第20話:塩むすびの尋問、または「宇宙神代米」の秘密
こんにちは、小橋零です。
神界の不手際で『おにぎり処・零』に連れてこられた「次元喰らいの害獣・バクバク魔獣」。神界の秘宝である宇宙神代米を食い荒かしたというそのトカゲ型生物に対し、私の手による「塩むすびを用いた強制グルメ尋問」がいよいよ始まります。神様がガタガタ震えて見守る中、おにぎりの魔力は害獣の胃袋をどう攻略するのか――? 第20話、開幕です!
「バクバク魔獣」と名付けられた小柄なトカゲ型生物は、零が取り出した「特製・塩むすび」から立ち上る湯気と香りに、あきらかに瞳孔をかっぴそいていた。
キュイ、キュイと怯えたような鳴き声を上げていたはずが、今やその喉からは「ゴクッ……」という野太い生唾を飲み込む音が聞こえる。
「ほら、食いたかろ?」
零は包丁を片手に、まるで猛獣をあやすかのように塩むすびをふわりと宙に浮かせてみせた。
「こいつはな、王都の裏庭の神田で俺が愛情と全ステータス補正を込めて育てた『黄金こまち』を、最高級の岩塩で一粒一粒の旨味を引き立たせた至高の塩むすびだ。神界の秘宝とやらに負けてるかどうか、その舌で確かめてみろよ」
『ま、待て零くん! そんな至高の品をその害獣に与えたら、胃袋の次元結界がさらに強化されて手がつけられなくなるんじゃ……っ!』
神様が冷や汗を拭いながら必死に止めようとしたが、時すでに遅し――いや、零の計算の手際が圧倒的に早かった。
零が指を軽く弾いた瞬間、塩むすびは極超音速で魔獣の開いた口へとスポリと飛び込んだ。
『キュイ……!?』
魔獣の全身がビクンと硬直した。
次の瞬間、魔獣の目がカッ! と眩い黄金色に光り輝いた。その小さな身体から、まるで星雲の爆発のような甘く芳醇なコメの香りがブワッと吹き出す。
「お、おい、なんだこれ……!? 奴の身体が発光してるぞ……っ!?」
神様が腰を抜かしてひっくり返る横で、元・次元の魔神ゼクシードは目を細めて分析を始めた。
「ふむ……。これは物理的な胃袋の崩壊ではありませんね。主の握った塩むすびの圧倒的な旨味エネルギーが、魔獣の体内に蓄積されていた『宇宙神代米』の成分と共鳴を起こし……味覚の次元から、全ての記憶を逆流させている……ッ!」
ゼクシードの解説通り、魔獣の口からシャボン玉のような無数の光の泡がポコポコと吐き出された。
その光の泡の中には、次々と奇妙な景色が映し出されていく。きらびやかな星々が輝く神界の奥深く、一般の神々すら立ち入ることができない「禁断の神代農園」の姿だった。
『キュイーーッ……! う、旨い……! 旨すぎるぞこれぇ……! あの塩気と米の甘みのハーモニーは、私の人生(魔獣生)で食べたどの宇宙神代米よりも魂を揺さぶるぅ……!!』
魔獣は感動のあまり、ポロポロと大粒の涙を流しながら床を転げ回った。
そして、その腹の底から、神様が聞き耳を立てていた「秘密」が盛大にゲロ(自白)されたのだ。
『わ、私が宇宙神代米を食い荒らしたというのは半分は本当だが……残りの半分は、神界のあの無能な管理神が、予算を横領して農園の手入れをサボっていたせいで、米が勝手に野生化して自滅したのを私のせいにしただけだぁーーっ!!』
ピキィーーーン……! と、店内の空気が凍りついた。
零とゼクシード、そしてルルの視線が、一斉に真っ青になった神様に突き刺さる。
「……なぁ、神様?」
零が、先ほどよりも一段と低い、全カンストのプレッシャーを纏った声で微笑んだ。
「い、いや、これはだな零くん! 誤解というか、その……予算の都合というか……!」
「お前、自分の失態をこのトカゲに濡れ衣着せた上に、俺の店に押し付けて隠蔽しようとしたのか?」
『ひぃぃぃーーっ! 命だけはぁーーっ!!』
神様が床に土下座してジタバタと暴れ始めたその時、魔獣は満足したのか、コテンと気を失い、そのお腹の中からピカピカと輝く「本当の宇宙神代米の原種」がポロリと転がり出た。
ルルが目を丸くしてそれを拾い上げ、「わぁ……すごく透き通った、綺麗なお米です……!」と声を漏らす。
零はその米を一つまみし、指先で感触を確かめると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ふん。まあいい。結果的に、うちの店の新しい隠し味になりそうな面白そうな米が手に入ったからな」
零は呆れたように肩をすくめると、恐怖で震える神様を一瞥した。
「おい、神様。今日のところはその隠蔽工作も、このトカゲが美味い米を吐き出したってことでチャラにしてやるよ。ただし――」
「た、ただし……!?」
「今度また変な面倒ごとを持ち込んできたら、お前の頭を『黄金こまち』のすり鉢にして、王都の広場で特製みたらし団子を作ってやるから覚悟しとけ」
『ひっ……! 承知いたしましたぁーーっ!!』
神様は泣きながら消え去るように逃げ出し、店の中には再び平和な静けさが戻ってきた。
カウンターの床ですやすやと眠るバクバク魔獣を見下ろしながら、零は新しく手に入った「宇宙神代米」の入った麻袋をトントンと叩いた。
「さて、この未知の米を使って、今度はどんな極上のおにぎりを握ってやろうか」
第20話をお読みいただきありがとうございます!
塩むすびの圧倒的な旨味の前には、どんな害獣の次元結界も、そして神様の嘘も通用しないという痛快な尋問回でした。手に入れた「宇宙神代米」で零がどんなおにぎりを作るのか、次回もお楽しみに!




