第19話:異世界からの来訪者、再び――今度は「伝説の米泥棒」!?
こんにちは、小橋零です。
空の上で宇宙の美食魔王グラトニスを塩むすびの旨味でひれ伏させ、裏庭の敷石にリサイクルしてから数日。我が『おにぎり処・零』は相変わらず平和……といいたいところですが、どうやら我が店の「極上の新米」を狙う不逞の輩は、宇宙の彼方からだけでなく、別の次元からもやってくるらしいです。第二章第19話、開幕です!
午後のティータイムが一段落し、店内のカウンターには午後の仕込みを控えた静寂が戻っていた。
元・次元の魔神であるゼクシードが、神がかった手際でピカピカのグラスを拭き上げ、看板娘のルルが「ふう、今日もよく売れましたね!」と額の汗を拭っている。
その横で、店主の零は新しいおにぎりの具材――「自家製かつお節の醤油和え」の味見をしながら、ふと窓の外を見た。
「……ん?」
王都のメインストリートの向こう側から、なにやらただならぬ、しかしどこか見覚えのある胡散臭い光の粒子がフワフワと漂ってきたのだ。
「旦那、どうかしましたか?」
グラスを拭く手を止め、ゼクシードが怪訝そうに尋ねる。
「いや、なんかこう……ものすごく嫌な予感がする波動を感じる。あれは確か、前にシステムバグを起こして俺に『完全フリーダム・永住パス』を押し付けやがった、あの胡散臭いシステム管理の神様の気配にそっくりだぞ」
零が顔をしかめたその瞬間、店の入り口のドアベルが「カランコロン!」と軽快な音を立てて開いた。
「やあやあ小橋零くん! 元気にやってるかい!?」
そこに立っていたのは、七色に発光する神々しい衣を纏いながらも、どこか必死な顔をした「システム管理の神様」その人だった。しかも、その手にはなぜか、異世界特有の禍々しい巨大な麻袋がパンパンに詰め込まれて抱えられている。
店内の空気が一瞬でピリッと凍りついた。
ルルが「ひっ……! 神様……!?」と青ざめ、ゼクシードが「おや、私の前職の上司ではないか……」と目を細める。
零は包丁をトントンとまな板に置くと、作り笑いすら浮かべずにジト目で神様を睨みつけた。
「……おい。お前、なんの用だ。まさか『永住パス』を発行した後に規約改定でもあったのか? それとも、また勝手にどっかの世界の魔王を俺の裏庭に召喚しようってのか?」
「ち、違う違う! 今回は仕事の愚痴じゃないんだ! 命乞い……いや、救済のお願いに来たんだよ!」
神様は冷や汗を滝のように流しながら、店内にズカズカと上がり込み、持っていた巨大な麻袋をカウンターの前にドサリと置いた。
「なんだそれ、お前の私物か?」
「違う! これを見てくれ!」
神様が麻袋の口をキュッと開けると、中から飛び出してきたのは――真っ黒な煤まみれで、頭から小さな角を生やした、小柄でトカゲのような見た目の謎の生物だった。その生物は、よだれをダラダラと垂らしながら、カウンターの上に置いてあった試食用のおにぎりに手を伸ばそうとして、ゼクシードに「コラ!」と尻尾を叩かれて「キュイ!?」と情けない声を上げた。
「こいつはだな、『次元喰らいの害獣・バクバク魔獣』といってね、我が神界の裏手で栽培していた『宇宙神代米』の原種をすべて食い荒らし、さらに次元の穴を勝手に開けて逃げ回っている、とんでもないトラブルメーカーなんだよ!」
神様が必死に説明するのを、零は腕を組んで冷ややかに聞いていた。
「で? そのトカゲみたいなのが米を食い散らかしたから何だってんだ。ここは神界じゃなくて、王都の一等地にある『おにぎり処・零』だぞ。害獣退治なら神界の自警団でも呼んでやってもらえよ」
「それができないから困ってるんだよ! こいつの胃袋は特殊な次元結界で守られていてね、神界のいかなる神聖魔法も物理攻撃も一切通じないんだ! だがね、小橋零くん……君のその、全カンストのステータスから繰り出される『おにぎりへの愛と執念』の拳なら、こいつの味覚を完全にノックアウトして、自白(?)させられるかもしれないんだ!」
零の眉間にかすかな青筋が浮かび上がった。
「……お前、今なんと? 俺の『おにぎりへの愛と執念』を、害獣の調教に使おうってのか?」
「ち、違う! 調教じゃなくて、その……お米のありかを吐かせてほしいんだ! こいつが全部食い荒かしたせいで、来期の神界の新年会のおにぎりが作れなくなっちゃうんだよ! このまじゃ私の神としての評価がガタ落ちで、リストラされちゃうんだよぉ!」
大の大人(神)が、カウンターにしがみついてポロポロと涙を流している。
ゼクシードが「……神界の管理職も、なかなか大変だな」と妙に同情的な目を向けている横で、零はジッとその「バクバク魔獣」を見下ろした。
トカゲ型の魔獣は、びくびくしながらも、零の指先から漂ってくる『黄金こまち』の炊きたての香りに鼻をヒクヒクさせている。
「……ふむ。お前、さっき『宇宙神代米の原種』を食ったって言ったな?」
零の目が、急にプロの料理人の鋭い光を帯びた。
神様はキョトンとしながら頷いた。
「あ、ああ、そうだが……?」
「そいつは、うちの裏庭で育ててる『黄金こまち』より美味いのか?」
「そ、そりゃあ神界の秘宝だからな! 味の深みも香りも桁違いのはずさ……って、おい零くん、何をする気だ!?」
零はふっと不敵な笑みを浮かべ、空間収納から「これまでで最高の出来栄えを誇る特製・塩むすび」を一個だけ取り出した。
「決まってるだろ。うちの塩むすびの旨味で、そいつの胃袋の次元結界ごと味覚を制圧して、『次にうまい米を食うためには、どこに行けばいいか』をゲロさせてやるよ」
第19話をお読みいただきありがとうございます!
神様が持ち込んできた新たなトラブルは、まさかの「宇宙神代米を食い荒らす謎の害獣」。しかし、おにぎりに対する情熱(と執念)を持つ零の前では、どんな次元結界もただの「お腹の空いた胃袋」にすぎません。次回、塩むすびの魔力による衝撃の尋問(?)シーンにご期待ください!




