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異世界転生、11回目です。〜プロ勇者は今日も神様の手違いにため息をつく〜  作者: 凪塩 未来


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外伝第5話(最終話):おにぎりの向こう側、無限に広がるスローライフ

こんにちは、小橋零です。

最強のステータスを持ちながら、なぜか王都の一角でおにぎり屋を営んでいる私ですが、元・次元の魔神ゼクシードをアルバイトに迎え、看板娘のルルは日々めきめきと腕を上げ、店は今日も大繁盛です。本編から外伝へと続いてきたこの物語も、いよいよ今回が最終話。おにぎりとスローライフを愛するすべての人へ贈る、零の日常の集大成をお届けします。外伝第5話(最終話)、開幕です!

午後の柔らかい日差しが、『おにぎり処・零』の木のカウンターを温かく照らし出していた。

ランチのピークタイムを過ぎ、店内にようやく穏やかな静けさが戻ってきた頃。ルルは満足そうな顔でエプロンのポケットをトントンと叩き、ゼクシードはテキパキとカウンターの拭き掃除をこなしていた。


「ふう、今日も大繁盛でしたね、零さん!」

「ああ、お疲れ様。仕込みの米もすっかりキレイになくなったな」


零はカウンターの端に腰掛け、自分へのご褒美にと、今夜の試作用に握ったばかりの「特製・卵黄の醤油漬け塩むすび」をじっと見つめていた。

黄金色のとろりとした卵黄が、ふっくら炊き上がった『黄金こまち』の中心に鎮座し、香ばしい海苔に包まれている。言うまでもなく、美味しくないわけがないビジュアルだ。


「しかし、旦那……」

ふきんを片手に持ったゼクシードが、少しだけ遠慮がちに声をかけてきた。

「なんだ、ゼクシード。皿洗いに不満でもあんのか?」

「いえ、そうではなく……。私のような元・次元の魔神が、こうして人間界の片隅で毎日おにぎりを握ったり洗ったりしているのは、客観的に見てどうなのだろうかと、時々哲学的な疑問に駆られましてね」


ゼクシードの真面目すぎるボヤキに、ルルが「何言ってるんですか、ゼクシードさん。おにぎりを美味しく作ることに比べたら、次元を喰らうとか野暮なことより何倍も尊い仕事ですよ!」とピシャリと言い放つ。

ゼクシードは「はは……ごもっともで」と苦笑いを浮かべた。


零はそのやり取りを眺めながら、フッと小さく笑った。

「哲学なんて難しいことはいいさ。俺たちがやってるのは、ただ『腹を空かせた奴に、最高に美味いメシを食わせる』。それだけだろ」


零の言葉に、ゼクシードもルルも深く頷いた。

思えば、この世界にやってくる前、零は何度も何度も理不尽な神様のシステムに巻き込まれ、あちこちの世界で魔王をぶっ飛ばし、地球と異世界を駆けずり回っていた。あの頃の自分にあったのは「早く平穏な日常に戻りたい」という焦りだけだったかもしれない。


しかし、今は違う。

王都の裏通りにあるこの小さな店には、騎士団長も、農民たちも、そして元・魔神すらもが、ただ純粋に「美味しいおにぎり」を求めてやってくる。戦いなんて起きない。起きるとしても、今日のおかずは何にするかという平和な議論だけだ。


「――おや、お客様かい?」


店の外からカランコロンとドアベルが鳴り響いた。

扉を開けて入ってきたのは、かつてミラ村でお世話になった村長のおじいさんと、数人の村人たちだった。彼らの背後には、大きな木箱がいくつも積まれている。


「やあ、勇者殿! いや、今は『おにぎり屋の旦那』か。いやあ、今年の『黄金こまち』も大豊作でね、一番出来のいいやつを真っ先に持ってきたぞ!」

「村長さん! わざわざ遠いところからありがとうございます!」


ルルがパッと明るい笑顔で駆け寄り、ゼクシードも「お荷物をお預かりします」とスマートに木箱を受け取る。

村長は店の中に漂う炊きたてのご飯の匂いを深く吸い込み、うっとりとした表情を浮かべた。

「やっぱり、この店の前を通ると腹が鳴るわい。旦那、今日もいつもの『特製塩むすび』を一つ頼めるか?」


「あいよ、任せとけ!」


零は包丁を置き、手際よく、しかし一粒一粒の米に全神経を集中させながら、新しいおにぎりを握り始めた。

手のひらの温度が米に伝わり、絶妙な塩気が全体を包み込む。


かつて数々の世界を救ってきた最強の魔力は、今やこの一握りのおにぎりを完璧な状態に仕上げるためだけに存在しているかのようだった。


スッ、と村長の前に差し出された、湯気の立つ温かい塩むすび。

村長がそれを両手で包み込み、ガブリとかじりついた瞬間、店中に温かい笑顔の輪が広がった。


「――うまっ。相変わらず、涙が出るほど美味いな……」


その光景を眺めながら、零はポケットからあの「完全フリーダム・永住パス」をそっと取り出し、文字盤を眺めた。

どこへでも行けるはずのその黒曜石のカードは、今はどこへも行く必要のないこの店のカウンターの片隅で、ただ静かに光を放っている。


「どこへ行く必要もねえな。俺の居場所は、いつでもここにあるんだからさ」


零が呟いたその言葉に、ルルもゼクシードも、そして村長たちも揃って大きく頷いた。

窓の外では、王都の夕焼けが黄金色に染まり始め、明日へと続く新しい夜の訪れを優しく告げている。


数々の世界を救った最強のプロ勇者の、美味しくて、温かくて、最高に平和な「おにぎりライフ」は、これからもずっと、この小さな店から無限に広がっていくのだった。


全5話にわたる外伝、そして本編をお読みいただき、本当にありがとうございました!

最強主人公がすべてを投げ打っておにぎり屋の開店に命(とステータス)をかけるという、ちょっとシュールで心温まるドタバタ異世界ロード、いかがでしたでしょうか。

零が握るおにぎりのように、この物語も読者の皆様の心と小腹を少しでも満たせていたなら幸いです。

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