な手つきで食器を片付けている。裏庭からは、薪割りをするリュシアンヌの「フンッ! ハッ! 師匠への愛ィィッ!」という暑苦しい掛け声が聞こえてくる。
零はカウンターで大釜のメンテナンスをしながら、のんびりとあくびを噛み殺していた。
「ふあーあ……今日もいいペースで完売したな。このままのんびりと昼寝でも……」
そう呟いた瞬間だった。
店の中心、ちょうど客席とカウンターの間の空間が、唐突にぐにゃりと歪んだ。
ピカァァァッ! と、目を開けていられないほどの神々しい(そして非常に胡散臭い)七色の光が店内にあふれ出し、天使のラッパのようなBGMがどこからともなく鳴り響く。
「な、なんだ!? また敵の襲撃ですか!?」
裏庭からリュシアンヌが包丁(※玉ねぎのみじん切り用)を構えて飛び出してくるが、零は呆れ顔でその光の発生源を見つめていた。
「……おい。またお前かよ。前回のバクバク魔獣の件で、次変なこと持ち込んだらみたらし団子にするって言ったの忘れたのか?」
光が収まった後、そこに土下座の姿勢でスライディングしてきたのは、お馴染みの「システム管理の神様」だった。
「ま、待ってくれ零くん! 違うんだ! 今日は私個人のドジじゃない! 神界のトップ……『最高神』からの直々の勅命を持ってやってきたんだよぉ!」
神様は涙目でそう叫ぶと、懐から仰々しい黄金の巻物を取り出し、うやうやしく掲げた。
「最高神? あの、俺に『完全フリーダム・永住パス』を発行するハンコを押した一番偉い神様か。それがわざわざ俺に何の用だ? クレームなら受け付けねえぞ」
「ち、違う! 実は……前回の『宇宙神代米』の事件が、神界の幹部たちの間で大きな話題になってしまってね……」
神様が冷や汗を拭いながら語ったところによれば、こうだ。
神界の秘宝である「宇宙神代米」は、本来、神界の超一流の専属料理神たちにしか扱うことが許されない代物である。
あの事件の後、バクバク魔獣が吐き出した米を使って零が握った「究極の宇宙塩むすび」の噂(と、それを食べて昇天した騎士団長の放った異常な魔力波)が、神界にまで届いてしまったらしい。
「神界の料理神たちが、『人間の、しかもただの塩むすび屋ごときに神代米のポテンシャルを100%引き出せるはずがない! 我々のプライドにかけて、その男と料理対決をさせろ!』と最高神に直訴したんだよ。それで……」
神様は黄金の巻物をスルスルと広げ、咳払いを一つして読み上げた。
『――よって、人間界の料理人・小橋零を、十日後に神界にて開催される【神聖・究極のお米コンテスト】に特別招待する。神界の料理神たちと米料理で勝負し、もし勝利すれば、いかなる干渉も受けない【真・絶対不可侵の権利】と、全次元の食材の生涯無料提供を約束しよう。ただし、敗北した場合は、その店ごと神界に強制移転させ、永劫に神々のための社食として働くこと!』
読み終えた瞬間、店内は水を打ったように静まり返った。
「…………は?」
零の手の中で、ピキィッ、と木製のしゃもじが真っ二つに折れた。
「店ごと強制移転だと? 神々の社食? ふざけんな、俺は王都の裏通りで、ルルやこいつらとスローライフを満喫するって決めてんだ。誰がそんな面倒な――」
「お、お待ちください師匠ォォォーーッ!!」
零が断ろうとしたその時、リュシアンヌが涙を流しながら足元にすがりついてきた。
「こ、これはまたとない好機です! 師匠の握る塩むすびが、単なる人間界の美食にとどまらず、神々すらも平伏させる『全次元最高の料理』であることを証明するチャンス! このリュシアンヌ、師匠の右腕(助手)として、神界の厨房で玉ねぎの皮を剥く覚悟はできております!」
「いや、おにぎりに玉ねぎは使わねえよ」
冷静にツッコミを入れる零の横で、ゼクシードも楽しそうにふっと微笑んだ。
「くくく……かつては侵略者として乗り込もうとした神界に、まさか料理人の助手として赴くことになるとは。運命とは面白いものですな、主。私も皿洗い兼、魔力ガードとして同行いたしましょう」
ルルも両手でギュッと拳を握りしめ、目をキラキラと輝かせている。
「零さん! 私も接客と、お米の浸水係として頑張ります! 神様たちにも、零さんの最高のおにぎり、食べてもらいましょうよ!」
従業員たちのあまりのやる気(と謎の団結力)に、零は思わず天を仰いで大きな溜息をついた。
「……お前らなぁ。神界での料理対決だぞ。どれだけ面倒なルールの押し付けや、食材の妨害があるか分かったもんじゃない」
「そ、それについては安心してくれ! 審査は完全なる公平を期すし、食材の持ち込みも自由だ! お願いだ零くん、君が受けてくれないと、連帯責任で私がスライムに降格されちゃうんだよぉ!」
床に額を擦りつけて泣き喚く神様を見下ろし、零はもう一度深く、深く息を吐き出した。
「……勝ったら、『真・絶対不可侵の権利』が手に入って、もう二度と面倒な魔王や神のお使いは来なくなるんだな?」
「ほ、本当だ! 最高神のハンコ付きだ!」
「全次元の食材も生涯無料だな?」
「誓う! 誓うからぁ!」
零は頭をガシガシと掻きむしり、厨房の奥にある神田の方向を見やった。そこには、先日収穫の時期を迎えたばかりの、最高傑作の『黄金こまち』が黄金の波を作っている。
「……まあ、いいさ。神界の連中に、ただの『塩むすび』がどれだけ恐ろしいポテンシャルを秘めてるか、たっぷりと教えてやるよ。おい、ルル、ゼクシード、リュシアンヌ!」
「「「はいっ!」」」
「これから十日間、神界のコンテストに向けた究極の塩むすびの試作に入る。店の営業は通常通りやりつつ、寝る間も惜しんで特訓だ。気合い入れろよ!」
「「「おうっ!!」」」
王都の小さな『おにぎり処・零』から、全次元を揺るがす料理バトルへの挑戦状が叩きつけられた瞬間だった。
「ひぃぃ、よ、よかったぁ……!」と安堵してへたり込む神様をよそに、零の目はすでにプロの料理人としての鋭い光を放っていた。
「出張営業先が神界ってだけだ。最高の米と塩を用意してやる」
第25話をお読みいただきありがとうございます!
平和な日常から一転、まさかの神界での料理対決「究極のお米コンテスト」に招待(という名の強制参加)されることになってしまった零たち。神々の料理人に対して、人間界の塩むすびはどう立ち向かうのか? そして従業員たちの謎の結束力の行方は? 次回からの神界編、どうぞお楽しみに!




